報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「Double Memory」

2015-05-29 19:21:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月27日16:00.天候:晴 DC埼玉研究所・本館2F小会議室 井辺翔太、敷島孝夫、シンディ]

 謎の狙撃テロの際、意識を失って医務室に運ばれた井辺。
 幸いどこもケガは無く、数時間後に意識を取り戻した後、シンディに案内されて小会議室に入った。
 テロの一報を聞いて駆け付けた敷島がいるとのことだった。

「失礼します」
「おう、井辺君!無事だったか!」
 敷島が中にいて、井辺の姿を見つけると椅子から立ち上がった。
「ええ。御心配をおかけしました」
「ケガは無いんだったな?」
「はい。幸い、防弾ガラスが守ってくれまして……」
「そうかそうか。じゃあ俺、身元引受人だから」
「身元引受人?」
 すると、別の入口から制服の警察官とスーツを着た刑事が入ってきた。
「テロリストを目撃した数少ない人物として、話が聞きたいってさ」
 敷島は肩を竦めた。
 すると、私服刑事が口を開いた。
 名前を名乗った後で、
「すいません。研究所の監視カメラは内外に多く設置されているようなんですが、そのどれにも映っておりません。こちらの所員さんの話によりますと、あなたがテロリストを目撃した後で意識を無くされたと伺い、どのような人物だったかをお聞きしたいと思いまして」
 と、聞いて来た。
「ほんの一瞬だけだったのでうろ覚えですが……」
「それでも構いません」
「それは……。!」
 一瞬、井辺の脳裏によぎったフラッシュバック。
「背の高い……女性で……うっ!!」
「どうしました!?」
 井辺は口元を押さえ、室内の隅にある洗面台に走って嘔吐した。
「井辺君!どうした!?」
「トラウマ……?」
 刑事がふとそんなことを口走った。
「刑事さん、申し訳無いけど、意識が戻ってすぐの聴取はちょっと……」
 敷島は眉を潜めて刑事に言った。
「何しろ、防弾ガラスが無かったら、死んでいたかもしれない状況だったんですから」
「社長は死にそうにないけどね」
 シンディは井辺を介抱しながらニヤッと笑った。
「俺だったら全部話すさ。俺と井辺君を一緒にするな」
 敷島は変な顔をしてシンディに言い返した。
「敷島社長が、あのウィリアム・フォレスト事件の英雄であることは承知しています。ただ、一歩間違えれば警視庁のご厄介になる側だったとも伺っておりますが?」
「いやー、さすがに都バスでバージョン達の包囲網に突撃したのはやり過ぎたかな?」
 バージョン達が都心のオフィス街に突如として現れ、街は大混乱に陥った。
 ドクター・ウィリーのアジトは知っていたものの、バージョン・シリーズの軍勢がそこを固めていた。
 そんな時、敷島は乗員・乗客ともに避難した後で無人の放置された都営バスをたまたま見つけたのだった。
 大型自動車免許(一種)は持っている。
 それに乗り込み、アクセルベタ踏みでバージョン達の包囲網に特攻し、隙ができた所へエミリーなどが突入していった。
「よく考えたら、近くにタンクローリーも放置されていたから、それに火ィ点けて突っ込ませた方が良かったかもしれない」
「それも困ります」
「てか、ドクター・アリスの方が知ってるんじゃないの?」
 と、シンディ。
「ダメだ。あいつ、地下に工具取りに行ってやがって、そもそも銃撃すら受けてねーよ」
「5.0は?あいつらのメモリーには残ってないの?」
「いや、ダメだ。全滅しやがったから」
「あの、役立たずどもがっ!……でもまあ、私も肝心な時に役に立てなかったから、あんまりエラそうに言えないか」
「シンディさんの場合は、しょうがないです。明らかに敵は、それを狙ってのことですから」
「今度からアタシの整備中の時は、エミリー姉さんを警備に引っ張って来た方が良さそうね」
「そう簡単に言うけど、平賀先生が都合良く貸してくれるとは思えんぞ?」
「だからぁ〜、そんな時に出番なのが社長じゃない?」
「都合良く俺を出すな!」

[同日17:00.埼玉県さいたま市西区 敷島孝夫、井辺翔太、アリス・シキシマ、シンディ]

