[4月24日09:45.天候:晴 JR旭川駅 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・スカーレット]
〔「4番線に停車中の列車は9時55分発、函館線特急“スーパーカムイ”16号、札幌方面新千歳空港行きです。発車までご乗車になり、お待ちください。……」〕
新しい駅舎の階段を登り、高架ホームに上がると5両編成の新型特急が停車していた。
ホームと階段の間に仕切り扉があるのは、いかにも極寒の地らしい。
〔「……4号車は指定席uシート車です。乗車券の他、指定席特急券が必要です」〕
「藤谷班長が乗った785系とは違いますねー」
そう言いつつ、4号車に乗り込むユタ。
「師匠。寝るなら、せめて乗ってから!」
「参ったよぉ……。夜中も来訪者が来るなんて……」
「師匠も魔道師の世界じゃVIPなんですから、当たり前じゃないですか」
「たははは……」
ユタは座席をくるっと向かい合わせにした。
「いいんじゃない?そのままで。どうせ師匠寝てるし」
「いえ、札幌で進行方向が変わるんですよ」
「そうなの?」
「先生は窓側に座って頂いて……」
「うぃー……着いたら起こしてね……」
イリーナは頭からローブのフードを被り、あとは座席を倒して爆睡モードに入った。
旧型の785系と比べてヘッドレストは浅いが、上下可動式のピローが付いている。
「空港まではどのくらい?」
「2時間ちょっとですね」
「そんなものか」
「そんな所です」
その割には車販は無いので、ホームの売店で用意する必要あり。
ユタは帰りの旅に必要なチケットを全て出した。
「飛行機の時間が14時30分。この電車の新千歳空港着が12時2分です」
「約2時間か」
「国内線だから、そんなに急ぐ必要も無いでしょうからね。また、あの温泉入ってみます?」
「おっ、いいね。師匠、温泉ですって」
「クカー……」
「ダメだ。寝てる」
「この魔道師は……」
2人の弟子は寝付きの早い師匠に呆れた。
[同日09:55.JR函館本線L特急“スーパーカムイ”16号4号車内 ユタ、マリア、イリーナ]
電車は静かに旭川駅を定刻通りに発車した。
〔これから先、揺れることがありますので、お気をつけください。お立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まりください。今日もJR北海道をご利用頂きまして、ありがとうございます。函館線、千歳線直通、L特急“スーパーカムイ”、新千歳空港行きです。……〕
抑揚の無い男声の自動放送が車内に鳴り響く。
その後流れる女声の英語放送だけ、東北新幹線で流れる英語放送と声優が同じだ。
「さすがにこの前来た時より、すっかり雪は融けてますね」
「もう春だしね」
この前の北海道には、普通にユタの大学卒業旅行として、イリーナが連れてきてくれたもの。
新しく迎え入れた弟子を旅行に連れて行くのは、ダンテ一門の伝統らしい。
もっとも、それを律儀に踏襲しているのはイリーナくらいのもの。
イリーナ自身、大師匠ダンテに買われて弟子入りした際、ダンテの思い付きで旅に連れられたことがいい思い出だったらしい。
その話を思い出したユタは、
「マリアさんも弟子入りした後は、先生と旅行に行ったんですか?」
「私の場合はイギリスを脱出して、フランスやドイツに行ったけどね」
「へえ……」
「多分、ユウタなら楽しかったんじゃないか?」
「えっ?」
「移動は高速鉄道だったよ」
「おっ、ということは!?英仏海峡トンネルを通る“ユーロスター”とか?」
「それでイギリスからはおさらばだ。フランスではTGV(フランス新幹線)に乗ったし、ドイツではICE(ドイツ新幹線)に乗った」
「いいですねぇ……」
「頼めば連れてってくれるんじゃないの?」
マリアは爆睡しているイリーナをチラッと見て言った。
「それにはもう少し、英語力を付けないとなぁ……」
ユタは頭をかいて笑った。
「でも、フランスやドイツは……まあ、英語通じるか」
「師匠は50ヶ国語くらい喋れるからいいけどね。私もイギリスでフランス語を5年くらい習ったけど、全然喋れない」
