報恩坊の怪しい偽作家!

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“Gynoid Multitype Cindy” 「ツアー客が消えた?」

2017-02-15 10:44:34 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月30日17:30.天候:雨 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 社長室内の応接セットに座る警視庁幹部の2人と敷島。
 成り行き上、井辺も敷島の隣に座っている。

 鷲田:「まず、そちらさんで何が起きているのか話してもらおうか。何か、私らに届け出ることがあったようだが……」
 敷島:「はあ……」

 エミリーが鷲田達にコーヒーを持って来る。

 エミリー:「失礼します」
 村中:「お、こりゃどうも」

 敷島の話を聞いた鷲田は鼻を鳴らした。

 鷲田:「大したことない。ツアー参加者は研究職が多いのだろう?」
 敷島:「まあ、そうですね。結局、館員さんも来館者に詳しく説明できる人がいいってんで、そういう人が多いですから」
 鷲田:「もちろん研究員とはいえ人間だし、一民間企業が慰安旅行に行くくらい、当然のことだ。だがしかし職務上、色々と秘密保持とかうるさいんじゃないのかね?」
 敷島:「そりゃそうでしょう」
 鷲田:「プライベートであってもそういった制約が課されるというのに、ましてや今回は会社主催の慰安旅行。つまり、会社の行事だ。広い意味ではそれも業務と捉えるのであれば、旅行中ハメを外して秘密を洩らさないように努めるものなのではないかね?」
 井辺:「それは有り得ますね」
 鷲田:「なるべく、外部と余計な連絡を取らないように決めているのかもしれん」
 敷島:「ですが、同じ職員の人とも連絡を取らないというのは違うでしょう?」
 鷲田:「何か、事前の取り決めなどですれ違いがあったのだろう。小山副館長とやらは自分とだけは連絡を密にするように言ったのかもしれんが、幹事の方はそれすらもダメという風に捉えたか」
 敷島:「どういう耳をしたら、そういう風に聞こえるんですか」
 鷲田:「それは本人に言いたまえ。とにかく飛行機はダイヤが乱れつつも、無事に新千歳空港に着いた。そこから札幌市内では電車かバス、どっちで行ったか知らんが、それでも無事にホテルに着いた。今頃、どこかビール園にでも行って、ドンチャン騒ぎでもやるんだろう。どこが問題かね?」
 敷島:「だから、連絡が取れないというのが……」
 村中:「でもね、敷島社長。ちゃんと彼らの足取りは取れてるんだ。行方不明になったわけじゃない。個人的な連絡が取れないくらいで、事件の臭いだとするのは……ちょっと早合点だと思うな。飛行機そのものが行方不明になっただとか、空港から先の足取りが全く掴めないとか、そういうんだったら確かに事件だけどね」
 敷島:「……で、鷲田さん達は何の用で来たんですか?」
 鷲田:「それなんだがな、俺達は別の事件の臭いを嗅ぎつけてやってきたんだ。舞台は奇しくも北海道だ」
 敷島:「えっ?」
 村中:「KR団は組織的には正式に崩壊したけれども、まだ散り散りになったメンバー全員を逮捕できていないのは知っているでしょ?中にはKR団の再興を目指している者もいる。新KR団だな。先日、それを旗揚げした別のメンバー達は全員逮捕した」
 敷島:「あっ、マジですか」
 鷲田:「警察だってやる時ゃやるぞ。だから今、『新KR団』を名乗る組織はどこにも無い。だが、旧メンバーでまだ逃走を続けている奴らがまた別の組織を作ろうとしている話を聞いた」

 警察が新KR団のアジトを捜索したり、逮捕したメンバーの尋問でもって得た情報である。

 鷲田:「それによると、北海道にそのアジトがあるらしいんだ」
 敷島:「アリス達、大丈夫かなぁ?」
 村中:「普通なら連絡を取ろうとしないのは、逆にそんな連中から動きを悟られないようにってことで警戒しているからという風に見れるよね?」
 敷島:「あ、なるほど。そういうことか……」
 鷲田:「ところが、そんな暢気な風にも行かなくなってきた」
 敷島:「と、言いますと?」
 鷲田:「キミの奥さんだ。キミの奥さん、旧姓は何だ?」
 敷島:「フォレストですね。ウィリーに引き取られたので、ウィリーの名字をもらったそうですから」
 鷲田:「その前の名字は?」
 敷島:「えっ?前の名字?」
 村中:「キミの奥さんは、生まれてすぐ捨てられた捨て子だったのかい?」
 敷島:「いや、そんなはずは……ないと思いますが。確か小さい時に両親が行方不明になって、他に身寄りが無かったもんだから、施設に入ったんだと……」
 鷲田:「ということは、その時に名乗っていた名字があるはずだ。それを知らないのかね?」
 敷島:「いや……何しろデリケートなことだから、その辺はあんまり……」
 井辺:「警視達は社長の奥様の最初の名字を知って、どうなさろうというんですか?」
 村中:「実は件のアジトに踏み込んで色々と証拠品を押収したわけだが、その中に初期の頃から現在に至るまでのメンバーの名簿が見つかってな。その中にアリスと名乗るヤツがいるんだよ」
 敷島:「警視、アリスという名前は英語圏の女性にはよくある名前ですよ。何も珍しい名前じゃない」
 鷲田:「もちろん、そんなことは百も承知だ。メンバーの中に『アリス・ホーゲルマン』という名前のヤツがいてな、備考欄にこう書いてあったんだ。『2007年現在、フォレスト姓』とな」
 敷島:「今から10年前ですか。確かにその時のアリスは、ウィリーの孫娘として育てられていたはずです。だから名字もフォレスト……」
 村中:「メンバーの中に、ホーゲルマンを名乗る……恐らく夫婦であろう者達がいてね。まさかとは思うのだが……」
 鷲田:「本人に話を聞きたいと思ったのだが、北海道に行ってしまったということで、もしかしたらキミは知ってるんじゃないかと思ってね」
 敷島:「いや、私は何も……」
 村中:「もう1人の秘書さんでも良かった。恐らく、社長夫人をウィリアム博士が引き取ってからのことを記憶しているだろうからね」
 井辺:「2泊3日の旅行ですから、明後日には帰って来られます。その時でよろしいんじゃないでしょうか?」
 鷲田:「……だといいんだがな」
 敷島:「警視?」
 鷲田:「いや、そこの社員さんの言う通りだ。明後日というのは2月の1日か。その日、何時に帰って来るのかね?」
 敷島:「ちょっと待ってください。エミリー」
 エミリー:「はい」

 エミリーは敷島の机の引き出しを開けて、中から1枚のプリントを出した。

 敷島:「ANA68便、新千歳空港離陸が15時30分で、羽田空港到着が17時10分ですね」
 鷲田:「迎えに行くのかね?行くんだろ?」
 敷島:「心配だから行きますよ」
 鷲田:「よろしい。ではその時、状況を私に伝えてくれ。無事に帰って来たのなら、それで良い。但し、話は奥さんから直接聞かせてもらう。で、もし無事に帰って来ないようだったら……」
 敷島:「やめてくださいよ!」
 井辺:「取り越し苦労ですよ。奥様はちゃんと帰って来られます」
 敷島:「そうだそうだ!」
 村中:「や、こりゃ失礼したね。警視、そろそろ帰りましょうか」
 鷲田:「うむ……」

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