 研究所を出た1台のステーション・ワゴン。
 敷島が運転し、助手席にアリスが座っている。
 アリスの後ろにシンディ、敷島の後ろに井辺といった感じだ。
「取りあえず、アリスを家まで送ろう」
「プロフェッサー平賀からメイドロボットをもらえて良かったわー」
「いや、あれは借り物だぞ」
 アリスの言葉に呆れる敷島。
 家に残してきた息子のトニーは、メイドロボットで子守り用途の二海が見ている。
 因みに、家の警備はバージョン5.0アリス・オリジナルバージョンのマリオとルイージが当たっている。
 研究所の5.0は量産型なので、そんなに戦闘力も強くないが、マリオとルイージはアメリカでのテロ対策を思案したもので、当然戦闘力も強い。
 それでもマルチタイプの足元にも及ばないと自覚してか、やはりその2体もエミリーやシンディの前では小さくなっている。
 敷島はハンドルを握りながら、ルームミラー越しに井辺を見て言った。
「井辺君、具合は大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です。御心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」
「いやいや。絶対に無理はしないように」
「はい」
「井辺君は俺と違って素人なんだから、そりゃあ、目の前に銃弾飛んできたら気絶もするし、恐怖でトラウマにもなるだろうよ。最近の警察ってな、その辺デリカシーか無いっていうかさ……。あ、そうそう。この車も、防弾ガラスになってるから安心してくれていい」
「はい」
「まあ、エンジンやタンクに被弾したら、諦めてくれ」
「ええっ?」
「なーんてな!」
「出た!笑えないジャパニーズ・ジョーク!」
 大笑いする敷島夫妻。
 シンディが苦笑しながら井辺に言った。
「この夫婦は多分、それでも生き残ると思うわ。だから、あなたはアタシが守ってあげる。だから心配しないで」
「は、はい!」
 頷きながら井辺は、今のシンディのセリフをどこかで聞いた気がした。
(何だろう……?)
「どうしたの?やっぱり具合悪い?」
「い、いえ……。私は……あの女性と会ったことがあるかもしれません……」
「What?」
「それは……昼間の狙撃者のことか?」
「はい。他人の空似かもしれませんが……」
「まあ、テロリストの知り合いなんて、そうそういないだろう。詳しく思い出したら、教えてくれよ。ただ、状況的に俺は人間じゃない気がするけどな」
「銃弾は汎用みたいだけど、私も人間ワザじゃない感じはするね」

 井辺の記憶が事件の謎を解く鍵となるか。
コメント (12)
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“新アンドロイドマスター” 「3機目のマルチタイプ?」

2015-05-29 02:35:12 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月27日12:15.天候:晴 DC埼玉研究所・本館1F社員食堂 井辺翔太&アリス・シキシマ]

 シンディの整備は一先ず休憩。
 井辺が半強制的に協力する人体実験については、午後から行われることになった。
「何だか心配ですね」
 定食を平らげた井辺は、不安を口にした。
「大丈夫だって。実は元々シンディやエミリーができることを、改めてやらせるだけだから」
「そうなんですか?」
「そう。実はエミリーで前に試してみたことがあったの。……うちのダンナで」
「社長で?……それでその……社長はどうなりました?」
「どうもしないわよ。あの通り、ピンピンしてるじゃない」
「まあ、そうですが……」
「ひょっとしたら、気持ち良過ぎて眠っちゃうかもね」
「ええっ?」
 井辺よりも大食なアリス。
「じゃあ、私はちょっと出てるから」
「あ、はい」
 アリスは下膳台に向かうと、あとは食堂を出て行った。
 郊外に位置する研究所は、近隣に飲食店が無いため社食が設けられていて、多くの所員はそこで昼食を取る。
 ビジターカードを持った外部の来訪者でも利用可能。
 それでも極少数であるものの、外へ食べに行く者もいるようだ。
 あとは弁当持参とか……。
 井辺は新人ボーカロイド達のスケジュールを確認したが、今のところはまだ週末のイベントのような小さい仕事しかない。
(せめて彼女達が本来の用途であるボーカロイドとして、CDデビューまでは最低でも行きたい所ですが……)
 開いた手帳を閉じて、小さく溜め息。
 コップの水を飲み干して、井辺もまた平らげた食器を下膳台に持って行った。
 壁のポスターには、この食堂にも試験的にウェイトレス・ロボット(メイドロボットの亜種?)を配置するとあるのを見た。
 最先端のロボット技術を開発する研究所にしては今さら感があるが、アメリカ資本なだけに、実用性100パーセントの機能美が優先で、造形美は後回しなのかもしれない。
 それでも日本では造形美が喜ばれるということで、日本法人だからこそ実行できる内容なのだろうと井辺は思った。
 それを言うならエミリーとシンディはどうなんだとなるが、マルチタイプは旧ソ連で発案・開発されたもので、当時の敵国アメリカへのスパイやテロ工作員としての用途もあった。
 旧ソ連製なのに、名前がアメリカ人っぽいのはその為。
 機能美優先の欧米で、数少ない造形美も追求された数少ない機種である。

