[12月21日16:00.神奈川県相模原市緑区某所 タチアナ・イシンバエワの家 ユタ、威吹、カンジ、マリア、キノ、江蓮、イリーナ]
約束の時間に魔法機講技師であるタチアナの住宅兼工房を訪れたユタ達。
「刃が変わってやがる……」
刀の修理・強化を依頼した2人の剣客は、その出来栄えに目を疑った。
刃が変わったとキノは言ったが、形が変わったわけではない。
見た目に変わったのは色。
威吹の刃は青み掛かった色になり、キノの刃は赤茶色になっていた。
「何か、錆びてるように見えるんだが、どうしてこうなった?」
「錆びてなんかいないよ。むしろ10年はどんな激戦を潜った後でも、全くのノーメンテでいいくらいだ」
タチアナは自信満々に言った。
「のーめんて?」
「何の手入れもしなくて良いということです、先生」
カンジがタチアナの横文字を翻訳した。
「でもまあ、確かに帯びている妖気が強くなったような感じはするな……。試し斬りをしたいのだが、何かいいものは無いか?」
「そういうことならお任せ」
イリーナが魔道師の杖を高く掲げて、何か魔法を唱えた。
すると地面の中から、異形のモンスターが現れる。
(ドラ◯エの“つちわらし”に似てるな……)
と、ユタはとある有名RPGを思い出した。
「こりゃ、東北辺りの土着妖怪“土童(つちわらし)”じゃねーか?」
と、キノの言葉にズッコケるユタ。
「あ、実在の妖怪だったの……」
そういえば、童という漢字、東北では『わらし』と呼ぶのが一般的だ。
「関東では『わっぱ』、関西では『わらべ』でしょうか?」
と、カンジ。
「いや、知らん」
威吹は新しい刀を構えた。
そこでユタ、ふと気づく。
(確か、このつちわらしって、分裂するんじゃ……)
ユタはゲームの内容を思い出した。
「うわっ、分裂した!?」
「アメーバか、こいつらは!?」
威吹とキノは、つちわらし達に向かって行った。
「ったく!江戸時代なら、侍のフリして辻斬りできたのによォ!」
「知るか!」
江戸時代の辻斬りは、新人の侍が人を斬ることに慣れるため、もしくはベテランであっても、新しい刀を手にした際、それに慣れる為に横行したそうである。当然、治安の悪化を招くため、幕府は幾度と無く禁令を出したのこと。
で……。
「刃から、何か飛ばなかったか!?」
「う、うん……」
「魔力……まあ、妖怪だと妖力か。それが刀にある程度の量たまると、刃からビーム出るから」
「それ、とある有名SF映画の光る棒ちゃいます?」
ユタは変な顔をして突っ込んだ。
「だが、遠くの敵を斬る為の飛び道具代わりにはなるな」
と、キノ。
「慣れるまで大変そうだが、なぁに、実戦で慣れるだろう。せっかくだから、この機能も有効活用させてもらう」
キノは懐の中から、
「ありがとよ」
バンと何十枚もの札束を置いた。
「ふむ。キノがそう言うのなら、オレも新機能とやら、しばらく使ってみよう。刃自体は直ったわけだからな。今の魍魎を倒した時点で、刃こぼれ1つ無いというだけでも素晴らしい」
威吹も懐から小判の束を出して置いた。
「毎度ありー」
「じゃあ、帰ろうか。今から藤野駅に行けば、中央特快に乗れるかも……」
「だが、またあの急な坂を登り下りするのは、ボク達はともかく、ユタが大変そうだ」
そんなことを話しながら工房を出ると、
「帰りはあれに乗ったら?」
と、タチアナがある物を指さした。
そこにあるのはバス停。
で、
〔「名倉循環、藤野駅行きです」〕
バスが到着した。
「でーっ!お世話さまでしたーっ!」
ユタはバタバタと時間調整で停車中のバスに向かって走り出した。
「むぅわってーっ!!」
体力不足のユタを楽々追い越す江蓮。
体育会系とはいえ女子高生より身体能力の劣る、文科系男子大学生のユタだった。
「じゃあね、タチアナ。また来るからね」
「今度は何か手土産持って来いよ」
「あいよ」
〔「藤野駅行き、発車します」〕
〔発車します。お掴まりください〕
イリーナを最後に乗せると、バスがすぐに走り出した。
〔次は園芸ランド事務所前、園芸ランド事務所前。……〕
「これで、あの急坂を登り下りしなくていいぞ」
「確かに」
因みに刀は日本国内の法令を守る為、威吹は長い髪の中に隠して帯刀せず、キノは江戸扇子に化けさせて、袴の左腰に付けている。
「ふふふふ……。得したぜ」
キノは見た目以上に良くなった刀の使い勝手を気に入った様子だ。
