報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「英知の光」

2014-12-03 19:41:30 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月1日17:30.廃ホテル“クイーン・ラケル”跡付近 アリス・シキシマ、エミリー、シンディ、マリオ、ルイージ]

「キールは残念だったわね。せめて部品だけでも回収して……」
 車の近くに、キールのバラバラになった体が散乱していた。
「カナリ、強カッタデス」
 と、マリオ。
「まあ、そうでしょうね。モデルがマルチタイプじゃねぇ……。証拠物のメモリーは持ってる?」
「イエス。ドクター・アリス」
「あくまでもここでの解析は、本当にイージーなものだから。早く持ち帰るわよ」
 もうすっかり外も暗い。
 エミリーが先頭に立って、左目を光らせてライトにしていた。
「車には……全員乗れるわね」
 RV車である。
 因みにこれは平賀から借りた。
 アリスがエンジンを掛けて車を走らせようとすると、
「!?」
 ブレーキを踏んだ。
「どうか・なさいましたか?」
 助手席に座るエミリーがアリスの顔を見た。
 車のヘッドライトに照らし出されている物。それはキールの頭部だった。
「ちょっと待ってて!」
 アリスは車を降り、キールの頭部の所へ駆け寄った。
「Hum……」
 それを手に取り、左脛に装着したドライバーを取って、頭部を開けてみる。
「ドウシマシタ?メモリチップなラ、既ニ確保シテマスガ……」
「違うわよ。……やっぱり。……人工知能が無事なら、直せるかもしれない」
「何デスト!?」
「もちろん、ボディは1から作り直しだけどね」
 アリスはキールの“生首”を手に、車に取って返した。
「ドクター十条が逮捕されたら、それも証拠物件として押収されるんじゃないですか?」
 1番後ろのシートに座っているシンディが言った。
「ポリスにはメモリーチップだけ渡しとけばいいのよ。プロフェッサー平賀への事件の証拠は、それで十分でしょう」
 そう言って、今度こそアリスは車を走らせた。

[12月2日13:00.福島県福島市 福島赤十字病院 敷島孝夫]

〔「……さて、昨日に逮捕されましたJARA、日本アンドロイド研究開発財団の元・主任理事、十条伝助容疑者についてですが……」〕

 敷島は病室のテレビで、何度も繰り返し報道される十条逮捕のニュースを見ていた。
「まさか、いきなり事件の核心に近づけるなんて、世間の狭さに感謝です」
 敷島は自分のベッドの横を見た。
 そこには50歳前後の壮年男性の見舞客と、隣の入院患者がいる。
「大森さんがまさか、古市課長をご存知だなんて驚きです」
 敷島は隣の入院患者、大森に言った。
 かつてホテル・シークルーズで働いていた、年配の患者である。
 そして古市課長とは、敷島が大日本電機で働いていた頃の上司。
 M&Aで大日本電機が外資系企業に吸収されてしまい、古市もまた会社を去ることになった。
 大森は会社経営者(本人曰く、中小企業)で、実家が福島県の古市は故郷の会社に再就職し直した。
 それが大森の会社だったのである。
「ご存知どころか、そちらにお勤めだったとは……」
「確かに、世間は狭いな。まさか敷島君……もとい、敷島さんが芸能プロデューサーをやっているとは……」
「ボーカロイド専門ですけどね。人間のアイドルは無理ですよ。それより、今回の件は大森社長と古市課長のおかげです」
 大日本電機で総務課長だった古市は、大森の会社でも総務課長という……。
 敷島はテレビを指さして、2人に礼を言った。
「“クイーン・ラケル”の位置を教えて下さった大森社長と、そこまでのアクセスに際して便宜を図ってくれた古市課長にです」
「いや、私はたまたま知ってただけのことを教えてあげただけに過ぎない。古市君に関しても、たまたま彼の持ってる資格を活用したに過ぎないよ」
 それが何なのかは【お察しください】。
「しかし、JARAも大変なんじゃないか?主任理事と言ったら、実質的な理事長みたいなものだろう?」
「そうなんです。理事長なんて1度も登場していない……もとい、私も見たことはないくらい影が薄いので、実質的に十条博士が理事長みたいなものですからね。財団も1から出直し……いや、解散かなぁ……」
「敷島さんは仕事の当てはあるのかい?」
「奥さんが経営してる研究所があるんで、そこで細々とボカロ・プロデューサーでもやってますよ」
「細々ってキミ……」
 古市はテレビのチャンネルを変えた。
 別のワイドショーでは、今度はボーカロイドが取り上げられている。
「今年の紅白にボーカロイドが出るか否かで騒いでたじゃないか」
「結局、出場できなかったねぇ……」
「そうなんですよ」
「あんなに有名になったのに、お呼ばれしないなんて……」
「最近のNHKもおかしいですね、社長?」
「だよなぁ……」
(い、言えない。受信料滞納で落選したなんて……)

