報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔の者再来!?」

2015-05-03 19:41:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月24日12:30.天候:晴 新千歳空港・新千歳空港温泉 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 かつてはケンショー・レンジャーとの戦いがあった新千歳空港温泉。
 しかし今はそんなこともなく、ユタは内湯や露天風呂を楽しんでいた。
(さて、そろそろ上がろう。お昼を食べてゆっくりしていれば、ちょうど飛行機の時間だ)
 ユタはそう考えて大浴場から脱衣所に入った。
 そこのロッカールームで服を着ていると、
「えー、お風呂上りに冷たい牛乳はいかがですかー?」
 片隅に牛乳売りの屋台が出ていた。
 それはまるでアイスキャンデー売りの屋台に似ていた。
 クーラーボックスの中に、瓶入りの牛乳が入っているようだった。
 屋台の店主は麦わら帽子を深く被り、顔はよく見えないが、眼鏡を掛けた中年の男だった。
 藤谷春人の父、秋彦と同じくらいだろうか。
 服を着終わったユタが近づくと、
「毎度どうも」
「オジさん、そこの自販機でも牛乳売ってるけど、どう違うの?」
 ユタが不思議そうに聞いた。
「クフフフフフ……あ、いや、失礼。この牛乳は特製で、そんじょそこらの牛乳とは違うのですよ。どうぞ、お試しください」
「いくら?」
「一本200円です」
「高っ!?」
「クフフフフフ……だから、そんじょそこらの牛乳とは違うと言ったでしょう?」
「ちょっとよく見せて」
 ユタはクーラーボックスに入った牛乳瓶を手に取った。
「うっ!こ、これはっ!?鶴丸マーク!?……芙蓉茶寮!?や、やっぱり要らないっ!」

 バァーン!(牛乳売りのオヤジの背後にある機械室のドアが思いっきり開く)

「ああっ!?てめっ、ユタ!手に取っちまったもんは、もう後に引けねーぜ、ああっ!?」
「ああっ!ケンショーブルー!?ということは……!」
「グリーンです。先般の総幹部会における大感動は、未だ覚めやらぬものであります」
「で、で、出たーっ!!」
「ああっ!?てめー!人をオバケみたいに言うんじゃねーよ、ああっ!?」
「クフフフフフフ……。稲生君、久しぶりに会ったら、少し太ったんじゃありませんか?この特製牛乳は罪障消滅剤が入っているのです。これを飲んで、お腹の中の罪障を消滅させませんか?ええ、それはもうスッキリしますよ」
「下剤入りかよ!?危ないなぁ!!」
「つべこべ言わずに、飲め、コラ!オメーはよー、センセーの牛乳が飲めねーってのかよー、ああっ!?」
「飲めるかーっ!」
 ユタ、一目散に逃走。
「ま、待ちなさい!誓願販売数がまだ……」
「待てや、コラーッ!!」

 しかし、ユタの逃げ足は速い。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ゼェ……ゼェ……。くそ……!何でこんなにキツいんだ……ああっ?」
「よ……よる……よる……」
「夜?グリーン、てめー、何言って……」
「よ、寄る年波には勝てないものですね……グフッ!」
「だが心配ねぇ……。女湯はパープルが行ってるはずだぜ……」
「いたぞ!不審者!」
「おとなしくしろ!」

 ガシッ!(駆け付けた警備員達に捕まるブルーとグリーン)

「勝手に牛乳売りの商売しやがって!警察に突き出してやる!!」

 ズールズールと引きずられるブルーとグリーン。

[同日同時刻 新千歳空港温泉・女湯 マリアンナ・スカーレット]

