報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「老害達の退去」

2014-12-02 19:44:01 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月1日16:30.岩手県宮古市郊外沿岸部 廃ホテル“クイーン・ラケル”跡 アリス、マリオ、ルイージ、シンディ]

「ジュウジョォォォッ!十条伝助ェェェェッ!!」
「トニカク撃テ、ルイージ!」
「ラジャーッ!」
 マリオとルイージは二手に分かれて、ショットガンやライフルを放った。
 だが、他の通常型バージョンと違い、高さ3メートル近くはある大型のバージョン400はその弾をいとも簡単に弾き返した。
「全然効イテイナイ!?」
「シンディ、大丈夫!?」
「大丈夫……です」
 シンディは自らの千切れた配線や部品をわざと体から排出し、飛び散る火花や煙、つまり電装系のショートを抑えた。
「腕くらいなら後で修理できるわ。無理しないで」
「ドクター、あれの弱点は?」
「弱点……」
 バージョン400の顔の部分に、ウィリーの顔が映っている。
「……多分あれは、正確にはバージョン400じゃないと思う」
「えっ?」
「もしそうなら、マリオ達の攻撃が効いてるはずだもの。それより……」
「ドクター・ウィリアムは、サイボーグに自ら改造して生き永らえておられたのですね。どうします?もう少し時間が経てば、エミリーがここに来ると思います。取りあえずはあいつらに時間稼ぎをさせて、その後、あれごと外に脱出するのは可能かと」
「本気で言ってるの?」
「アリス博士がお望みなら」
「コノワシニ敵対スル人間ハ全テ殺ス!」
「危ない!」
 ウィリーはアリス達に突進してきた。
 デカ物の割には、動きは素早い。
 シンディが残った右手でアリスを抱え、上手く交わした。
「もっとも、その結果に対する責任をアリス博士が取れるか、ですが……」
「あんたも嫌なガイノイドね。……取れるわけないでしょ!ちょっと右耳貸して!」
「はい」
 アリスは通信機のジャックをシンディの右耳の穴に突き刺した。
「エミリー、聞こえる!?キールがあんな目に遭っちゃって、さぞ辛いだろうけど、ちょっと協力して!」
{「……イエス。ドクター・アリス」}
「アタシの車の中に、秘密兵器があるから、それ持って来て」
{「秘密兵器?」}
「アレよ!」
 それを頭越しに聞いていたシンディは、
「ええっ、マジっすか!?」
 と、驚いた。

[同日同時刻 東京都新宿区西新宿 JARA本部 平賀奈津子&十条伝助]

「おや、赤月……失礼、平賀奈津子クンだったな。怖い顔して、何の用かな?」
 赤月は旧姓である。
「……キールは壊れましたよ。あなたのせいで」
「形あるものは、いずれ壊れる定め。これも、神仏の思し召しとは思わんかね?」
「世界中に名前を轟かせる方のセリフとは、思えませんね」
「何が言いたい?」
「自首してください、十条先生。世界的マッド・サイエンティストにして最凶の科学テロリスト、ウィリアム・フォレストとのテロ共謀と、太一に対する殺人教唆罪として」
「教唆?キールはアンドロイドじゃから、教唆犯にはならんと思うがね?」
「では、殺人未遂罪は認めるのですね!?」
「……さすがは、ウィリーが勧誘しただけのことはある。東京決戦の時、キミだけバージョン・シリーズが襲わなかったのも、その為じゃろう?」
「話をはぐらかさないでください。今、あなたがキールに命令したのを認めたわけですね!?キールは確かにアンドロイドですから、教唆犯にならないことも知っていた」
 現実的な例が、大型犬の飼い主が、それをけしかけて被害者を襲わせると、犬が傷害罪とか殺人未遂罪とかで捕まるか?……捕まらないのと同じことだ。
 例えいくら人間そっくりの形をしていて、意思疎通も人間同然にできたとしても、精密機械なだけのアンドロイドは逮捕されない。
 証拠物件として押収されるだけ。
 それを使って平賀太一を襲わせた十条の罪である。
「ただの条件反射じゃよ。証拠物件が無ければ意味が無い」
「証拠ならあります」
「なに?」

[同日16:45.“クイーン・ラケル” アリス、シンディ、マリオ、ルイージ、エミリー、ウィリー]

