報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「撮影終了後」

2015-05-12 19:34:22 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月12日10:00.東京都墨田区 敷島エージェンシー シンディ&敷島孝夫]
(三人称に戻ります)

 敷島は社長室でシンディが撮影・編集した、事務所関係者のPR動画を閲覧していた。

〔(初音ミク)「敷」、(MEIKO)「島」、(未夢)「エー」、(結月ゆかり)「ジェン」、(Lily)「シー」、(井辺翔太)「を」、(鏡音リン)「どうぞ」、(鏡音レン)「よろ」、(KAITO)「しく」、(一海)「お願い」、(巡音ルカ)「します」〕

「どう?バッチリ撮れてるでしょ?これでこの事務所も、年内にはメジャーだよ!」
 シンディは片目を瞑って得意げに笑った。
「演出はいいと思うんだが……。1つ問題が……」
「なに?ミクの縞パンチラくらい、いいじゃない。どうせライブでも、あの衣装じゃ、パンチラ上等でしょ?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「何気にMEIKOとルカにも、巨乳のセクシーポーズを取ってもらったよ」
「いや、そういうことじゃないって」
「女性ファンが付くよう、KAITOにはちゃんと……」
「いや、今映っているこのコ達は別に問題無いんだ」
「じゃあ何?」
「俺はこの事務所の関係者全員を撮るように言ったよな?」
「そうよ。だから、プロデューサーや一海も撮ったじゃない。あ、今さらそれは関係無いなんて言わないでよね!」
「いや、それでいいんだ。だが、お前は1つ忘れてるぞ」
「だから何?」
お前もこの事務所の関係者だってことを忘れてるみたいだな!?」
「ああーっ!?」
「つーわけで撮り直し!ったく、せっかくカメラ渡したのに、横着して自分の目で撮りやがって!」
「そんなぁ……」

[同日11:00.同場所 MEIKO&敷島孝夫]

「ただいまぁ」
「おっ、お疲れさん。午後も仕事入ってるから、少し休憩したらまた頼む」
「はーい。今度は河童酒造さんの広告撮影だったっけ?」
「酒瓶片手のあのポスターがウケたみたいだからな。河童酒造の沖浦社長も大絶賛だったよ」
「お役に立てて何よりです」
 MEIKOはペコリと頭を下げた。
 ロイド達の口から出て来た今のセリフは、彼らにとって至上の喜びの言葉である。
 MEIKOが奥の休憩室に行くと、今度は事務机にいた一海が話し掛けた。
「社長、昨日、平賀教授から電話がありました」
「平賀先生が?」
「社長へ出産祝いに、私の姉妹機、二海を子守り用として送るそうです」
「そうか。それはありがたい。何しろ、マリオ達じゃ子守りにならないもんな」
「代わりに、この事務所の警備をさせますか?」
「まあ……このビル自体、機械警備が入ってるから大丈夫だと思うけど……」
「社長のマンションも機械警備入ってますよね?」
「まあね。埼玉の賃貸マンションと、こっちのマンスリーマンションもそうだ」
「それと、まもなくエミリーさんの新ボディが完成するので、立ち会いをお願いしたいとのことです」
「……そうなのか。意外と早いな。まあ、学界で天才児と呼ばれてる平賀先生が本気を出せば当たり前か」
「そうですね」
「良かった。あの人が敵に回ったら、世界の終わりがやってくる。正義感の強い先生で良かったよ」
「はい」
「この事務所は……単なる芸能プロダクションではないということだよ」
「分かってます」
 そこへ電話が掛かって来た。
「はい、お電話ありがとうございます。敷島エージェンシーです。……あ、はい。いつもお世話になっております。……はい」
(そうは言っても、普段は単なる芸能事務所をやんないといけないけどな)
 敷島はそう思って、再び社長室に戻った。
 ミクが焼いてくれたクッキーを手にして。

[同日12:00.JR東京駅八重洲南口・JRバス乗り場 井辺翔太]

