[12月1日15:00.福島県福島市 福島赤十字病院 敷島孝夫]
敷島は車椅子に座り、通話可能コーナーで、手持ちのスマホを手にしていた。
{「……療養中のボーカロイド・プロデューサーが何の用件かね?」}
相手は十条。
「これは……1ヶ月ぶりですかな。いや、もう少し日が経ってますか……」
{「何故、ワシがキミの見舞いに行かないのか聞きたいのじゃろ?」}
「まさか。そんなくだらないことじゃないです。平賀博士がテロ・ロボットに狙撃されたというのに、何のアクションも無い。その理由ですよ」
{「アクションならしておる。が、一NGO団体のワシらにこれ以上何ができる?今現在は、全て警察機関の捜査に任せるべきじゃ。ワシらがやたらと首を突っ込むことではない」}
「東京決戦を推進した方のお言葉とは思えませんなぁ……。あなたの忠実な執事ロボット、キールにライフルを仕込ませるのはルール違反じゃないんですか?」
{「何のことかね?」}
「マルチタイプをモデルに製作したのは、それが目的ですか?右手をいつでも銃火器装着が可能なように作ってあるのは……」
{「何を言っているのかさっぱり分からんが、もしワシに隠し事があって、それを聞きたいというのなら、ワシからも聞かせてもらおう。キミの妻と所有しているマルチタイプ、シンディはどこにいる?」}
「私は入院中で一歩も病院から出てないんですがね、いちいちヤツの居場所まで把握してませんよ。……何を恐れているんですか?かつての盟友の孫娘とそのロボットがお出かけしてるだけですよ」
{「さすがは東京決戦のヒーローだ。見くびらない方が良さそうじゃな。じゃが、ワシのことも見くびられては困る」}
「と、言いますと?」
{「ワシは今、キミの妻とロボットの行方は聞いた。じゃが、知らぬわけではない。ワシの忠実なロボット、キールもまもなく現場に到着する。意味が分かるか?敷島君」}
「では、別の意味でスーパーロボット大戦になるわけですか。そのセリフでは、まだご存知ではないようですね」
{「何がじゃ?」}
「その現場には、うちのマリオとルイージも向かってますんで」
{「何じゃと?」}
[同日同時刻 ホテル“クイーン・ラケル”跡 アリス・シキシマ&シンディ]
「ここは……?」
真っ暗な部屋だった。
どうやら、コンベンション・ルームらしい。
「うっ!」
部屋の中央まで来ると、近くの木製のドアを突き破って、1機のバージョン3.0が出て来た。
「まだ稼働してる個体が!?」
ギギギと錆びついているのか、動く度に軋む音が響く。
「無駄な抵抗はやめな!」
シンディは右手をショットガンに変えた。
「シンディ……様……コレ……ヲ………」
「!?」
シンディは片言の言葉を話す個体をスキャンした。
するとそれは、最近散見されるスキャン不能の個体ではなく、ちゃんとしたウィリー製作の個体だった。
そしてそれは、確かにシンディも前期型の時にこの個体を知っていた。
「レコーダー?」
バージョン3.0が差し出した手には、ボイス・レコーダーが握られていた。
それを受け取ると、バージョン3.0は煙を吹いて機能停止した。
アリスはそのレコーダーを再生した。
すると、そこから聞こえてきたのは……。
〔「に、2011年3月12日、18時12分……っ!録音開始!ようやくレコーダーを入手した。“クイーン・ラケル”は大破し、建物の大部分が海に沈んだ」〕
「っ……!あー……!」
アリスは言葉が出なかった。
「ど、ドクター・ウィリアム・フォレスト!」
代わりにシンディが声を上げた。
〔「また大きく揺れておる。このままでは、建物の崩壊も間近じゃろう。正しく道化に堕した者に相応しい末路じゃ。人の身では脱出はおろか、生き残ることさえ不可能じゃ。じゃが……ハハハハ……!十条!十条伝助!貴様に安泰は訪れない!何故なら、貴様との取り引きを記録した映像は、わしが肌身離さず持っているからじゃ!」〕
「な……何で、じー様、生きてるの……!?」
アリスは脱力して座り込んでしまった。
「それもそうですが、何かドクター十条、ヤバそうですよ?」
〔「東京での戦いの真実!そして貴様の欺瞞!全てこのワシが守り通そう!何年でも何十年でもーっ!!」〕
「東京決戦から何年も経ってるのに、どうしてドクター・ウィリアムはここで……?」
