[12月15日15:00.埼玉県秩父地方山中 威吹邪甲&威波莞爾]
ザザザと藪を掻き分けて逃げ惑う黒いモノ。
それを追うは妖狐の師弟。
「そっちそっち!そっちに行ったぞ!」
威吹は先行する弟子のカンジに叫んだ。
「お任せください、先生」
カンジは普段の人間形態から妖狐の姿に戻っていた。
短髪から肩までの長さのボブヘアになり、頭からは白い狐耳が覗いている。
威吹に負けず劣らずの鋭い爪を生やした手で妖刀の柄を握り、引き抜いた。
「でやあーっ!」
その黒いモノに後ろから刀を振り下ろす。
「ギャアアアアッ!」
黒いモノは断末魔を挙げて、煙のように消えた。
「先生、やりました!」
カンジは達成感を顔に出して言った。
「油断するな!他にもいるぞ!」
「えっ!?」
威吹も刀を抜く。
そして正に、刀の如く鋭い鍵爪をカンジに振り下ろそうとする魍魎に飛び掛かった。
「はーっ!」
威吹はその大きな鍵爪を持った魍魎に斬り掛かる。
パッキィィン……!
「うっ!?」
何と、威吹の刀が折れてしまった。
「ぐわっ!」
直後、魍魎が反対側の腕で威吹を殴り飛ばす。
「先生!」
体勢を立て直したカンジは、魍魎の胴体を斬った。
噴き出す紫色の体液。
「死にさらせ!」
カンジは何度も魍魎を斬り付けて、ようやく魍魎も煙のように消えてしまった。
「大丈夫ですか、先生!?」
カンジは昏倒した威吹に駆け寄った。
「くそ……。油断したのは……オレの方だったか……」
「いえ、そんな!オレが悪いんです!すいません!」
人間なら殴り殺されたであろう、物凄い力だったが、そこは妖怪。昏倒で済んだ。
また、こんなこともあろうかと、即座に傷の回復する薬草を調合したものを魔境から取り寄せている。
「先生の大事な刀を……」
「いや、これもだいぶ古くなっていたからな。しょうがない。ただ、新たに刀を探すのが大変だ」
「何とか直せないでしょうか?」
「魔境に行けばあるいは……。ただ、相当時間は掛かるだろうな。魔界は待ってくれない。もっといい方法を探さなくては……」
「オレも手伝います!」
[同日同時刻 地獄界・叫喚地獄 蓬莱山一家]
「鬼之助様!もはやこれまでかと!」
配下の獄卒が傷だらけの状態でキノの前に倒れ込む。
「バカ野郎!諦めるんじゃねぇ!たかが旧・魔王軍崩れの連中だぞ!」
「ですが、鬼之助様!」
地獄界が魔界の魔族達に蹂躙されていた。
「姉貴が閻魔庁に救援を求めてる!親父が来りゃあんな連中、一ひねりだぜ!とにかく、オレ達は叫喚地獄の本部であるこの家を死守するんだ!ここが落ちたら、既に魔界に落ちた阿鼻地獄の二の舞だぞ!」
阿鼻地獄の獄卒達は虐殺され、そこにいた亡者達は亡者達で旧・魔王軍に拉致され、新たなる魔界の住民として、それはそれでまた別の地獄を味わうことになる。
なまじ経典に書かれていないので、何が起きるか全く予想だにつかない、阿鼻地獄よりも更にキツい地獄と言えよう。
「キノ兄ィ!大変よ!北門から魔族に侵入されちゃったよぅ!」
半泣きでやってくる末妹の魔鬼。
「なにいっ!?鬼郎丸は何やってんだ!?」
ドッカーン!