「タ、弾切レデス!」
「モハヤ万事窮ス!アリス博士!撤退ノ御命令ヲ!」
 2機の最新型バージョン兄弟は、ついにお手上げ状態となった。
「Sorry.それは許可できないわ」
「何デスト!?」
「我々ニココデ死ネトデモ!?」
「うるさいわね。博士がそう言ってるんだから従いな!」
 シンディが兄弟機を睨みつけた。
「デ、デスガ……!」
 すると、ホールの天井を突き破って、エミリーが飛んできた。
「お待たせ・しました!」
「OK.思いっ切り撃っちゃって!」
「どこから持ってきたんですか!?」
 エミリーが持ってるのはロケット・ランチャー。
「シンディ、お前も」
「はあ!?2つ!?」
「じー様がバージョンを何機か中東の無差別テロ組織に格安で売ったら、代わりにくれたんだって」
「どんな商売ですか!……てか、アタシ、右手しか無いから、あんたやって」
「ハ!」
 シンディは右手に持ったロケット・ランチャーをマリオに渡した。

 まずはエミリーが発砲する。
 気づいたウィリーが突進してきたが、その前に被弾した。
「いいわ!効いてる!もう一発!」
「了解!」
 マリオが打ち込むと、ウィリーは頭部と胴体が千切れ、火花と煙を散らした。
「ヤ……ヤット、死ネルノダ……!コレデ……私ハ……!」
 そして、爆発する。
「終わったわね」
「! ドクター、コレヲ!」
 爆発する直前、ウィリーが吐き出した携帯端末。
 ルイージがそれを拾ってきた。
「すぐにネットに繋いで世界中に拡散してやるわ!」

 そこに映し出されたものは……。

 場所は分からないが、どこかの建物の一室らしい。
 テーブルを挟んで、ウィリーと十条が向い合せに座っていた。
「……それで、東京への攻撃手段は?」
「都内の随所に、バージョン・シリーズを大量に配置しておいた。パーツごとに分かれているが、勝手に近づいて、自動で組み立っていく機能はキミも知ってるじゃろう?」
「なるほど。では、その為の端末を見せてもらおうか」
 十条はアルミ製のスーツケースをドンとテーブルの上に置き、その蓋を開けてウィリーに見せた。
「ワシの発明品じゃ。バージョン達も、完成体のままでは怪しいが、パーツが置かれているだけでは、都会の無関心というヤツで、通報する者もおらんじゃろう。もっとも、腕や足の1本無くても稼働できるロボットを作るのが、わしらじゃろう?」
「その通り。この端末で、あの大都会1つをひっくり返せるわけか」
「話は終わった。失礼するよ」
 十条は席を立って、ウィリーに背を向けた。
「誰も想像つかんじゃろうな。いくら若かりし頃からの知人とはいえ、今や世界中から忌むべき存在と化したこの私に大いなる力を与えたのが……ロボットを世界平和に活用しようと呼び掛けるNGO団体の大幹部殿であるとは……」

[同日同時刻 JARA本部 平賀奈津子&十条伝助]

 今の映像は、本部の役員室のPCでも見ることができた。
「……見ての通り、ここまで来れば、あなたも言い逃れできないんじゃないですか?」
 奈津子は努めて冷静に言った。
「……どうやら、財団のアンドロイド達を見くびっていたようだな。そして、ここの人間達もだ」
「もう1つの容疑ですが、キールのメモリーは消去しませんでしたね?破壊したキールの頭部から、メモリーチップを回収しました。その場での簡易的な解析ではありますが、太一への狙撃シーンがバッチリ映っているそうです」
「……奈津子クン。いや、奈津子クンだけではないな。キミの夫、平賀太一君も、そして敷島孝夫君も本当は気づいておるのじゃろう?あの東京決戦が無ければ、愚昧な大衆達は、ウィリーを始めとするロボット・テロの恐怖に気づくこともなかったと」
「……ええ。それはそうかもしれません。あの東京決戦は、一生忘れることはできないでしょう」
「ワシを罰せる者などおらん。世界の平和の為、成すべきことを成しただけじゃ」
「それは詭弁というものです。あなたはよくダンテの言葉を引用してましたね。ですが、あなたはダンテではありませんし、ウェルギリウスも存在しないんですよ?……日本アンドロイド研究財団主任理事、十条伝助!あなたを今日限りで、主任理事を解任致します。それと……ウィリアム・フォレストとの共謀罪並びに平賀太一に対する殺人未遂罪で、刑事告訴致します!」
「好きにするがいい。じゃがな、奈津子クン。キミは……違うな。財団は、大きな間違いを犯しておるぞ。何だか分かるか?」
「何でしょうか?」
「機械仕掛けの人形が、人間の上に立つようなことなど、あってはならんのじゃ」
「……別に、ここに所属しているコ達がそんな態度を取っているとは思えませんけどね。シンディもMEIKOも、ただ単に陽気でフレンドリーなだけですよ」
「……やっぱり、キミは分かっておらんな。ワシは逃げも隠れもせん。早いとこ、警察に通報するがいい」
「御心配なく。まもなく迎えが来ると思いますよ」
 ここで奈津子は、少し笑みを浮かべた。
コメント (6)
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