 と、それは突然やってきた。
 廊下に出た井辺は、確かにこの耳で聞いた。
 それは銃声。
 最初はシンディが実験の一環で発砲したのかと思ったが、まだ昼休みだし、整備中で中の機械が剥き出しの状態だ。
「研究員が撃たれたぞ!」
「早く中に入れ!!」
 窓の外で血しぶきを上げ、倒れる所員が何人かいた。

[同日12:30.同場所 井辺翔太]

 外から研究所に向かって、何者かがライフルを発砲している。
 ところが研究所もある程度想定していたのか、仙台の時と違って、ガラスが割れない。
 防弾仕様になっているのだ。
 だからなのか、

〔非常事態発生!非常事態発生!現在、テロ発生中です。敷地内にいる関係者は安全の為、直ちに館内へ避難してください〕

 との放送が流れている。
 当然、警備ロボット達が動き出す。
 外にいて被弾した関係者達の救出に向かう。
 こういう時、人間以外の方が安心だと思いきや……。
 外からのスナイパーの方が上手で、頭部を撃ち抜かれ、次々と破壊されてしまうのだった。
 あれに対抗できるのはシンディしかいない。
 だがシンディは今動けない。
 明らかにそれを狙っての犯行だった。
 万事休す!
 この言葉が、井辺の頭をよぎった。
 しばらくして銃声も止んだ為、井辺はそっと頭を上げ、窓の外を見た。
「危ない!」
 近くにいた研究員が叫んだ。
 スナイパーは窓に映った井辺を狙って撃って来た。
 幸いにも防弾ガラスのおかげで、被弾せずに済んだ。
 だが、物凄い威力だ。
 割れはしなかったものの、もう既にヒビが入っていて、あと2、3発も食らえば割れてしまうのではないか。
 そんな感じだった。
「敵は銃を違法改造しているみたいだ。頭を低くして、できるだけ窓の外に……って、おい!」
 井辺に声を掛けた研究員は、彼に話し掛けていた。
 その途中で立ち上がったものだから……。
「いえ、もう恐らく大丈夫です」
「えっ!?」
 外から聞き覚えのあるジェット・エンジンの音がしたのだ。
 ジェット・エンジンの音の主は、少し遠くにいたものの、視力の良い井辺には見えた。
「マルチタイプ……」
 茶髪を後ろに束ねただけのシンプルな髪形。
 だが、明らかにエミリーやシンディのように右腕が銃に変化していて、両足からジェットエンジンが噴いている。
 井辺は立ちくらみがして、その場に倒れ込んだ。
 初めて見た気がしないのだった。

[同日同時刻 研究所上空 ???]

 右手をライフルに変化させ、両足からジェット・エンジンを吹かして飛行する女性スナイパー。
 研究所内にいる、スーツの男を発見した。
 それは彼女のメモリーには、しっかりと保存されている人物だった。
(あんな所にいたなんて……。でも、元気にやってるみたいね。良かったわ。でも、あとどれくらい生きられるかしらね。ま、せいぜい頑張ってよ?コードネーム“ショーン”
 その時、下をサイレンを鳴らしながらパトカーが数台やってきた。
(ダメ押し)
 スナイパーは先頭を走るパトカーに向けて、1発発射した。
 それは左前輪に当たり、ハンドルを取られて、電柱に激突した。
(じゃあね)
 スナイパーはジェット・エンジンを吹かして、研究所から離脱していった。

[同日16:00.研究所東館1F・医務室 井辺翔太&シンディ]

「う……!」
 井辺は目が覚めた。
「プロデューサー、大丈夫!?」
 井辺の顔を覗き込むシンディ。
「わっ!?レイ……」
「れい?」
「あ……いや、失礼しました。ここは……?」
「研究所の医務室よ。プロデューサー、あの騒ぎで気絶しちゃったから、ここの関係者の人達が運んでくれたの」
「そ、そうでしたか……」
 周りを見渡すと、学校の保健室よりは見た目に充実した設備が整っているようだった。
 病院の処置室みたいな感じだ。
 その中に数台置かれているベッドに寝かされていたのだった。
「近くにいた人の話だと頭を打った感じはしないし、ケガもしていない。気持ちが高ぶって、意識喪失したんじゃないかって言ってたよ」
「そうかも……しれませんね」
 あの騒ぎで実験は中止。
 シンディの整備だけで終わってしまったそうだ。
「こうしてはいられません。早く、社長に連絡を……」
「ああ、それなら大丈夫」
「えっ?」
「社長もこの研究所に来てるから」
「そうでしたか!」
 シンディが先に立って、敷島のいる場所へ連れて行ってくれるそうだ。
 廊下に出ると、警察や関係者などが物々しく動き回っているのが分かった。
コメント (6)
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