「うおっ!?お、母屋が!!」
母家が爆発、炎上した。
「早く食い止めろ!ここが落ちたらアウトだぞ!!」
「もういやああああっ!!」
魔鬼は頭を抱えて突っ伏した。
「どうしてそんなに地獄が欲しいのぉぉぉっ!!」
[同日同時刻 埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ]
〔「……気象庁発表によりますと、現在、関東地方全域に大雪、雷、暴風警報と低温注意報が出ています」〕
「こ、これは……!」
12月のさいたま市で大雪が降り出した。
その時、電話が鳴る。
「も、もしもし?」
ユタは電話を取った。
{「ああ、私。マリアンナだ」}
「ま、マリアさん……!」
好きな人からの電話に少し不安が和らぐユタだった。
{「今、人間界も魔界も地獄界も大変なことになってる」}
「一体、何だっていうんですか?」
{「大魔王バァルの復活の噂が実しやかに流れて、それに乗った親バァル派と反ルーシー派が一気に動いてしまったんだ。もう既に一部の魔族達が人間界に流入している。妖狐達が相手にしているのは、それのほんの一部だ」}
「こっちは物凄い大雪ですよ?」
{「雪女郎連合会(雪女の全国共同組合)が魔族達の動きを鈍らせるため、わざとそうしているとのことだ。常春のアルカディア地方在住の魔族達は、雪に慣れていないからな」}
「そ、そうだ。キノにも手伝ってもらって……」
{「あの鬼族か。多分、あいつらはもうダメだろう」}
「何でですか!?」
{「師匠からの情報だが、八大地獄のうち、既に3つが魔界の手に落ちた。当然あの鬼族達が管理している地獄界にも魔の手が伸びていて、正直旗色が悪い。閻魔大王直属の部隊が出動しているようだが、何とも言えない」}
「キノが対応できないなんて……」
{「それだけ酷い所なんだ、魔界という所は……」}
「僕が行ったアルカディアシティーは比較的いい町だったのに。……ちょっと治安は悪かったけど」
{「それは妖狐が睨みを利かせていたいたからだ。本来なら、地下鉄に乗るのはNGだったぞ」}
「はあ……。僕は、これからどうしたらいいんでしょう?」
{「なるべく家の外には出ない方がいい。今、妖狐達は不在なんだろう?ユウタ君はいくら仏法を辞めたとはいえ、まだ強い霊力はあるから、もしかしたら、魔族に嗅ぎ付かれるかもしれない」}
「ええっ!?」
{「私が行くから、それまで待っててくれ」}
「は、はい……!」
{「……心配いらない。あなたは師匠が見込んだ人間だし、私も……」}
「は?」
{「とにかく、待ってて」}
「は、はい」
ユタは電話を切った。
電話を切ると同時に、停電が発生する。
「ええっ!?」
まだ15時台なので真っ暗ではなかったが、この通り悪天候では、薄暗いことこの上無かった。
「うっそ……!?」
ユタは慌てて携帯型ラジオを引っ張り出した。
「マジかよ……!」
思いの外マリアは早く来たのだが、どんどん暗くなっていく野外の状況に、それまで家に1人取り残されたユタは生きた心地がしなかったという。
ザザザと藪を掻き分けて逃げ惑う黒いモノ。
それを追うは妖狐の師弟。
「そっちそっち!そっちに行ったぞ!」
威吹は先行する弟子のカンジに叫んだ。
「お任せください、先生」
カンジは普段の人間形態から妖狐の姿に戻っていた。
短髪から肩までの長さのボブヘアになり、頭からは白い狐耳が覗いている。
威吹に負けず劣らずの鋭い爪を生やした手で妖刀の柄を握り、引き抜いた。
「でやあーっ!」
その黒いモノに後ろから刀を振り下ろす。
「ギャアアアアッ!」
黒いモノは断末魔を挙げて、煙のように消えた。
「先生、やりました!」
カンジは達成感を顔に出して言った。
「油断するな!他にもいるぞ!」
「えっ!?」
威吹も刀を抜く。
そして正に、刀の如く鋭い鍵爪をカンジに振り下ろそうとする魍魎に飛び掛かった。
「はーっ!」
威吹はその大きな鍵爪を持った魍魎に斬り掛かる。
パッキィィン……!