「オレはまだ調整が必要かもな」
「新機能を使いこなせてこその強化だぜ?」
「まあ、それもあるけどな」
※尚、富士急山梨バス・名倉循環線は平日・土曜のみの運転で、実際には日曜・祝日は運転しません。
[同日16:11.JR藤野駅 上記メンバー]
「むぅわってーっ!!」
プシュー、ガラガラ……バン。(←無情にも江蓮の目の前でドアが閉まる115系)
………ガタンタタン、ガタン………タタンタタン、ガタン………。(←走り去って行く115系6両編成)
「あー、ちょっとタイミング悪かったねぃ……」
後から来たイリーナが目を細くして言った。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の列車は、16時44分発、中央特快、東京行きです。この列車は、10両です〕
「あ、でも、次の電車は東京行きだってよ」
「なるほど」
ポンと手を叩くユタ。
だが、
「で、その中央特快とやら、何分後だ?」
「33分後」
「は!?」
「まあ、こんなもんだよ。ハハハ……」
「しゃあねぇ。高崎線の高崎から上とかよりはマシだろ」
「そうそう」
江蓮は空いているベンチに座った。
「とはいえ、少し寒いな……」
「改札横の待合室にでも行きます?」
「あー、そうしよう」
「また階段を昇り下り……」
「エレベーター使う?」
待合室内はさすがに暖房が効いていた。
「地獄界に戻るのか?」
「ああ。明日、帰ることにする。まだ油断ならねぇ」
「……だろうな」
カンジがポーカーフェイスで眺めているタブレット。
異世界通信社のオンライン記事が映っているが、反政府ゲリラ達の活動は止まず、正規軍達が躍起になって押さえ込みに走っているという内容だった。
新しく結成した正規軍と、取りあえず攻撃力だけはあった反政府ゲリラとでは、前者の方が不利だったりする。
だから、戦い慣れている人間界在住の妖怪や地獄界の鬼族にもお鉢が回ろうとしているのだ。
「新年……迎えられるといいけど……」
ユタは不安そうな顔をした。
「まあ、ユタに関しては心配しなくいいよ。ボクがいるから」
「私もな」
「お、お手柔らかに……」
先行の特急列車が轟音を立てて通過していった。
約束の時間に魔法機講技師であるタチアナの住宅兼工房を訪れたユタ達。
「刃が変わってやがる……」
刀の修理・強化を依頼した2人の剣客は、その出来栄えに目を疑った。
刃が変わったとキノは言ったが、形が変わったわけではない。
見た目に変わったのは色。
威吹の刃は青み掛かった色になり、キノの刃は赤茶色になっていた。
「何か、錆びてるように見えるんだが、どうしてこうなった?」
「錆びてなんかいないよ。むしろ10年はどんな激戦を潜った後でも、全くのノーメンテでいいくらいだ」
タチアナは自信満々に言った。
「のーめんて?」
「何の手入れもしなくて良いということです、先生」
カンジがタチアナの横文字を翻訳した。
「でもまあ、確かに帯びている妖気が強くなったような感じはするな……。試し斬りをしたいのだが、何かいいものは無いか?」
「そういうことならお任せ」
イリーナが魔道師の杖を高く掲げて、何か魔法を唱えた。
すると地面の中から、異形のモンスターが現れる。
(ドラ◯エの“つちわらし”に似てるな……)
と、ユタはとある有名RPGを思い出した。
「こりゃ、東北辺りの土着妖怪“土童(つちわらし)”じゃねーか?」
と、キノの言葉にズッコケるユタ。
「あ、実在の妖怪だったの……」
そういえば、童という漢字、東北では『わらし』と呼ぶのが一般的だ。
「関東では『わっぱ』、関西では『わらべ』でしょうか?」
と、カンジ。
「いや、知らん」
威吹は新しい刀を構えた。
そこでユタ、ふと気づく。
(確か、このつちわらしって、分裂するんじゃ……)
ユタはゲームの内容を思い出した。
「うわっ、分裂した!?」
「アメーバか、こいつらは!?」
威吹とキノは、つちわらし達に向かって行った。
「ったく!江戸時代なら、侍のフリして辻斬りできたのによォ!」
「知るか!」
江戸時代の辻斬りは、新人の侍が人を斬ることに慣れるため、もしくはベテランであっても、新しい刀を手にした際、それに慣れる為に横行したそうである。当然、治安の悪化を招くため、幕府は幾度と無く禁令を出したのこと。