「ご、ごじゅ……!?」
そのうちの1つに日本語があるわけだ。
「最低でもエレーナみたいに5ヶ国語くらい、素で喋るようになりたいもんだね」
「エレーナさんも、何でそんなに喋れるんですか?」
その為、東京のホテルで働いていた時、外国人宿泊客との接客には困らなかったという。
「さあ……」
「イリーナ先生と同じロシア人だから、ロシア語が母国語で、それにプラス英語?」
「日本語と中国語と……あと何だっけ?韓国語?……一応、ロシアとその周辺の国の言葉は喋れるってさ」
「そりゃ凄い!僕も早く上達しないと……」
「私も、もう少し勉強しようか。せっかく日本に住んでるのに、エレーナや師匠みたいに素で喋れるくらいにはなるべきか」
「あ、そうか。それ、魔法で喋ってるんでしたっけ?」
「そう」
「素だと、どれくらい喋れます?」
「うーん……」
そこへ車掌が検札にやってきた。
「失礼します。乗車券と特急券を拝見致します」
「あ、はい」
「ゴクドーサマデス」
「?」
「? ……新千歳空港までですね。ありがとうございました」
一瞬、時間が止まるユタ達の座席回り。
「あれ?間違えた?ドゥブラェウートゥラ?」
「……それ、ロシア語」
寝ていたイリーナが一瞬目を覚まし、マリアにツッコんだ。
ユタは自分のスマホを出した。
「あなたも、もう少し外国語の勉強が必要かもね」
「はあ……」
「よし。じゃあ、あなたは素で日本語が喋れるまでになりなさい。ユウタ君が英語が素で喋れるようになるのとは、対照的にね」
「すると、先生……」
「お互い、切磋琢磨しなさい。マリアはユウタ君にいくらでも日本語の質問をしていいし、ユウタ君は英語の勉強に対してマリアにいくらでも聞いていいから」
「あ、はい。分かりました」
「帰ったら、本格的にね」
「分かりました」
「ドゥブラェウートゥラ……分かった。『おはようございます』ですね」
ユタがスマホでロシア語の翻訳をし、ようやくマリアが呟いたロシア語の意味が理解できた時、既に列車は札幌市内の高架線を走行していたという。
「遅イヨ……」
マリアは呆れていた。
で、片言の日本語で素でツッコんだのだった。
〔「4番線に停車中の列車は9時55分発、函館線特急“スーパーカムイ”16号、札幌方面新千歳空港行きです。発車までご乗車になり、お待ちください。……」〕
新しい駅舎の階段を登り、高架ホームに上がると5両編成の新型特急が停車していた。
ホームと階段の間に仕切り扉があるのは、いかにも極寒の地らしい。
〔「……4号車は指定席uシート車です。乗車券の他、指定席特急券が必要です」〕
「藤谷班長が乗った785系とは違いますねー」
そう言いつつ、4号車に乗り込むユタ。
「師匠。寝るなら、せめて乗ってから!」
「参ったよぉ……。夜中も来訪者が来るなんて……」
「師匠も魔道師の世界じゃVIPなんですから、当たり前じゃないですか」
「たははは……」
ユタは座席をくるっと向かい合わせにした。
「いいんじゃない?そのままで。どうせ師匠寝てるし」
「いえ、札幌で進行方向が変わるんですよ」
「そうなの?」
「先生は窓側に座って頂いて……」
「うぃー……着いたら起こしてね……」
イリーナは頭からローブのフードを被り、あとは座席を倒して爆睡モードに入った。
旧型の785系と比べてヘッドレストは浅いが、上下可動式のピローが付いている。
「空港まではどのくらい?」
「2時間ちょっとですね」
「そんなものか」
「そんな所です」
その割には車販は無いので、ホームの売店で用意する必要あり。
ユタは帰りの旅に必要なチケットを全て出した。
「飛行機の時間が14時30分。この電車の新千歳空港着が12時2分です」
「約2時間か」
「国内線だから、そんなに急ぐ必要も無いでしょうからね。また、あの温泉入ってみます?」
「おっ、いいね。師匠、温泉ですって」
「クカー……」
「ダメだ。寝てる」
「この魔道師は……」
2人の弟子は寝付きの早い師匠に呆れた。
[同日09:55.JR函館本線L特急“スーパーカムイ”16号4号車内 ユタ、マリア、イリーナ]
電車は静かに旭川駅を定刻通りに発車した。