「……あ、もしもし。社長ですか?お疲れ様です。……はい。今、東京駅にいますが、取りあえず指示通りの物が用意できました」
{「ご苦労さん。俺の所に持って来るのは、営業の後ででいいから」}
「はい。でも、よろしいのでしょうか?」
{「これも経費節減だ。あれはボカロの仕事で行くわけじゃないからな。キミ達は逆に営業で行くんだから、いつものルートでいいよ」}
「はあ……」
{「帰りは一緒になるかもな」}
「そうですか」
{「心配するな。ミク達だって、最初は地方巡業がメインだったんだから。もっとも、研究所自体が地方にあったんだけどな。あっはっはっはっ!」}
「そうでしたね」
{「逆に向こうで仕事ができるのは、偏にミク達がそこで活躍していたからという実績もある。そこの所、忘れないようにな?」}
「はい、分かりました。では、私はKAITOに付いて、ドラマの撮影現場に向かいますので」
{「おお、そうだ。オレからも監督に謝っとかないとな。昨日、シンディが舞台セット壊したんだって?しょうがないヤツだ」}
「私が謝罪しておきました。今後は気をつけるようにとのことです」
{「それだけで許してくれたのか。意外と寛容な監督さん達なんだな」}
「私共の事務所には注目して下さっているようです。ありがたいことです」

[同日同時刻 都内某所・件の撮影現場 シンディ]

「……というわけでぇ〜、これがミクの生写真(≧▽≦)」
「おおっ!?」(←鼻の下を伸ばす作者雲羽監督)
「MEIKOの着替え中の盗撮DVDと、ルカのパンチラ&胸チラ映像もあるよぉ?これで壁に穴開けたの許してね(^_-)-☆」
「もち、OK!☆彡」
「いいのかよ……(;゜Д゜)」(←呆れる多摩名誉監督)

[同日18:00.敷島エージェンシー 井辺翔太、敷島孝夫、シンディ]

「ただいま、戻りました」
「おう、お疲れさん。どうだった?」
「はい。今日もKAITOの撮影は深夜に及ぶそうなので、予備のバッテリーに交換しておきました」
「深夜労働なんて関係無いボカロだからできることだな」
「そうです。それで昼間、社長に頼まれたものを……」
「おう、雑用頼んじゃって悪かったな。ありがとさん」
「いえ」
「シンディ、お前にも関係のあることだから」
「え?何が?」
 シンディが2人の所へやってきた。
「今週末、お前のお姉さんのボディ交換に、妹として立ち会うんだ。俺も行く」
「えっ、いいの?」
「マルチタイプの動きを嗅ぎ付けて、変な組織が狙ってきても困るから、その護衛もあるんだけどな」
「しかし社長、移動が高速バスというのは……」
「テロリスト連中も、まさか俺達がと思うだろう?ノーマークだろうよ」
「そうでしょうか?」
「だから一応、護衛にシンディも一緒に来てもらうんだけど」
「本当に大丈夫なんですか?」
「心配要らん。エミリーなんて、バージョンシリーズの気配を感じてすぐ動くくらいだ。ましてや同スペックのシンディだ。安心だろ?」
「……はい、そうだと思います。私がアメリカを旅行した時は、グレイハウンドバスに……。!」
「どうした?」
「……い、いえ。何でも……」
「どうしたの?アメリカの長距離バスがバージョンシリーズに襲われたって?」
「い、いえ。そういうことでは……。すいません」
「?」
「?」
 敷島とシンディは顔を見合わせて首を傾げた。
「わ、私も新人達を連れて……下準備をしなければなりませんので、失礼します」
「大丈夫か?何か、顔が青いぞ?」
「大丈夫です」
 井辺は奥の部屋に行った。
 そこには新人達が控えている。
「朴訥、朴念仁とも言える井辺君が学生時代、アメリカ旅行をしていたなんて信じられんな」
「まあ、人は見かけによらないものだからねぇ……」
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“新アンドロイドマスター” 「敷島エージェンシー」 4

2015-05-12 15:14:52 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月11日15:00.東京都墨田区 敷島エージェンシー シンディ]
(シンディの一人称です)

