Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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貧困町カイロの若者たち

2007-07-15 07:18:01 | 北米
貧困問題プロジェクトの一環のため、ミズーリ、ケンタッキー両州との境に近いイリノイ最南端の田舎町カイロに来ている。

ここは州のなかでもっとも十代の妊娠率が高い地域だ。

3日前ここに到着したとき、旧メイン・ストリートであったコマーシャル・ストリートの荒廃ぶりをみて驚いた。3ブロックほどに立ち並ぶ建物のうち現在でも営業しているのは一件の酒場のみ。建物はみな朽ち果て、以前ボーリング場だったというビルは2年ほど前に崩れ落ちたまま瓦礫の山となっている。通りを歩く人の姿もなく、ここだけを見れば、それはまるでゴーストタウンのごとくであった。

ミシシッピー川とオハイオ川が交わる地の利を生かして、船舶と鉄道輸送の拠点として栄えたカイロだが、1900年代にはいって船の技術革新や橋の増設が進むにつれその主要停泊地としての需要を失い、この街の経済は衰退していった。全盛期には1万3千ほどいた人口も、いまでは3千5百人足らずになっている。

衰退しきったかのように見えるこの街は確かに貧しい。しかしなぜ十代の妊娠率がそれほど高いのだろうか?

「他になにもすることがないから。。。」

低所得者のためのハウジング・プロジェクトに住む若い母親や父親を含め、僕が話を聞いた人たちは例外なく口を揃えてこう答えた。

コマーシャル・ストリートから1ブロック離れた新しい目抜き通りにも、映画館やショッピング・センターはおろか、若者たちが集まれるようなカフェなど一軒もない。街全体をみても質素な食堂が4件ほど、それらも午後8時9時には閉店してしまう。

比較的規模の大きいの隣町までは車で40分ほどだが、プロジェクトに住む多くの若者たちは車など持っていないし、公共のバスや電車があるわけでもない。仕事がないから収入もなく車など購入できないし、逆に車がないから仕事を探しに隣町まで行くこともできない。

「職もないのに学歴をつけても仕方がないさ。。。」

ティーン・エイジャーたちは将来への展望もないから教育に対する目的も見出せず、その多くが高校さえも卒業することなくドロップアウトしてしまうことになる。

スポーツ施設や娯楽施設、コミュニティーによる若者たちのための活動もまったく存在しないこの街で彼らのすることといえば、プロジェクトの敷地内でたむろし、友人の家でビデオをみたり酒を飲んだりマリワナを吸ったり。。。それしか楽しみもないからカジュアルなセックスの機会も増え、十代の妊娠率が異常に高くなるというわけだ。

責められるべきはそういう環境ばかりではない。福祉のシステムもおかしなことになっている。

これはカイロに限らずイリノイ州全体に対して言えることだが、あえて低賃金の仕事に就くよりも、生活保護をうけているほうが楽な暮らしができるようになっているのだ。わざわざ隣街までいって仕事を探し、時給6ドルほどの労働をするよりも、無職で保護をうけているほうが収入がいいから、若者、特に女性たちの労働意欲も喪失してしまう。さらに、扶養家族が多いほど保護の額も上がるので、それを目当てに子供をつくるケースも珍しくはないという。

「ここには何もすることがないし、仕事もない。だけどここを離れる手立てもない。。。」

プロジェクトに住む18歳のシャロンダは淡々とこう語った。彼女には4歳と2歳、そして2週間前に生まれたばかりの赤ん坊の3人の子供がいる。

これではいけないと意識の奥底では感じながらも、保護を受けながらとりあえずは生活できるし、同じような境遇の友人たちに囲まれて居心地も悪くはない。将来の希望があるわけでもなく、なんとなく流されながら毎日を過ごしている。。。

この街にはそういう空気が蔓延しているようだ。

(写真:ハウジング・プロジェクトの若い母親たちと子供たち)









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9 コメント

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Unknown (dumbo)
2007-07-15 12:01:25
うまくコメントできませんが、何か発したい衝動があるので書きます。