「わ、分かんないよ……。と、とにかく、このホテルに……じー様はいる」
アリスはシンディに抱えられるようにして立ち上がった。
「と、にかく行くわ……。もし、グランパが生きてるのなら、助けなきゃ……」
「はい」
[同日16:00.福島県福島市 福島赤十字病院 敷島孝夫]
「東京決戦の後で、ドクター・ウィリーの死体が出てこなかった理由についても考えていました」
敷島は今度は平賀奈津子に電話していた。
「確かに高層ビルの最上階から大爆発の大崩壊に巻き込まれてしまっては、死体すら残らないかもしれません。でも、もしかしたら、それって十条理事の思惑だったのかなぁって思うようになりました」
{「確かにあの先生なら、暴走したシンディですら、隅の隅まで調べたがるでしょうに、そうしませんでしたからね。ウィリーだって、誰もが目を背ける惨殺死体でも、平気で考察に使う検体程度に思うかもしれません」}
「それもそれで、随分とブッ飛んだ性格ですが、まあそれが十条理事のキャラクターだとしたら、やっぱり矛盾点があるんですよ。前期型のシンディをあんなに早く処分したがった理由、そしてウィリーの死体を消したかった理由。ついでに真相を知ってしまったと思われた私まで消そうとした理由……。もしかしたら、ウィリーはどこかで生きてるのかもしれません」
{「まさか……」}
「そこで奈津子先生にお願いなんですが、平賀太一先生が入院してしまった以上、今度は奈津子先生がエミリーのオーナー代行ですよね?」
{「まあ、そういうことになりますかねぇ……」}
「エミリーを出動させないでください」
{「はい?」}
「エミリーには、これから悲しい思いをさせることになってしまいます。なるべくなら、居合わせさせたくはないんで」
{「分かりました。……あっ?えっ!?」}
「どうしました?」
{「七海が、『エミリーが凄い勢いで飛び出して行った』と」}
「遅かったか!」
[同日同時刻 ホテル“クイーン・ラケル”跡 ホール アリス&シンディ]
見覚えのある舵輪型の取っ手を回し、大きな時計台のあるホールに出た。
さすがにここも電気が来ていないせいで、大きな振り子は止まっていた。
しかし、何故か微妙に明るい。
理由は燭台。
照明の代わりに、燭台にローソクが灯っていたのだった。
そして、その大時計の前に件の人物はいた。
「ドクター・ウィリアム!」
シンディが声を掛けると、
「おお……シンディか……。必ず、助けに来ると信じておったぞ……」
「ドクター・ウィリアム、一体何が……!」
シンディがウィリーに駆け寄った。
アリスは足が震えて動けない。
だが、信じられないことが起きた。
まるで大砲が打ち出され、着弾して爆発する音がホール中に響いた。
それもそのはず。
ウィリーが右手をロケット・ランチャーに切り替えて、シンディの左手を撃ち抜いたからだ。
「!!!」
シンディは左肩から先の腕を吹き飛ばされ、アリスの横に落とした。
左肩の先から火花と煙を噴き出すシンディ。
「ワシは騙されんぞ!十条!貴様のせいで、私の崇高なるプロジェクトはァァァっ!!」
バランスを崩したシンディは大階段から下に転げ落ちた。
「ぐ、グランパ……?何で?……何で、ロボット……いや、サイボーグに……???」
「十条!今こそ我が復讐の炎で焼き尽くす時だーっ!」
「ちょ、ちょっと待って!アタシ達、ドクター十条じゃないって!」
大時計が壊れたと思うと、中から巨大なロボットが現れた。
「バージョン400!?……いや、それよりも大きい……」
バージョン・シリーズを巨大化したかのようなロボットだったが、それがウィリーを飲み込んだ。
その時、別の入口から別のバージョン・シリーズが現れた。
正確にはバージョン5.0、アリス・アレンジタイプのマリオとルイージである。
「ドクター・アリス!救援ニ来マシタ!」
「キールハ御命令通リ、始末シマシタ!」
「OK!次の命令よ!あのロボットを倒しなさい!」
「アイアイサー!」
「カシコマリマシタ!」
ところが向き直って、
「マジデスカ?」
「マジよ!ロケラン持ってるから気をつけて!」
「マジ、パネェっス……」
「ツイテネェ……」
とはいうものの、製作者であるアリスの命令は絶対である。