 おかげさまで、無事にKAITOの撮影が終わりました。
 あとは事務作業ロボットの一海とボーカロイド3号機の巡音ルカですが、彼女達は夕方以降の帰社になるので、私は少し休憩致します。
 超小型ジェットエンジンを使用したので、その燃料補充と消耗したバッテリーの交換ですね。
 交換したバッテリーは専用の充電器を使用して充電します。
 但し、莫大な電気を使用しますので、費用削減の為、電気料金の安い深夜に一斉に行います。
 いわゆる、深夜電力というものですね。
 バッテリーの交換は1人ではできないのが難点で、
「未夢、バッテリーの交換お願い」
「はい」
 手の空いているロイドにやってもらいます。
 その間、電源が切れることはなく、予備バッテリーが別にあるため、バッテリーの交換中に電源が切れる心配はありません。
 ボーカロイドはお腹の辺りにバッテリーの交換口があるのですが、マルチタイプは背中。
 未夢のマルチタイプとして設計された名残か、用途がボーカロイドなのに、彼女だけ背中にあります。
 奥の部屋で上半身だけ脱いで、背中のバッテリーをこう……。
「何か、天使の羽みたーい!」
 前期型の時は単にハッチのように上に開くだけでしたが、後期型では真ん中から羽のように両側に開く構造です。
 肩甲骨の部分から上に向かって開くので、近くにいたリンがそう言ったのでしょう。
 今はボーカロイドとはいえ、初期の頃はマルチタイプ。
 未夢は慣れた様子で、私のバッテリーを交換してくれました。
 そして、収納も自分の意思で自動でできます。
「天使が羽を収納したって感じだね」
 と、リン。
「今日仕事無いんだったら、事務所の掃除でもしてな」
「えー?これからリン、レンとガチャやるつもりだったのにぃ!」
「ダーメ!本当なら仕事だったんだから!」
 そこへ事務所の電話が鳴ったので、未夢が事務室に戻りました。
「はい、お電話ありがとうございます。敷島エージェンシーでございます。……あ、申し訳ありません。社長は本日お休みを頂いておりまして……はい」
「そういえば兄ちゃん……社長はどうしてお休みなの?」
 リンが首を傾げました。
 社長はアラフォーなので、もう兄ちゃんという歳でも無いんですけどね。
 いかに彼女達の稼働期間が長いか分かります。
「産休を取っているのよ」
「サンキュー?誰かの御礼?」
「違う違う。アリス博士が、やっとお子さんを産んだでしょう?それでよ」
 名前はボーカロイドから取るかと思われましたが、社長は否定していまして、トニーとなりました。
 平賀博士の所は七海がメイドロボットらしく、子守りを手伝っていましたので、手の空いているメイドロボットに仕事が回って来そうです。
「……分かりました。それでは、敷島社長に伝えておきますので。……はい。では、失礼します」
 未夢が電話を切りました。
「未夢、相手がクライアント様なら、いくら社長でも、『敷島』って呼び捨てでいいんだからね」
 と注意してやると、未夢は首を横に振って、
「いいえ。今のは平賀博士です」
 おっ、噂をすれば……。
「平賀博士が?もしかして、出産祝いに新しいメイドロボットでも作って送ってくれるって話?」
「いえ。それでしたら、財団崩壊の際に保管されている者を使うそうです」
 やっぱ、そうですよねぇ……。
「二海(ふたみ)がいるので、それを使うそうです」
「うん、そうだよね、やっぱ。で、用件はそれだけ?」
「いえ。それと、エミリーさんの新しいボディについて目処が付いたので、その連絡だそうです」
「えっ、ほんと!?姉さんの新しいボディ、作ってくれるの!?」
「もう製作に取り掛かってるらしいですよ」
 エミリー姉さんの使用しているボディは耐用年数を大幅に過ぎてしまい、その上で最終戦が待っていましたから、相当ムリが来ているはずです。
 そこで平賀博士は姉さんにムリをさせないよう、自分が研究室を構える仙台の大学の南里志郎記念館に展示しておくことになりました。
 南里博士はエミリーの生みの親で、今では故人です。
 一時はウィリアム・フォレストと2凶世界マッドサイエンティストを張りましたが、旧ソ連崩壊後に見切りをつけ、破壊処分されそうになったエミリーを連れて、日本に帰国してきたという経緯があります。
 その後、1度だけボディを交換した後、ずっと今のボディで稼働してきたわけですから、よく持ったものです。
「今の最新技術でボディを作ってくれるんだから、相当な性能になりそうね」
「羨ましい限りです」
「あなたはボーカロイドとして、頑張ればいいのよ」
 私は未夢の肩をポンポン叩いて励ましておきました。

[同日17:00.敷島エージェンシー シンディ&一海]

