[5月16日19:00.東京都墨田区 敷島エージェンシー・ボーカロイド居住区 MEIKO&巡音ルカ]
「お疲れ、ルカ」
「お疲れさま。MEIKOも仕事終わり?」
「ええ。私も明日に備えてね」
2人の成人女性ボーカロイドは、椅子に隣り合って座っていた。
MEIKOが飲んでいるのは晩酌用の酒……ではなく、補充用のエンジンオイルである。
ボーカロイドに限らず、マルチタイプもメイドロボットも、オイルは自動車のエンジンオイルを使用している。
この他に冷却用として自動車のラジエーターを使用している辺り、いかに製作費用や維持費を抑えるか意識されているのが分かる。
「……あ?」
その時、MEIKOが何かに気づいた。
「どうしたの?」
「ちょっとさ、“鬼軍曹”達をトレスしてみてくれる?」
「?」
ルカは目を閉じて、ヘッドホンステレオ型の耳を両手で押さえた。
「……反応が消えてる?」
「何かあったのかな?」
「何かに備えてるんじゃない?シンディもそれでGPSを切っていたでしょう?」
「新幹線の停電もテロだってことだし、ほんと、あいつらって行く先々でテロを引き起こすよね!」
MEIKOは少し憤り気味に言った。
エミリーやシンディは謝って、一応互いに和解したことになっているのだが、MEIKOはかつてエミリーとシンディに痛い目に遭わされたクチだからだ。
「まあまあ。テロとの戦いはエミリーやシンディに任せて、私達は私達のできることをしましょう」
“鬼軍曹”が暗号なのか、はたまたMEIKOが付けたあだ名なのかは【お察しください】。
[同日20:00.宮城県仙台市 東北工科大学・南里志郎記念館 エミリー&シンディ]
「はぁ……はぁ……!」
「ふゥゥゥ……」
誰もいない館内にこだまする、エアの排気音。
それの元は、この2体のマルチタイプ姉妹だ。
「んん……」
エミリーが仰向けになっているシンディを起こして、その唇に吸い付いた。
「ん……!」
チュッチュッと唇が離れては重なるが繰り返された。
「シンディ……3回戦……イク……」
「だ、ダメよ、姉さん……。もうすぐ……ドクター達が……帰ってきちゃう……。こんなの……見られたら……」
「シンディ。約束・して。新しい・ボディに・なっても、私と・仲良くして。あなたの・姉で・いさせて」
「もちろん!もちろんよ!当たり前じゃない!もう姉さんは、一人ぼっちじゃないんだから!」
シンディはそう言うと、姉機のおでこにキスをした後、また唇にキスをした。
(でも、確か姉さんは……)
[同日21:00.同場所 敷島孝夫&平賀太一]
「いやー、奈津子先生の手料理も絶品ですな。うちのアリスにも見習ってもらいたいものです」
平賀運転の車。
助手席に座る敷島はほろ酔い加減だ。
もちろん、運転している平賀は飲んでいない。
「そうですか?しかし敷島さんの所もお生まれになったわけですからね。二海の方は調整して、今月中にお送りしますので」
「どうもすいません」
「いえいえ。自分の傑作はあくまでメイドロボットですから、彼女達が少しでもお役に立てれば素晴らしいことです」
「ですねぇ……」
車が記念館の前に着く。
「それじゃシンディを回収して、ホテルに戻りましょうか」
「すいませんねー」
「何を仰います。お互い、死線を潜り抜けた仲じゃないですか」
そんなことを喋りながら、中に入る人間の男2人。
「や、やばっ!もう帰ってきた!ほらっ、姉さん!早く服着て!」
シンディが慌てて姉妹の情事で脱ぎ捨てた服を着た。
耐用年数大幅オーバーのエミリーは、どことなく動きがぎこちない。
姉の着付けを手伝っていると、
「おーい、戻ったぞー!」
「シンディ、行くぞ!」
「は、はい!」
敷島達はエミリー達の待機室に入った。
「あ、何やってんだ、2人とも?」
「え!?……えっ?な、何が?」
「お前ら、着てる服が逆だぞ?」
「!」
2人の姉妹が着ている服は同じデザインなのだが、エミリーが紺色でシンディが青。
それが逆になっていた。
「あっ!?えーと……その……。たまには、服を交換してみよーかなぁ……と……」
シンディがしどろもどろに答えた。
姉のエミリーの方は、明らかにフリーズし掛かっている。
「何か良からぬことをしていたんじゃないだろうな?」
「い、いやっ!姉さんと色んな話で盛り上がっただけよ!色んな!」