2機のキノコ栽培戦闘ロボットは、すぐさま防衛体制に入った。
敷島は車椅子に座り、通話可能コーナーで、手持ちのスマホを手にしていた。
{「……療養中のボーカロイド・プロデューサーが何の用件かね?」}
相手は十条。
「これは……1ヶ月ぶりですかな。いや、もう少し日が経ってますか……」
{「何故、ワシがキミの見舞いに行かないのか聞きたいのじゃろ?」}
「まさか。そんなくだらないことじゃないです。平賀博士がテロ・ロボットに狙撃されたというのに、何のアクションも無い。その理由ですよ」
{「アクションならしておる。が、一NGO団体のワシらにこれ以上何ができる?今現在は、全て警察機関の捜査に任せるべきじゃ。ワシらがやたらと首を突っ込むことではない」}
「東京決戦を推進した方のお言葉とは思えませんなぁ……。あなたの忠実な執事ロボット、キールにライフルを仕込ませるのはルール違反じゃないんですか?」
{「何のことかね?」}
「マルチタイプをモデルに製作したのは、それが目的ですか?右手をいつでも銃火器装着が可能なように作ってあるのは……」
{「何を言っているのかさっぱり分からんが、もしワシに隠し事があって、それを聞きたいというのなら、ワシからも聞かせてもらおう。キミの妻と所有しているマルチタイプ、シンディはどこにいる?」}
「私は入院中で一歩も病院から出てないんですがね、いちいちヤツの居場所まで把握してませんよ。……何を恐れているんですか?かつての盟友の孫娘とそのロボットがお出かけしてるだけですよ」
{「さすがは東京決戦のヒーローだ。見くびらない方が良さそうじゃな。じゃが、ワシのことも見くびられては困る」}
「と、言いますと?」
{「ワシは今、キミの妻とロボットの行方は聞いた。じゃが、知らぬわけではない。ワシの忠実なロボット、キールもまもなく現場に到着する。意味が分かるか?敷島君」}
「では、別の意味でスーパーロボット大戦になるわけですか。そのセリフでは、まだご存知ではないようですね」
{「何がじゃ?」}
「その現場には、うちのマリオとルイージも向かってますんで」
{「何じゃと?」}
[同日同時刻 ホテル“クイーン・ラケル”跡 アリス・シキシマ&シンディ]
「ここは……?」
真っ暗な部屋だった。
どうやら、コンベンション・ルームらしい。
「うっ!」
部屋の中央まで来ると、近くの木製のドアを突き破って、1機のバージョン3.0が出て来た。
「まだ稼働してる個体が!?」
ギギギと錆びついているのか、動く度に軋む音が響く。
「無駄な抵抗はやめな!」
シンディは右手をショットガンに変えた。
「シンディ……様……コレ……ヲ………」
「!?」
シンディは片言の言葉を話す個体をスキャンした。
するとそれは、最近散見されるスキャン不能の個体ではなく、ちゃんとしたウィリー製作の個体だった。
そしてそれは、確かにシンディも前期型の時にこの個体を知っていた。
「レコーダー?」
バージョン3.0が差し出した手には、ボイス・レコーダーが握られていた。
それを受け取ると、バージョン3.0は煙を吹いて機能停止した。
アリスはそのレコーダーを再生した。
すると、そこから聞こえてきたのは……。
〔「に、2011年3月12日、18時12分……っ!録音開始!ようやくレコーダーを入手した。“クイーン・ラケル”は大破し、建物の大部分が海に沈んだ」〕
「っ……!あー……!」
アリスは言葉が出なかった。
「ど、ドクター・ウィリアム・フォレスト!」
代わりにシンディが声を上げた。
〔「また大きく揺れておる。このままでは、建物の崩壊も間近じゃろう。正しく道化に堕した者に相応しい末路じゃ。人の身では脱出はおろか、生き残ることさえ不可能じゃ。じゃが……ハハハハ……!十条!十条伝助!貴様に安泰は訪れない!何故なら、貴様との取り引きを記録した映像は、わしが肌身離さず持っているからじゃ!」〕
「な……何で、じー様、生きてるの……!?」
アリスは脱力して座り込んでしまった。
「それもそうですが、何かドクター十条、ヤバそうですよ?」
〔「東京での戦いの真実!そして貴様の欺瞞!全てこのワシが守り通そう!何年でも何十年でもーっ!!」〕
「東京決戦から何年も経ってるのに、どうしてドクター・ウィリアムはここで……?」