「ただいま、戻りました」
 夕方、一海が整備から戻ってきました。
「お帰り。結果はどうだった?」
「特に異常無しです。一部の部品を交換したくらいです」
「なるほど」
 メイドロボット七海の後継機ということもあって、姿形など彼女とよく似ている所があります。
 メイドロボットとして設計されながら、事務作業ロボットとして仕事をこなしている様は、七海を彷彿とさせます。
 たかがメイドロボットと侮るなかれ。
 主人に対する忠誠はマルチタイプやボーカロイド以上で、前期型の私も苦労させられましたよ。
「それじゃ帰ってきたところ悪いんだけど、あなたも撮るから」
「ええっ!?」
「社長命令で、関係者全員撮ることになってから。ほらほら、アピール」
「は、はあ……。えーと……わ、私、一海と申します。敷島エージェンシーの皆様方を色々な面でサポートさせて頂きますので、どうぞよろしくお願いします」
「うーん……。やっぱり裏方さんだと、そういう挨拶になっちゃうんだねぇ……」
「私はメイドロボットですから……」
「何か1曲披露してみるとか?」
「私は七海さんと違って歌えないんです」
「えっ、そうなの?」
「はい。子守りを担当する者は、その一環として歌唱機能が付与されていますが、私はあくまでこちらの事務作業用なので」
「そうなんだ。じゃあ、楽器とかは?」
「そ、それもちょっと……。シンディさんみたいにフルートは吹けないです」
「なるほど……。じゃあ今度、メイド服着てみてよ」
「ええっ!?」
「元がメイドロボットなんだから、メイド服持ってるでしょ?」
「い、1着だけですけど……」
「事務服もいいけど、今度はメイド服で撮影するからね」
「は、はあ……」

[同日19:43.JR東京駅・東海道新幹線ホーム シンディ&巡音ルカ]

〔新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく18番線に、“のぞみ”246号が入線致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この後、この電車は折り返し、20時ちょうど発、“のぞみ”257号、新大阪行きとなります。車内の整備が終わるまで、お待ちください〕

 はい、私は今、事務所を出て東京駅に来てます。
 大阪の仕事を終えて帰って来るルカを迎えに来たんですね。
 事務所で話を聞くのもいいですが、やはりアイドルの仕事ぶりを見て頂くのもいいPRになると思いまして。

〔「18番線、お下がりください。“のぞみ”246号の到着です。折り返し20時ちょうど発、“のぞみ”257号、新大阪行きをお待ちのお客様は……」〕

 ……あの交流2万5000ボルト、美味しそう。
 あ、いえ、何でもありません。
 列車が到着して、ルカが10号車から降りてきます。
 さすが、売れっ子はグリーン車ですね。
「やっほーい!お疲れさまー!」
「! シンディ?どうしたの、ここで?」
「迎えに来たよー」
 ルカは変装の為、帽子にサングラスを掛けています。
 私が迎えに来ていることに驚いた様子で、サングラスを外しました。
「それ……もしかして、『ヤンキーがムカつく主人公にケンカを売る為に待ち伏せ』的な?」
「……なワケないでしょ!ほら、例のPR動画だよ。今日中に撮り終えたいの。帰りながらやろう」
「まあ、いいけど……」

[同日19:55.東京無線タクシー車内 シンディ&ルカ]

「菊川までお願いします」
「はい」
「都バスの菊川三丁目バス停付近です」
「はい、菊川三丁目ですね」
 タクシーが走り出します。
「今日は、どんなお仕事をしてきたんですか?」
「あ、はい。大阪のテレビ局の情報番組に、ゲストとして出演してきました。その後、ラジオでイベントの告知とか、CDショップで握手会もしてきました」
「売れっ子はあちこち回って大変です。歌に掛ける思いは、他のどのボーカロイドにも負けないと前に言ってましたね?」
「はい。どんな歌でも、それを楽しみに聴いてくれる人がいる。その人に応える為にも、一生懸命歌わなければならない。『歌を歌えないボーカロイドはただのガラクタ』だと思っています」
「さすがですね。その思い、私の目に向かって伝えてください」
「はい。歌のお仕事はボーカロイドの使命だと思っていますので、基本的に断るつもりはありません。私の歌に対する思い、是非ぶつけさせてください」
「はい、ありがとうございましたー」
「……こんなのでいいの?」
「まあまあ。あくまで、PR動画だから。あとは社長が編集するよ」
「ふーん……」

 ですが私は、とんでもないミスを犯していたのでした。
 そのミスとは?気になる内容は、次回で!
コメント (6)
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“新アンドロイドマスター” 「敷島エージェンシー」 3