「うっ!?」
何と、威吹の刀が折れてしまった。
「ぐわっ!」
直後、魍魎が反対側の腕で威吹を殴り飛ばす。
「先生!」
体勢を立て直したカンジは、魍魎の胴体を斬った。
噴き出す紫色の体液。
「死にさらせ!」
カンジは何度も魍魎を斬り付けて、ようやく魍魎も煙のように消えてしまった。
「大丈夫ですか、先生!?」
カンジは昏倒した威吹に駆け寄った。
「くそ……。油断したのは……オレの方だったか……」
「いえ、そんな!オレが悪いんです!すいません!」
人間なら殴り殺されたであろう、物凄い力だったが、そこは妖怪。昏倒で済んだ。
また、こんなこともあろうかと、即座に傷の回復する薬草を調合したものを魔境から取り寄せている。
「先生の大事な刀を……」
「いや、これもだいぶ古くなっていたからな。しょうがない。ただ、新たに刀を探すのが大変だ」
「何とか直せないでしょうか?」
「魔境に行けばあるいは……。ただ、相当時間は掛かるだろうな。魔界は待ってくれない。もっといい方法を探さなくては……」
「オレも手伝います!」
[同日同時刻 地獄界・叫喚地獄 蓬莱山一家]
「鬼之助様!もはやこれまでかと!」
配下の獄卒が傷だらけの状態でキノの前に倒れ込む。
「バカ野郎!諦めるんじゃねぇ!たかが旧・魔王軍崩れの連中だぞ!」
「ですが、鬼之助様!」
地獄界が魔界の魔族達に蹂躙されていた。
「姉貴が閻魔庁に救援を求めてる!親父が来りゃあんな連中、一ひねりだぜ!とにかく、オレ達は叫喚地獄の本部であるこの家を死守するんだ!ここが落ちたら、既に魔界に落ちた阿鼻地獄の二の舞だぞ!」
阿鼻地獄の獄卒達は虐殺され、そこにいた亡者達は亡者達で旧・魔王軍に拉致され、新たなる魔界の住民として、それはそれでまた別の地獄を味わうことになる。
なまじ経典に書かれていないので、何が起きるか全く予想だにつかない、阿鼻地獄よりも更にキツい地獄と言えよう。
「キノ兄ィ!大変よ!北門から魔族に侵入されちゃったよぅ!」
半泣きでやってくる末妹の魔鬼。
「なにいっ!?鬼郎丸は何やってんだ!?」
ドッカーン!
「うおっ!?お、母屋が!!」
母家が爆発、炎上した。
「早く食い止めろ!ここが落ちたらアウトだぞ!!」
「もういやああああっ!!」
魔鬼は頭を抱えて突っ伏した。
「どうしてそんなに地獄が欲しいのぉぉぉっ!!」
[同日同時刻 埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ]
〔「……気象庁発表によりますと、現在、関東地方全域に大雪、雷、暴風警報と低温注意報が出ています」〕
「こ、これは……!」
12月のさいたま市で大雪が降り出した。
その時、電話が鳴る。
「も、もしもし?」
ユタは電話を取った。
{「ああ、私。マリアンナだ」}
「ま、マリアさん……!」
好きな人からの電話に少し不安が和らぐユタだった。
{「今、人間界も魔界も地獄界も大変なことになってる」}
「一体、何だっていうんですか?」
{「大魔王バァルの復活の噂が実しやかに流れて、それに乗った親バァル派と反ルーシー派が一気に動いてしまったんだ。もう既に一部の魔族達が人間界に流入している。妖狐達が相手にしているのは、それのほんの一部だ」}
「こっちは物凄い大雪ですよ?」
{「雪女郎連合会(雪女の全国共同組合)が魔族達の動きを鈍らせるため、わざとそうしているとのことだ。常春のアルカディア地方在住の魔族達は、雪に慣れていないからな」}
「そ、そうだ。キノにも手伝ってもらって……」
{「あの鬼族か。多分、あいつらはもうダメだろう」}
「何でですか!?」
{「師匠からの情報だが、八大地獄のうち、既に3つが魔界の手に落ちた。当然あの鬼族達が管理している地獄界にも魔の手が伸びていて、正直旗色が悪い。閻魔大王直属の部隊が出動しているようだが、何とも言えない」}
「キノが対応できないなんて……」
{「それだけ酷い所なんだ、魔界という所は……」}
「僕が行ったアルカディアシティーは比較的いい町だったのに。……ちょっと治安は悪かったけど」
{「それは妖狐が睨みを利かせていたいたからだ。本来なら、地下鉄に乗るのはNGだったぞ」}
「はあ……。僕は、これからどうしたらいいんでしょう?」
{「なるべく家の外には出ない方がいい。今、妖狐達は不在なんだろう?ユウタ君はいくら仏法を辞めたとはいえ、まだ強い霊力はあるから、もしかしたら、魔族に嗅ぎ付かれるかもしれない」}
「ええっ!?」
{「私が行くから、それまで待っててくれ」}
「は、はい……!」
{「……心配いらない。あなたは師匠が見込んだ人間だし、私も……」}
「は?」
{「とにかく、待ってて」}
「は、はい」
ユタは電話を切った。
電話を切ると同時に、停電が発生する。
「ええっ!?」
まだ15時台なので真っ暗ではなかったが、この通り悪天候では、薄暗いことこの上無かった。
「うっそ……!?」
ユタは慌てて携帯型ラジオを引っ張り出した。
「マジかよ……!」
思いの外マリアは早く来たのだが、どんどん暗くなっていく野外の状況に、それまで家に1人取り残されたユタは生きた心地がしなかったという。