(師匠、先に上がっちゃったなぁ……。まあいいか)
 後から上がる弟子のマリア。
 恐らくイリーナは大好きなリラクゼーションを受けに行ったのだろう。
 今頃、そこでボディケアでも受けていると思われる。
(お年寄りだからしょうがないよね)
 普段はR35の姿をしているが、実際は齢1000年の老魔女なのである。
 弟子が若い魔女なら、師匠は老婆の法則だ。
 魔法を使って姿を若返らせているとはいえ、それでも30代より下まで下げることは不可能だったようだ。
「ん?」
 バスタオルで体を拭いて下着を着けていると、ロッカーの中に小瓶が入っているのに気づいた。
 鍵は掛けていたのだが、置いたのがイリーナだと分かると、何ら不思議は無い。
 何でもありの大魔道師なら、鍵を掛けていようが……ということだ。
 その小瓶の下にはメモ書きで、何か書いてあった。
「……日本語で書きやがって、あの婆さん……!」
 マリアは英語で文句を呟いた。
(後でユウタに訳してもらおう)
 服を着て外に出ようとすると、
「あー、そこのかわいいお嬢ちゃん、美味しい牛乳はいかがかの?」
「?」
 脱衣所の片隅に、牛乳売りの屋台があった。
「あー、プリーズ・ドリンク・ザ・ミルク。ディス・イズ・デリシャス」
 牛乳売りの老婆はヘタな英語で話し掛けてきた。
「大丈夫です。日本語分かります」
 マリアは魔法で、自分の話す言葉を日本語に切り替えた。
 自分は英語を喋っているのに、聞いている側は日本語に聞こえるという不思議な魔法だ。
「おおっ、何じゃ!それを早く言っとくれ!日本ではな、風呂上りには必ず牛乳を飲むという習慣があるのじゃぞ?外人の娘さんもどうじゃ?」
「牛乳か。しかし、そこの自動販売機でも似たようなのが売ってるけど……」
「ギクッ!……い、いや、この牛乳はの、そんじょそこらのモノとは格が違うのぢゃ。1本200円もする高級品じゃぞい!」
「高っ!?……もしかして、観光客だと思って吹っ掛けてる?」
 さすがはヨーロッパ人。
 日本人観光客と違って、そう簡単に騙されない。
「そんなことは無いぞい。新聞も200円じゃからのぅ……」
「新聞?牛乳と、どう関係が?……とにかく、200円は高いわ。もっと負けて」
 ズイっと値引きに掛かるマリア。
 日本人観光客なら言い値でそのまま買ってしまうところだが……。
「う、うむ……では、180円に……」
「あそこの自販機では110円だが?せめて130円だね」
「が、外人さん、それではわらわが赤字ぢゃ。せめて150円にしてくれ。先生に申し訳立たぬでな……」
「先生?」
「な、何でもない……!」
「じゃあ、150円にしてあげるよ」
「ま、毎度ありー!冷たい今のうちに飲むのぢゃ!」
「はいはい」
 マリアは言われた通り、牛乳を飲んでしまった。
 瓶にはやはり鶴丸マークがあったのだが、
(JALと何かコラボした商品なのか?)
 としか思わなかったし、
(難しい漢字が書いてあるけど、まあ日本製なんでしょう……)
 としか思わなかった。
(それにしても不思議な味……。日本の牛乳って、こんな味なのかしら?)

 飲んだ後、脱衣場から出るマリア。
 それを見届けた牛乳売りの老婆は、
「成功ぢゃ!グリーンとブルーの役立たずの穀つぶし共はダサく捕まったようじゃが、やはりわらわがセンセーの御心に1番お応えできる唯一の……」

 ガシッ!

「ん?」
「ちょっと、そこの紫のお婆さん?ちゃんと営業許可は取ってる?取ってないよね?ちょっと一緒に来てくれる?」
 女子プロレスラーみたいな体躯のデカい女性警備員に掴まるパープル。
「うおおおっ!?な、何をする!?ワシゃ、センセーに唯一お応えできる最高幹部の……」
「はいはい。お話は向こうでしましょうね」

 ズールズールと引きずられるパープルだった。
(じゃが、特製牛乳を飲ませることには成功したぞい。あとはセンセーの祈りに任せるのみ。ワシはあの逝ってしまった使用済み婆やでもなければ、捨て駒なんぞでもない……)
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“大魔道師の弟子” 「帰りの旅」 2

2015-05-03 11:07:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月24日11:20.天候:晴 JR函館本線L特急“スーパーカムイ”16号4号車内 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく札幌、札幌です。5番線に到着致します。お出口は右側です。札幌からのお乗り換えをご案内致します。函館線上り、琴似、発寒方面、手稲行きの普通列車は……」〕

「ロシア語の辞書出すのに、そんなに時間が掛かるのか?」
 マリアが訝しげにユタのスマホを見ながら聞いた。
「いやあ、何か発音が……」
 ユタは首を傾げた。

〔「……この電車、札幌で5分停車した後、千歳線の快速“エアポート”112号となります。電車の進行方向が変わりますので、座席の向きを変えるお客様は前後のお客様にご注意ください」〕

 電車が札幌駅のホームにゆっくり入っていった。
 3ドアの普通列車を使用した快速なら6両編成だが、特急車両を使用した5両編成2ドアの電車は混みやすいだろう。
 ここで下車する乗客は多かったが、乗車する乗客も当然多かった。
 指定席なら、乗り込んでくる乗客は整然としている。
 で、ここでまた……。
「おおっ!?これはこれは……」
 ユタ達は藤谷春人と再会した。
 しかも、席もそこ。
「とんだ偶然ですな」
「藤谷班長、どうしてここに?」
 ユタが聞くが、この電車でその質問は頓珍漢だろう。
「もちろん、飛行機に乗り換える為だ。やっと北海道からおさらばだよ」
「すると、東京へ……」
「ああ。やっぱ、地方のテーマパーク事業に乗るもんじゃないな」
「怪し気な所でしたからねぇ……」
「ああ。あれ自体、障魔のせいじゃないかって思うよ」
「じゃあ、アタシがいい仕事紹介しようか?」
 いつの間にか起きていたイリーナが微笑を浮かべて藤谷に言った。
「マジですか?!」
「ってか、先生起きてたんですか?」
「さすがにこんなわさわさした空気じゃ、目も覚ますわよ」
「それもそうですね」
 ユタは頭をかいて笑った。