2015-05-12 10:27:29 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月11日13:00.敷島エージェンシー シンディ、鏡音リン&レン]
(シンディの一人称です)

「おはよう……なの」
 おっ、眠そうな顔してやってきたのは鏡音リンちゃんです。
 普段から公式サイト通りの衣装を着ていますが、今日は何か足りないような……。
 あっ、あの頭に着けている特徴的な白いリボン付きのヘッドセットを忘れています。
 起動したばっかりで、まだソフトウェアも立ち上がっていない状態で来たのがバレバレです。
 で、ちょっと気になることが……。
「……リンちゃん、寝癖すっげぇ……」
「えっ!?……あっ!?」
 思わぬハプニング!さすが自然体です。
 でも、ミクに次ぐ売れっ子アイドルがこのままでいいわけがありませんね。
「いいから、こっちこっち。ほら、直してあげるから」
「あ、はい」
 私の仕事の1つが、彼女達へのヘアメイクです。
 すぐにブラシを取って、リンの髪を直してあげます。
 レンとは双子の姉弟という設定で製造されましたが、どちらかというとリンの方がオレンジに近い金髪かな。
 私に髪を直されている間、リンはボーッとしていました。
「ところでレンは?」
「まだ寝てるよー。お仕事無くなっちゃって、レンが1番悔しがってたもんね」
 皆さん、想像してください。
 ボーカロイドがフテ寝するところを!
「あまり充電し過ぎると、バッテリーが悪くなるから後で起こしてきなさい。あと、ヘッドセット忘れてるから」
「はぁい……」

 で、ようやく……。
「鏡音リンでーっす!」
「鏡音レンです。よろしくお願いします!」
 やっとテンション高く、撮影することができました。
「じゃあ、次はKAITOの所へ行ってくるから」
「お願いします。私は打ち合わせで、ちょっと出てきますので」
「了解。気をつけて」

[同日14:00.都内某所 ドラマ撮影現場 シンディ&KAITO]

 KAITOは今、学園ドラマのメインキャラクターの役で出演しています。
 設定年齢は井辺プロデューサーと同じくらいだったと思うけど、高校の制服がよく似合います。
 イケメンボーカロイドとして売り出し中の彼は、歌の仕事より、こういうグラビア系の仕事が多くなっているというのは皮肉でしょうか。
 早速、ディレクターさん達に交渉です。

 雲羽D:「え?KAITO君の仕事の撮影?急に困るなぁ……」
 シンディ:「そこを何とか……。もちろん遠くから撮るので、こちらの撮影の邪魔はしませんから」
 雲羽D:「そうは言ってもねぇ……」
 多摩HD:「いいじゃないか。あそこの事務所、意外と怖いんだから」
 雲羽D:「え?そうなんですか?」
 多摩HD:「テロ対策と称して、SPロボットにマシンガンやらライフルやら仕込ませている所だよ。ヘタに怒らせたら、俺達が蜂の巣だよ」
 雲羽D:「ははははははは(爆笑)!どこの世界にそんな危ないロボットがいるんですか?」
 シンディ:「ここにいますが?」

 取りあえず私は、右手をマシンガンに変形させました。

 雲羽D:「……っ!一瞬ビックリしたけど、よくできてるねぇ……」
 多摩HD:「なるほど。確かに悪人への脅しにはなるな。でも、本物でなけりゃ意味無いよね」

 パパパパパパパパパン!(上空に向けて、マシンガンを発砲する)

 シンディ:「美味しい蜂蜜が取れますわぁ〜(にこにこ)」
 雲羽D:(青い顔をしながら)「さ、撮影の邪魔にならないようにねっ!」
 多摩HD:(逃げるようにしてメガホンを持ちながら)「さ、さあ!今度は不良グループとのケンカのシーン行こうか!」

 交渉成立です♪
 でもあいにくKAITOはメインキャラクターではあるものの、主人公ではなく、どちらかというと主人公と1人の女子生徒を巡って争うライバルの役のようです。