「わ、分かんないよ……。と、とにかく、このホテルに……じー様はいる」
アリスはシンディに抱えられるようにして立ち上がった。
「と、にかく行くわ……。もし、グランパが生きてるのなら、助けなきゃ……」
「はい」
[同日16:00.福島県福島市 福島赤十字病院 敷島孝夫]
「東京決戦の後で、ドクター・ウィリーの死体が出てこなかった理由についても考えていました」
敷島は今度は平賀奈津子に電話していた。
「確かに高層ビルの最上階から大爆発の大崩壊に巻き込まれてしまっては、死体すら残らないかもしれません。でも、もしかしたら、それって十条理事の思惑だったのかなぁって思うようになりました」
{「確かにあの先生なら、暴走したシンディですら、隅の隅まで調べたがるでしょうに、そうしませんでしたからね。ウィリーだって、誰もが目を背ける惨殺死体でも、平気で考察に使う検体程度に思うかもしれません」}
「それもそれで、随分とブッ飛んだ性格ですが、まあそれが十条理事のキャラクターだとしたら、やっぱり矛盾点があるんですよ。前期型のシンディをあんなに早く処分したがった理由、そしてウィリーの死体を消したかった理由。ついでに真相を知ってしまったと思われた私まで消そうとした理由……。もしかしたら、ウィリーはどこかで生きてるのかもしれません」
{「まさか……」}
「そこで奈津子先生にお願いなんですが、平賀太一先生が入院してしまった以上、今度は奈津子先生がエミリーのオーナー代行ですよね?」
{「まあ、そういうことになりますかねぇ……」}
「エミリーを出動させないでください」
{「はい?」}
「エミリーには、これから悲しい思いをさせることになってしまいます。なるべくなら、居合わせさせたくはないんで」
{「分かりました。……あっ?えっ!?」}
「どうしました?」
{「七海が、『エミリーが凄い勢いで飛び出して行った』と」}
「遅かったか!」
[同日同時刻 ホテル“クイーン・ラケル”跡 ホール アリス&シンディ]
見覚えのある舵輪型の取っ手を回し、大きな時計台のあるホールに出た。
さすがにここも電気が来ていないせいで、大きな振り子は止まっていた。
しかし、何故か微妙に明るい。
理由は燭台。
照明の代わりに、燭台にローソクが灯っていたのだった。
そして、その大時計の前に件の人物はいた。
「ドクター・ウィリアム!」
シンディが声を掛けると、
「おお……シンディか……。必ず、助けに来ると信じておったぞ……」
「ドクター・ウィリアム、一体何が……!」
シンディがウィリーに駆け寄った。
アリスは足が震えて動けない。
だが、信じられないことが起きた。
まるで大砲が打ち出され、着弾して爆発する音がホール中に響いた。
それもそのはず。
ウィリーが右手をロケット・ランチャーに切り替えて、シンディの左手を撃ち抜いたからだ。
「!!!」
シンディは左肩から先の腕を吹き飛ばされ、アリスの横に落とした。
左肩の先から火花と煙を噴き出すシンディ。
「ワシは騙されんぞ!十条!貴様のせいで、私の崇高なるプロジェクトはァァァっ!!」
バランスを崩したシンディは大階段から下に転げ落ちた。
「ぐ、グランパ……?何で?……何で、ロボット……いや、サイボーグに……???」
「十条!今こそ我が復讐の炎で焼き尽くす時だーっ!」
「ちょ、ちょっと待って!アタシ達、ドクター十条じゃないって!」
大時計が壊れたと思うと、中から巨大なロボットが現れた。
「バージョン400!?……いや、それよりも大きい……」
バージョン・シリーズを巨大化したかのようなロボットだったが、それがウィリーを飲み込んだ。
その時、別の入口から別のバージョン・シリーズが現れた。
正確にはバージョン5.0、アリス・アレンジタイプのマリオとルイージである。
「ドクター・アリス!救援ニ来マシタ!」
「キールハ御命令通リ、始末シマシタ!」
「OK!次の命令よ!あのロボットを倒しなさい!」
「アイアイサー!」
「カシコマリマシタ!」
ところが向き直って、
「マジデスカ?」
「マジよ!ロケラン持ってるから気をつけて!」
「マジ、パネェっス……」
「ツイテネェ……」
とはいうものの、製作者であるアリスの命令は絶対である。
2機の