で……。
「刃から、何か飛ばなかったか!?」
「う、うん……」
「魔力……まあ、妖怪だと妖力か。それが刀にある程度の量たまると、刃からビーム出るから」
「それ、とある有名SF映画の光る棒ちゃいます?」
ユタは変な顔をして突っ込んだ。
「だが、遠くの敵を斬る為の飛び道具代わりにはなるな」
と、キノ。
「慣れるまで大変そうだが、なぁに、実戦で慣れるだろう。せっかくだから、この機能も有効活用させてもらう」
キノは懐の中から、
「ありがとよ」
バンと何十枚もの札束を置いた。
「ふむ。キノがそう言うのなら、オレも新機能とやら、しばらく使ってみよう。刃自体は直ったわけだからな。今の魍魎を倒した時点で、刃こぼれ1つ無いというだけでも素晴らしい」
威吹も懐から小判の束を出して置いた。
「毎度ありー」
「じゃあ、帰ろうか。今から藤野駅に行けば、中央特快に乗れるかも……」
「だが、またあの急な坂を登り下りするのは、ボク達はともかく、ユタが大変そうだ」
そんなことを話しながら工房を出ると、
「帰りはあれに乗ったら?」
と、タチアナがある物を指さした。
そこにあるのはバス停。
で、
〔「名倉循環、藤野駅行きです」〕
バスが到着した。
「でーっ!お世話さまでしたーっ!」
ユタはバタバタと時間調整で停車中のバスに向かって走り出した。
「むぅわってーっ!!」
体力不足のユタを楽々追い越す江蓮。
体育会系とはいえ女子高生より身体能力の劣る、文科系男子大学生のユタだった。
「じゃあね、タチアナ。また来るからね」
「今度は何か手土産持って来いよ」
「あいよ」
〔「藤野駅行き、発車します」〕
〔発車します。お掴まりください〕
イリーナを最後に乗せると、バスがすぐに走り出した。
〔次は園芸ランド事務所前、園芸ランド事務所前。……〕
「これで、あの急坂を登り下りしなくていいぞ」
「確かに」
因みに刀は日本国内の法令を守る為、威吹は長い髪の中に隠して帯刀せず、キノは江戸扇子に化けさせて、袴の左腰に付けている。
「ふふふふ……。得したぜ」
キノは見た目以上に良くなった刀の使い勝手を気に入った様子だ。
「オレはまだ調整が必要かもな」
「新機能を使いこなせてこその強化だぜ?」
「まあ、それもあるけどな」
※尚、富士急山梨バス・名倉循環線は平日・土曜のみの運転で、実際には日曜・祝日は運転しません。
[同日16:11.JR藤野駅 上記メンバー]
「むぅわってーっ!!」
プシュー、ガラガラ……バン。(←無情にも江蓮の目の前でドアが閉まる115系)
………ガタンタタン、ガタン………タタンタタン、ガタン………。(←走り去って行く115系6両編成)
「あー、ちょっとタイミング悪かったねぃ……」
後から来たイリーナが目を細くして言った。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の列車は、16時44分発、中央特快、東京行きです。この列車は、10両です〕
「あ、でも、次の電車は東京行きだってよ」
「なるほど」
ポンと手を叩くユタ。
だが、
「で、その中央特快とやら、何分後だ?」
「33分後」
「は!?」
「まあ、こんなもんだよ。ハハハ……」
「しゃあねぇ。高崎線の高崎から上とかよりはマシだろ」
「そうそう」
江蓮は空いているベンチに座った。
「とはいえ、少し寒いな……」
「改札横の待合室にでも行きます?」
「あー、そうしよう」
「また階段を昇り下り……」
「エレベーター使う?」
待合室内はさすがに暖房が効いていた。
「地獄界に戻るのか?」
「ああ。明日、帰ることにする。まだ油断ならねぇ」
「……だろうな」
カンジがポーカーフェイスで眺めているタブレット。
異世界通信社のオンライン記事が映っているが、反政府ゲリラ達の活動は止まず、正規軍達が躍起になって押さえ込みに走っているという内容だった。
新しく結成した正規軍と、取りあえず攻撃力だけはあった反政府ゲリラとでは、前者の方が不利だったりする。
だから、戦い慣れている人間界在住の妖怪や地獄界の鬼族にもお鉢が回ろうとしているのだ。
「新年……迎えられるといいけど……」
ユタは不安そうな顔をした。
「まあ、ユタに関しては心配しなくいいよ。ボクがいるから」
「私もな」
「お、お手柔らかに……」
先行の特急列車が轟音を立てて通過していった。