「いやー、びっくりしたよー。いきなりマシンガンの発砲音が聞こえたんで、そんなシーンあったっけ?って……」
 KAITOの出番はしばらく後のようなので、その間、舞台裏に来てもらいました。
 もちろん、先とはいえ出番があるので、舞台となっている高校の制服を着ています。
 うん、よく似合ってますねー。
 これだけで女性ファンからの再生回数が5ケタは行けますよー。
「ま、交渉成立の祝砲ってところかな」
「えっ?」
「それより、自己紹介と自己PRをお願いします」
「えー、KAITOです。敷島エージェンシーでは唯一の成人男性ボーカロイドとして頑張ります」
「今日はどんなお仕事なんですかー?」
「はい。とある女性向け恋愛シミュレーションゲームが原作のドラマで、主人公の女子生徒を巡って何人ものライバルが争うという内容です。そしてその最後、恋愛バトルに勝利した者だけが主人公の女子生徒と結ばれるという……」
「……随分とベタ過ぎる内容ですが、まあいいでしょう。KAITOはその恋愛の勝者役なのでしょうか?」
「いえ、あいにく……。別の事務所から来ている“がくっぽいど”の神威がくぽがその役なので」
「ミュージカル“七つの大罪”に次いで、こりゃまた随分残念なイケメン役ねー」
「大きなお世話です。……あ、それよりシンディ、1つお願いがあるんだ」
「なに?」
「実は次の撮影シーン、そのヒロインに対して『壁ドン』をするんだけど、今1つイメージが湧かなくて……」
「別に、データをアップロードすればいい話じゃない?人間の役者じゃないんだし……」
「いや、いかにもロボットがやっているというのじゃダメなんだ。人間らしく、ファジィ性を持たせないと」
「何かメンド臭いねぇ……。で、私は何をすればいいの?」
「ちょっと練習台になってくれ」
「は?」
「ちょっとそこの壁の前に立ってくれるか?」
「え……うん」
「えーと、まずは左手でヒロインの右肩を掴む」
「ふむふむ、それで?」
「そして右手で、『お前にはオレしかない!オレもお前しかいないんだ!』」
 壁ドンするKAITO。
「……どうだい?」
「どうって……」
 こんなんで、人間の女性はオチるのかしら?
「アタシ的にはイマイチだと思う」
「えっ、どこが?」
「『壁ドン』ってからには、もっと壁を叩く時の音とか大きくした方がいいんじゃない?」
「でも、叩く壁はコンクリートだよ?そう大きな音が出るわけは……」
「任せて。こういうのにはコツがあるのよ」
 私はウインクしてみせました。
 要はKAITOの叩く力が弱いのですよ。
 もっと強く叩けば、いい音が出るはずです。
「ちょっと逆になって」
「おっ、いいねー!『逆・壁ドン』も悪くないですなー」
「フザけると、グレネードランチャーで『壁ドン』するよ?」
「別の意味でドンですな!」
「いい?まず、左手で相手の右肩を掴む所までは同じ。そして、例のセリフね」
「はい。(……ちょっと待った。何か、嫌な予感が……)」
「『お前にはオレしかない!オレもお前しかいないんだ!』」

 AD:「た、大変です、ディレクター!」
 雲羽D:「何だ、どうした!?」
 AD:「今度の壁ドンのシーンで使うコンクリート壁に大きな穴が開いてます!」
 多摩HD:「さっき、何かぶつかったような音がしたと思ったけど、まさかそれか?」
 雲羽D:「大道具係、早く直してくれ!」
 AD:「いや、それが直せるってほどのレベルじゃないんです!」
 多摩HD:「くっそ……!今日中に撮影終えたかったのに……!」

「こ、この……クソボロ壁が……!ちょっと強く叩いたくらいで穴開きやがって……!」
「シンディさん!あなたの『ちょっと強い』は、スチールボールをぶつけたくらいの強さなんですよ!?」
 現場の外へ避難した私とKAITO。
「全く!鉄腕アトム並みの力持っちゃって……!」
「失礼ね!10万馬力も無いわよ!その10分の1しか無いって!」
「そ、それでも1万馬力……」
「じゃ、取りあえずこっちの撮影は終わったから、私は帰るね」
「ちょっと!あのままにして帰る気ですか!?」
 ……緊急離脱用ジェットエンジン、始動!
「うーわっ!ジェットエンジンまで吹かして!」
「緊急離脱!」
 飛んでる間は鉄腕アトムの気分です。
 彼ほど長距離・長時間は飛べませんがね。
 事務所まで飛ぶにはまあまあといったところでしょう。

 あとは一海とルカですね。
 それでは、次回もお楽しみに〜。
コメント (3)
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