「ふーん……。まあ、いいや。早く服を交換しろ。まさか、下に着ているアーマーとかも逆なんてオチじゃないだろうな?」
「それは大丈夫よ!」
「それならいいけど」
「い、いや、良くないですよ、敷島さん」
「えっ?」
「何か2人とも、バッテリーの減りが妙に速いんですけど?」
「……この残数なら、ホテルまで間に合いますな」
「そういう問題ですか」
敷島の悠長さに呆れる平賀。
もっとも、その余裕が幾度とないロボット・テロで生き残らせたのだ。
「まあ、とにかく、旧ボディのエミリーとはこれでお別れだ。じゃあエミリー、明日よろしくな」
「よろしく・お願い・します」
「姉さん、明日も来るからね」
「……待ってる」
記念館の外に出て車に乗り込む3人。
「じゃ、ホテルまでお送りします」
「どうも、すいません」
平賀は車を走らせた。
「十条博士、明日仕掛けてきますかね?」
「分かりません。もしかしたら、自分の腕を確認するだけかもしれませんし」
「平賀先生の腕?」
「自分がマルチタイプのボディを作ったのは、これが初めてです。十条としては、友人の弟子がどこまでできるか見たいというのもあるかもしれませんね」
「なるほど」
「ま、油断はできません。大学に頼んで警備は厳重にしてもらいますし、シンディにも張ってもらいます」
「そういうことだ。責任重大だぞ、シンディ?……シンディ?」
「クー……スー……」
シンディは助手席に座らせているが、座席にもたれて『眠って』いた。
「省電力モード!?」
「だから敷島さん、シンディの残りのバッテリー、20パーセント切ってるんですって!」
「ちょっと、充電させてもらっていいですかね?」
敷島はカバンの中から大型の充電器を取り出した。
「そんなもの普段から持ち歩いてるんですか!?」
因みに大きさは、電気自動車を充電させるものとほぼ同じ。
平賀のこの車もまたハイブリットカーなので、同じ充電器を使用している。
「えーと、コンセントは……。これですか?」
「車の燃料電池上がるからダメ!スマホの充電と違うんですよ!」
因みに、ホテルに着いた時のシンディの残りバッテリーは15パーセントだったという。
敷島とシンディが宿泊した部屋だけ、電気の使用量が物凄く高かったらしい。
「お疲れ、ルカ」
「お疲れさま。MEIKOも仕事終わり?」
「ええ。私も明日に備えてね」
2人の成人女性ボーカロイドは、椅子に隣り合って座っていた。
MEIKOが飲んでいるのは晩酌用の酒……ではなく、補充用のエンジンオイルである。
ボーカロイドに限らず、マルチタイプもメイドロボットも、オイルは自動車のエンジンオイルを使用している。
この他に冷却用として自動車のラジエーターを使用している辺り、いかに製作費用や維持費を抑えるか意識されているのが分かる。
「……あ?」
その時、MEIKOが何かに気づいた。
「どうしたの?」
「ちょっとさ、“鬼軍曹”達をトレスしてみてくれる?」
「?」
ルカは目を閉じて、ヘッドホンステレオ型の耳を両手で押さえた。
「……反応が消えてる?」
「何かあったのかな?」
「何かに備えてるんじゃない?シンディもそれでGPSを切っていたでしょう?」
「新幹線の停電もテロだってことだし、ほんと、あいつらって行く先々でテロを引き起こすよね!」
MEIKOは少し憤り気味に言った。
エミリーやシンディは謝って、一応互いに和解したことになっているのだが、MEIKOはかつてエミリーとシンディに痛い目に遭わされたクチだからだ。
「まあまあ。テロとの戦いはエミリーやシンディに任せて、私達は私達のできることをしましょう」
“鬼軍曹”が暗号なのか、はたまたMEIKOが付けたあだ名なのかは【お察しください】。
[同日20:00.宮城県仙台市 東北工科大学・南里志郎記念館 エミリー&シンディ]
「はぁ……はぁ……!」
「ふゥゥゥ……」
誰もいない館内にこだまする、エアの排気音。
それの元は、この2体のマルチタイプ姉妹だ。
「んん……」
エミリーが仰向けになっているシンディを起こして、その唇に吸い付いた。
「ん……!」
チュッチュッと唇が離れては重なるが繰り返された。
「シンディ……3回戦……イク……」
「だ、ダメよ、姉さん……。もうすぐ……ドクター達が……帰ってきちゃう……。こんなの……見られたら……」
