報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

ボツネタまた続き

2013-07-07 19:44:16 | 日記
 “新人魔王の奮闘記”より。

[09:00.闇の森“エルガの樹”前 安倍春明]

 朝食を終えた私達、視察団は中央の村だけでなく、闇の森の中でも聖域と呼ばれる場所に案内された。ここで私達は彼らの死生観を知ることになる。
 樹齢何百年もの大木が立ち並ぶ森であるが、その中で一際さらに大きな巨木があった。樹齢1000年は下らないのではないか。私は植物に疎いので、何の木だかは分からないが、広葉樹であるようだ。
 私達を案内してくれた村長レニフィール氏は、その巨木の前で立ち止まった。そして、
「お久しぶりです。エルガ様」
 と、その巨木に向かって挨拶した。私は聞いてみた。
「村長、この木は?」
「エルガ様の樹です」
「エルガ様とは?」
「妖精界を追われた私達の父祖をこの森まで先導し、そして今の楽園の礎を築いてくれた御方です」
 どうやら、かつてダークエルフ族の族長であった人で、今は故人のようだ。難民化した彼らの父祖を率い、この森に新たな楽園を築いたリーダーとして、今でも崇敬されているとのこと。
 彼らの宗教は先祖崇拝なのだろうか。
「私達は不老ではありますが、不死ではありません。病気や事故、そして戦で死ぬこともあります」
「ええ」
「私達は死ぬと遺体は残りません」
「えっ?……あっ!」
 その時、私は思い出した。人民軍掃討の際、多くの虐殺されたエルフ族を目の当たりにした。そして掃討作戦に成功した後、その遺体を埋葬しようとしたのだが、きれいに消えていた。その時はつい生き残りが埋葬したのかと思ったのだが……。
 では、遺体が消えてどうなるのか。そういえば村にも墓地は見当たらなかった。
 そしたら、不思議な話をしてきた。苗木に生まれ変わるのだという。
 既に多くの虐殺された村民が、森の焼け跡に苗木として生まれ変わっているのだという。
「このエルガ殿の樹も、エルガ殿の生まれ変わりだと?」
「はい、その通りです」
「……って、その時も苗木だったんですよね!?」
「そうですが?」
「……あの、樹齢1000年は行ってると思うんですけど、この樹?」
「そうですね。エルガ様が亡くなられてから、1000年は経ちます」
 1桁も2桁も違うな、ここの種族は……。とにかく、ここが彼らの聖域だということは分かった。
 これが彼らの死生観というものだろう。きっと、新たに生えてきた苗木が墓標みたいなものか。
 これはやはり、王国とは付かず離れずの関係の方がいいのだろうか。サイラスも似たようなことを言っていた。
 因みにこの村には、齢1000年を超える高齢者はいないのだという。そこまでは生きられないというよりも、逆にヴァール大帝によって殺害されたらしい。エルフ族の高齢者は強大な魔力を持つらしく、それを恐れたとか……。
 私は“エルガの樹”に、新政権の首相として挨拶をした。そして、彼らが王国の運営に協力して頂けるということで、前の2つの政権のような圧政、暴政はしないことを約束した。『3度目の正直』私はその言葉を思い出した。けして、『2度あることは3度ある』にならないよう……。
「ありがとうございました」
「では、次は“奇跡の泉”をご案内しましょう」
「どんな奇跡が起こる泉なんですか?」
「それは行ってからのお楽しみですわ」
「はは、それはそれは……」
 しかし、エルガの樹は、人間界だと世界遺産に申請できそうなものだな。もっとも、そんなこと彼らは望まないだろう。『そっとしておいてほしい』のが本音だろうな。
 だが、私達は奇跡の泉に行くことはかなわなかった。

[11:00.闇の森“中央の村” 安倍春明]

 奇跡の泉なる場所に向かう途中、サイラスと同じ弓矢で武装した村民がレニフィールの前に現れた。そして、何か深刻な事態が起きたようなことを話していた。私もエルフ語は分からないが、彼らの話しぶりからそう予想できた。
 そして村に戻って来た私達を待っていたのは、私達を糾弾する村民達だった。何だ?もしかして、聖域に入ったことを怒っているのか?いや、しかし我々は村長の案内で行ったものだ。私がエルガ殿に挨拶したのが気に入らなかった?いや、だったらその時、村長やサイラスが止めたはず。彼らは黙って私の挨拶を聞いていた。
「サイラス、一体何が起こったんだ?」
 私がサイラスに聞くと、サイラスも信じられないという顔をして答えた。
「アベさん達の中で、村の娘に毒薬を飲ませて昏睡状態にさせた者がいると……。アベさん達の中にいる犯人を出せと……こう言っています」
「はあ!?誰だよ!?」
 私は一団を振り向いた。
「わ、私ではありません!」
「私もです!」
「私の分析では、常備薬を持ち歩いている者は坂本とブラウンだけですね」
「坂本!」
「いや、俺が持ってるのは風邪薬と正露丸だけっスよ!?」
「自分もオロナインと絆創膏と頭痛薬です。しかも、村人にあげたりしてませんよ」
 薬を持っている2人はガン否定した。
「サイラス、何かの間違いじゃないのか?」
「そうですね……」
 サイラスは糾弾している村人の1人に話し掛けた。昏睡状態に陥った娘の父親だという。そして、何か話をした後でまた戻って来る。
「ダメです。娘は昏睡する前、『この村に来ている人間にもらった』と言っていたそうです」
「俺達しかいないな」
「だから。このままだとアベさん、村から出すことができなくなります」
「おい、マジかよ、それ!?」
「……人間だって、傷害容疑の犯人をのこのこ家に帰しますか?」
「……帰さないね」
 何てこったー!王国政府視察団から、一気に犯罪容疑者集団に転落してしまったー!!
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 ちなみにエルフという名のいすゞの2tトラックがある。エルガとは、いすゞの大型路線バスの名前……。すいません
コメント (1)
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