[12月9日15:00.宮城県仙台市太白区 仙台赤十字病院 敷島孝夫、平賀太一、エミリー、七海]

「こんにちはー。今日から同室の敷島でーす」
「冗談でしょう!?」
 敷島が病室に入って来る。
 そのベッドの上に上半身だけ起こしている平賀は変な顔をした。
 七海とエミリーはガイノイド同士、七海が会釈して、エミリーが右手を挙げた。
「敷島さんは退院されたじゃないですか!」
「まだ完治じゃないですよ。包帯が取れるまで通院です。それにしても、平賀先生がご無事で良かったですよ」
「七海が咄嗟に庇ってくれたおかげです。大破してしまいましたが、アリスに直してもらいましたよ。さすがですね」
「アリスはそれしか能の無い女ですから。少しは見直してもらえましたかね?」
「ええ。今までの無礼をお詫びします」
「シンディの稼働は?賛成派に回ってくれますか?」
「敷島さん、財団はもう休止状態ですよ。恐らく、このまま解散の方向に向かって行くんじゃないですか。自分は退院したら、あるプロジェクトを決行するつもりですから」
「あるプロジェクト?」
「全世界に散在しているバージョン・シリーズの人工知能を、遠隔で破壊するプロジェクトです。……ああ、マリオとルイージは別ですよ」
「そんなことが可能なんですか?」
「はい。財団が本部のビルを明け渡す前に、そうします。その頃には自分も退院してるでしょうから。屋上に不格好なロボットが現れたのも、それが原因なのかもしれませんね。あれも十条の爺さんの発明品だそうですから」
「なるほどねぇ……」
「それより、キールが修理可能なんですってね」
「そうなんです。『アタシって天才!』と、ホザいております」
「ま、まあ、人工知能やメモリーが無事なら、何とでもなるんですが……」
 平賀も苦笑した。
「ただ、ボディから作り直す必要があるので、設計図と費用が必要になるんです。うちみたいな貧乏研究所じゃ、何とも……」
「ボカロの稼いだギャラで何とかなりそうなものですが、まあ、とにかく、それなら自分に任せてください。これでも副理事なんで、財団で何とかしましょう。メイドロボットは何体も製作しましたが、執事ロボットってあまりいないんで……。あれも需要あると思うんですけどねぇ……」
 それを聞いたエミリー、ポロポロと涙を零した。
「財団の売り方が悪いんですよ。私なら、もっといい方法で売り出しますよ」
「おっ、頼もしい!」
「既に、借り手になりそうな先は確保してるんですよ」
「ほお!」
 アンドロイドを買おうとすると、かなりの額になるので、財団が希望者にレンタルするという形を取っている。
 一時期、ボーカロイドもそうだった。
 だが、扱いの悪い借り手が多かったため(人間のアイドルと同じく、枕営業させようとした)、すぐにボカロの貸し出しは中止になった。
(大森社長、あざざざざざーっす!)
「キール……直る……ですね……」
 泣くエミリーにハンカチを渡す七海。
「設計図、どうします?それもサツに押収されてそうだなぁ……」
「いや、原本はそうかもしれませんが、キールとて財団に登録はされてますから、それのコピーとかは本部にあるでしょう。ナツ(奈津子)に頼んで、探しますよ」
「もし良かったら、私が行きますよ。これからうちのボカロも、東京での仕事が多くなりますし」
「そうですか。じゃあ、お願いします」
コメント (4)
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