「シンディ。約束・して。新しい・ボディに・なっても、私と・仲良くして。あなたの・姉で・いさせて」
「もちろん!もちろんよ!当たり前じゃない!もう姉さんは、一人ぼっちじゃないんだから!」
シンディはそう言うと、姉機のおでこにキスをした後、また唇にキスをした。
(でも、確か姉さんは……)
[同日21:00.同場所 敷島孝夫&平賀太一]
「いやー、奈津子先生の手料理も絶品ですな。うちのアリスにも見習ってもらいたいものです」
平賀運転の車。
助手席に座る敷島はほろ酔い加減だ。
もちろん、運転している平賀は飲んでいない。
「そうですか?しかし敷島さんの所もお生まれになったわけですからね。二海の方は調整して、今月中にお送りしますので」
「どうもすいません」
「いえいえ。自分の傑作はあくまでメイドロボットですから、彼女達が少しでもお役に立てれば素晴らしいことです」
「ですねぇ……」
車が記念館の前に着く。
「それじゃシンディを回収して、ホテルに戻りましょうか」
「すいませんねー」
「何を仰います。お互い、死線を潜り抜けた仲じゃないですか」
そんなことを喋りながら、中に入る人間の男2人。
「や、やばっ!もう帰ってきた!ほらっ、姉さん!早く服着て!」
シンディが慌てて姉妹の情事で脱ぎ捨てた服を着た。
耐用年数大幅オーバーのエミリーは、どことなく動きがぎこちない。
姉の着付けを手伝っていると、
「おーい、戻ったぞー!」
「シンディ、行くぞ!」
「は、はい!」
敷島達はエミリー達の待機室に入った。
「あ、何やってんだ、2人とも?」
「え!?……えっ?な、何が?」
「お前ら、着てる服が逆だぞ?」
「!」
2人の姉妹が着ている服は同じデザインなのだが、エミリーが紺色でシンディが青。
それが逆になっていた。
「あっ!?えーと……その……。たまには、服を交換してみよーかなぁ……と……」
シンディがしどろもどろに答えた。
姉のエミリーの方は、明らかにフリーズし掛かっている。
「何か良からぬことをしていたんじゃないだろうな?」
「い、いやっ!姉さんと色んな話で盛り上がっただけよ!色んな!」
「ふーん……。まあ、いいや。早く服を交換しろ。まさか、下に着ているアーマーとかも逆なんてオチじゃないだろうな?」
「それは大丈夫よ!」
「それならいいけど」
「い、いや、良くないですよ、敷島さん」
「えっ?」
「何か2人とも、バッテリーの減りが妙に速いんですけど?」
「……この残数なら、ホテルまで間に合いますな」
「そういう問題ですか」
敷島の悠長さに呆れる平賀。
もっとも、その余裕が幾度とないロボット・テロで生き残らせたのだ。
「まあ、とにかく、旧ボディのエミリーとはこれでお別れだ。じゃあエミリー、明日よろしくな」
「よろしく・お願い・します」
「姉さん、明日も来るからね」
「……待ってる」
記念館の外に出て車に乗り込む3人。
「じゃ、ホテルまでお送りします」
「どうも、すいません」
平賀は車を走らせた。
「十条博士、明日仕掛けてきますかね?」
「分かりません。もしかしたら、自分の腕を確認するだけかもしれませんし」
「平賀先生の腕?」
「自分がマルチタイプのボディを作ったのは、これが初めてです。十条としては、友人の弟子がどこまでできるか見たいというのもあるかもしれませんね」
「なるほど」
「ま、油断はできません。大学に頼んで警備は厳重にしてもらいますし、シンディにも張ってもらいます」
「そういうことだ。責任重大だぞ、シンディ?……シンディ?」
「クー……スー……」
シンディは助手席に座らせているが、座席にもたれて『眠って』いた。
「省電力モード!?」
「だから敷島さん、シンディの残りのバッテリー、20パーセント切ってるんですって!」
「ちょっと、充電させてもらっていいですかね?」
敷島はカバンの中から大型の充電器を取り出した。
「そんなもの普段から持ち歩いてるんですか!?」
因みに大きさは、電気自動車を充電させるものとほぼ同じ。
平賀のこの車もまたハイブリットカーなので、同じ充電器を使用している。
「えーと、コンセントは……。これですか?」
「車の燃料電池上がるからダメ!スマホの充電と違うんですよ!」
因みに、ホテルに着いた時のシンディの残りバッテリーは15パーセントだったという。
敷島とシンディが宿泊した部屋だけ、電気の使用量が物凄く高かったらしい。