〔これから先、揺れることがありますので、お気をつけください。お立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まりください。今日もJR北海道をご利用頂きまして、ありがとうございます。函館線、千歳線直通、L特急“スーパーカムイ”、新千歳空港行きです。……〕
抑揚の無い男声の自動放送が車内に鳴り響く。
その後流れる女声の英語放送だけ、東北新幹線で流れる英語放送と声優が同じだ。
「さすがにこの前来た時より、すっかり雪は融けてますね」
「もう春だしね」
この前の北海道には、普通にユタの大学卒業旅行として、イリーナが連れてきてくれたもの。
新しく迎え入れた弟子を旅行に連れて行くのは、ダンテ一門の伝統らしい。
もっとも、それを律儀に踏襲しているのはイリーナくらいのもの。
イリーナ自身、大師匠ダンテに買われて弟子入りした際、ダンテの思い付きで旅に連れられたことがいい思い出だったらしい。
その話を思い出したユタは、
「マリアさんも弟子入りした後は、先生と旅行に行ったんですか?」
「私の場合はイギリスを脱出して、フランスやドイツに行ったけどね」
「へえ……」
「多分、ユウタなら楽しかったんじゃないか?」
「えっ?」
「移動は高速鉄道だったよ」
「おっ、ということは!?英仏海峡トンネルを通る“ユーロスター”とか?」
「それでイギリスからはおさらばだ。フランスではTGV(フランス新幹線)に乗ったし、ドイツではICE(ドイツ新幹線)に乗った」
「いいですねぇ……」
「頼めば連れてってくれるんじゃないの?」
マリアは爆睡しているイリーナをチラッと見て言った。
「それにはもう少し、英語力を付けないとなぁ……」
ユタは頭をかいて笑った。
「でも、フランスやドイツは……まあ、英語通じるか」
「師匠は50ヶ国語くらい喋れるからいいけどね。私もイギリスでフランス語を5年くらい習ったけど、全然喋れない」
「ご、ごじゅ……!?」
そのうちの1つに日本語があるわけだ。
「最低でもエレーナみたいに5ヶ国語くらい、素で喋るようになりたいもんだね」
「エレーナさんも、何でそんなに喋れるんですか?」
その為、東京のホテルで働いていた時、外国人宿泊客との接客には困らなかったという。
「さあ……」
「イリーナ先生と同じロシア人だから、ロシア語が母国語で、それにプラス英語?」
「日本語と中国語と……あと何だっけ?韓国語?……一応、ロシアとその周辺の国の言葉は喋れるってさ」
「そりゃ凄い!僕も早く上達しないと……」
「私も、もう少し勉強しようか。せっかく日本に住んでるのに、エレーナや師匠みたいに素で喋れるくらいにはなるべきか」
「あ、そうか。それ、魔法で喋ってるんでしたっけ?」
「そう」
「素だと、どれくらい喋れます?」
「うーん……」
そこへ車掌が検札にやってきた。
「失礼します。乗車券と特急券を拝見致します」
「あ、はい」
「ゴクドーサマデス」
「?」
「? ……新千歳空港までですね。ありがとうございました」
一瞬、時間が止まるユタ達の座席回り。
「あれ?間違えた?ドゥブラェウートゥラ?」
「……それ、ロシア語」
寝ていたイリーナが一瞬目を覚まし、マリアにツッコんだ。
ユタは自分のスマホを出した。
「あなたも、もう少し外国語の勉強が必要かもね」
「はあ……」
「よし。じゃあ、あなたは素で日本語が喋れるまでになりなさい。ユウタ君が英語が素で喋れるようになるのとは、対照的にね」
「すると、先生……」
「お互い、切磋琢磨しなさい。マリアはユウタ君にいくらでも日本語の質問をしていいし、ユウタ君は英語の勉強に対してマリアにいくらでも聞いていいから」
「あ、はい。分かりました」
「帰ったら、本格的にね」
「分かりました」
「ドゥブラェウートゥラ……分かった。『おはようございます』ですね」
ユタがスマホでロシア語の翻訳をし、ようやくマリアが呟いたロシア語の意味が理解できた時、既に列車は札幌市内の高架線を走行していたという。
「遅イヨ……」
マリアは呆れていた。
で、片言の日本語で素でツッコんだのだった。