[同日11:25.JR千歳線快速“エアポート”112号4号車内 ユタ、マリア、イリーナ、藤谷春人]

〔5番線から、新千歳空港行き、快速“エアポート”112号が発車致します。まもなく、ドアが閉まりますからご注意ください〕

 どうもJR北海道はあまり発車メロディはもちろん、ベルも使用したがらないらしい。
 あくまで放送と笛のみだ。
 せいぜい、客終合図の時にジリジリベルを短く鳴らすくらい。
 これだって駅員が車掌への合図で鳴らすだけで、乗客に乗降促進をさせる為のものではない。

 電車は進行方向を変えて、札幌駅を発車した。

〔この先、揺れることがありますので、お気をつけください。お立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まりください。今日もJR北海道をご利用頂きまして、ありがとうございます。千歳線、快速“エアポート”、新千歳空港行きです。……〕

 特急料金の要らない快速になった電車だが、指定席uシート車に乗るには指定席料金が必要となる。
 特急用の指定席は、快速用の指定席より質が良いので乗り得かもしれない。
 ユタ達みたいに、特急からそのまま乗り通す場合、改めて快速になったからといって指定席料金を払う必要は無い。

〔「お待たせ致しました。本日もJR北海道をご利用頂きまして、誠にありがとうございます。……」〕

 乗務員も交替したのだろう。
 今度は女性車掌の放送が聞こえてきた。

〔「……終着、新千歳空港には12時2分、12時2分の到着です。……次は新札幌、新札幌に止まります」〕

「そういえばさ、長野に行く飛行機はもっと後じゃなかったか?」
 藤谷が口を開いた。
「そうなんですよ。空港で少しゆっくりしていこうかと思いまして」
「ああ、なるほど。最近の空港は、色んなものがあるからな」
「そうです」
「俺はもう着いたら、即行で出発ロビー行きだ。忙しいもんだよ」
「そうなんですか。大変ですねぇ」
「まあ、仕事だからしょうがない。早いとこ、北海道で受けた大損を回収しないとな」
「藤谷さん、強いですね」
「障魔に負けてらんねーよ」
「さすがですね」
「だからこそ、大時計を止めるっつーアイディアが浮かんだのかもな」
「あー!」
 ヤノフ城の大時計が止まったことで、“魔の者”達の野望が潰えてしまった。
 それ以降はユタ達のターンみたいなものだ。
「藤谷さん、ありがとう」
 マリアは藤谷に礼を言った。
「なーに。礼なら、大聖人様に言ってくれよ。あれ絶対、そうだから。それに、実際大時計の操作盤を触ったのは稲生君だぞ?」
「でもそれは、班長の言う通りにやっただけで……」
「いいんだいいんだ。実際動かしたのは稲生君なことに変わりは無いんだから」
 カラカラと笑う藤谷だった。
 イリーナは窓の外を見て、微笑を浮かべていた。
(『仲良きことは美しき哉』『君は君、我は我なり されど仲良き』か……)
 武者小路実篤の名句だが、大師匠ダンテが一門の訓辞として使用している。
 その言葉を思い出したのだ。

[同日12:02.JR新千歳空港駅→新千歳空港ターミナル ユタ、マリア、イリーナ、藤谷]

 電車は南千歳駅を出ると、地下に入っていった。
 現時においてJR北海道唯一の地下線であり、地下駅である。
 津軽海峡線もJR北海道線ではあるが、あれは地面の下というより海の下だし、吉岡海底駅や竜飛海底駅はもう駅としての機能は無い。
 地下ホームに電車が滑り込み、ドアが開くとそこから乗客達が吐き出された。
 ユタ達もその波に乗る。
「それじゃ稲生君、またどこかで会おう」
 改札口を出てターミナルに入ると、そこで藤谷と別れる。
「色々とありがとうございました」
 握手を交わし、藤谷はガラガラとキャリーバッグを引いて出発ロビーに向かって行った。
「本当にいい人です」
「こりゃお礼に、“功徳”をあげないといけないかねぇ……」
 イリーナは右手をあごにやりながら、目を細めて微笑を浮かべていた。
「えっ?」
「まあまあ。それより、まだ時間かあるんでしょ?前回みたいに、また温泉入ろうよ」
「そうですね。こっちです」
「師匠、まず荷物をどこかに預けてからにした方が……」

 ユタ達がターミナルの中に入って行く姿を、遠くからストーカーの如く、探っている者がいた。
「クフフフフフフフ……。ようこそ、新千歳会館へ……。クフフフフフフフフ……」
 それは眼鏡を掛けた男。
 手にはストーキング用の双眼鏡を持っている。
 それでユタ達の動向を監視していた。
 双眼鏡を目から放し、
「それでは、行動開始です」
 移動しようとしたが、
「ちょっとお客さん、何してんの?」
 双眼鏡を持った右手を警備員に掴まれた。
「はうっ!?……いえいえ、私は怪しい者ではありません。ええ……」
「じゃあ今、何をしてらっしゃったの?この双眼鏡は?」
「ええ……と……ですね……」

 新たな“魔の者”接近か?
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