Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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ポールの帰米(2)

2006-09-11 15:57:39 | 報道写真考・たわ言
ポールが無事戻ってきた。

拘禁中に体調を崩していたと聞いていたので心配だったが、元気そうな笑顔で、ニューメキシコ州知事のビル・リチャードソンに続き、ワイフのリンダと飛行機を降り立った。

彼の姿を撮影しながら、僕らも抱きあって再会を喜んだ。もともと痩せていた彼が、牢屋のなかでハンガーストライキなど無理なこともやったようで、いっそう体重を落としていたようだ。それでもピューリッツアー賞2回受賞暦を誇るこの一流記者のスピリットは健在で、到着後の記者会見ではジョークを交えながら質問に答えていた。

今回の彼の釈放の舞台裏には、リチャードソン知事をはじめとした、相当数の政治家らによる働きかけがあったようだ。ジミー・カーター元大統領、将来の大統領候補と評価の高い上院議員のオバマ、それからU2のボノまでもが、スーダン政府にポール釈放を求める声明を発表していた。

ポール達はもともといわれのないスパイ容疑で拘禁されていたわけだし、これだけの多くの釈放要求のプレッシャーをうけて、スーダンのバシル大統領もこれ以上彼らを拘禁していても利益はないと踏んだのだろう。リチャードソンがバシルと個人的に親交をもっていたことも大きな助けになった。

ポールが拘禁されていたのは33日間。

この間、現地で任務にあたっていた米兵将校なども頻繁に彼を訪れ、必要なものの差し入れなどしてくれたという。

記者会見での彼の話を聞きながら、これがもし日本人だったらどうだったろうと、ふと考えていた。
僕は2004年に高遠さんら3人の邦人がイラクで人質になったときのあの「自己責任」バッシングの嵐を思い出していたのだ。

もし拘禁されたのが日本人記者だったら、アメリカの政治家たちがポールに対しておこなったほどの努力を、果たしていまの日本政府に期待できるだろうか?

ポールとの再会の嬉しさとは裏腹に、日本国籍をもつ一人の報道者として、僕は少々寒い思いを感じていた。


(写真:空港に降り立つポール)