七夕の日、久しぶりに自分の願い事は何かな?と考えました。そしてそれは「この先どんなことが身に降りかかってお先真っ暗になっても、心を鎮めて目を凝らせば光が見えますように、その光に気づきますように」でした。それだけに高橋さんのこの報告は考えさせられます。
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Unknown (硝子)
2007-07-15 17:27:11
お帰りになったとおもったら、次のプロジェクトで相変わらずお忙しい様子ですね。そちらの暑さはいかがですか?この写真をぱっと見たときには、少女の表情と、赤子を抱える「母」達の写真でほほえましい感じ、母性を感じさせる力強い感じをうけたのですが、いろいろと問題を抱えているのですね。貧困といっても本当にさまざまな面があるんだな、と気がつきました。戦争や天災などによってもたらされるものから、社会構造や経済活動によってもたらされるもの、まだまだあるかもしれませんね。気になったのは、福祉のありかたですが、保護をうけていると労働意欲がなくなってしまう、という面もあるのですが、保護さえもなくなれば、犯罪や治安の面での不安定さも出てくる
ように思うのですが、どうなのでしょうか?またいつも思うことですが、そういう福祉や保護政策が本当に必要な人にいきわたらず、それを悪用してしまう人もいるということ。その財源には私たちの税金も使われているということ。結構身近な問題なんですよね。
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ワーキングプア (長谷川玲子)
2007-07-15 21:58:32
日本では、働けど働けど暮らしに困っているワーキングプアの方々が多くいます。テレビで見ました。若者からお年寄りまで。入院中の老妻を抱えた仕立て屋さんのお年寄りは、仕事も減りとても生活に困っているのに、生活保護が受けられません。奥さんのお葬式代にと必死で貯めた百万の貯金があるからです。その方はどうしても、そのお金に手を着けたくないのです。自分で見ていないのでよく分からないけど、日本の人達から離れられない私は、安易に子供を作り生活保護を受ける若者には憤りを感じてしまいます。
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生活保護システムの問題 (Kuni Takahashi)
2007-07-15 22:02:25
福祉の問題ですが、これがハンディキャップのある人や老人ならいいのですが、まだ20代の若者の労働意欲を衰退させてしまうことに問題があるとおもいます。本来なら子供の将来も考えて働き蓄えなくなくてはならないのに、そういう意欲を奪ってしまう。さらに悪いことに、こういう女性はほとんどシングルマザーですが、これまた職のない若い男たちが、生活保護である程度安定している女性と子供のアパートに居候として転がり込んでくるケースが多いことです。
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Unknown (硝子)
2007-07-16 20:38:54
私自身がこういう状況に生まれおちて、育っていったらば、やはり同じように「労働意欲がなく希望が見えない生活」を送っているように思います。一概に彼らを責めることのできない「何か」がありますよね。貧困が貧困を生む、という連鎖をたちきるにはどうしたらいいのでしょうか?労働の斡旋?教育?産業の誘致?行政だけの批判をするわけにはいかないとは思うのですが、シカゴより6時間も離れた過疎の地域で、
「とりあえず衣食足りてれば、治安や犯罪の面でもどうにかおとなしくしているだろう」と行政側は思っているのではないでしょうか?でも今現在のイリノイ州の財政状況はよくわからないですが、もし財政難になったときに最初に切られるのがこういう人たちの援助じゃないでしょうか?援助することに賛否両論あると思いますが、市民の身近な問題として提起するには行政側の思惑などもわかるといいですね。
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地震です (長谷川玲子)
2007-07-16 22:11:52
全く関係ないコメントで申し訳ないですが、今日また新潟で大きな地震がありました。ご存知でしたか?平成19年中越沖地震というそうです。マグニチュード6.8強で、今のところ死者七名負傷者八百名以上とのことです。私の住んでいる所は、震源地からかなり離れているのですが、まだ余震を感じます。新潟では三年前に、水害、中越地震と天災続きです。水害の時はボランティアに行きました。同じ県人として被災地の方の手助けをしたいのですが、何ができるか考えています。また一番被害が大きかったのは柏崎で原発があります。原発では大事に至らなかったけど火災がありました。それにしても、何故新潟に集中するのかな。日本の報告でした。
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Unknown (bluesnow)
2007-07-17 12:32:00
私が知っているインディアン居留地と同じ状況ですね。去年だったかノーベル平和賞をとったバングラデッシュの銀行システム?を使って、女性たちは自助努力を進め、居留地の経済開発も進んできたようですが、男たちは相変わらず駄目なようですね。白人男性(つまり社会システム)は、男同士の戦いにあって、少数派の”負け犬”に”情け”をかけるようなことはせず、”負け犬”も男のメンツにかかわるといわんばかりに意地を張りますから。。(笑)インディアンと黒人とでは歴史的背景がだいぶ違いますけど、それでも置かれている状況はよく似ているのでは。。働かねば食べていけない者側にすると、なんでみんな父親が違う子供を4人でも5人でもころころ産むだけの女(職場にもそういう20代前半の母親がいます、みんなと同じ時間給で働いて、その上に連邦から福祉の上乗せがあって、時間給があがってます、不公平だあ!!!怒笑)や、子供を産ませるだけの無責任きわまりない男たちを、我々の血税で養わねばならんのや、と怒ることも多いのは事実です。まあ、最後は教育の力しかないのでは、とか思いますけど、教育は時間がかかりますよね。。
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Unknown (Unknown)
2007-07-17 23:23:44
初めてコメントします。今まで何度か覗いていましたがうまくコメントできそうもないので書きませんでした。
若者がすることがない、仕事がないという状況というのはなんとも空しいように思えます。でもそれは紛れもない事実でその環境で生きていかなければならない。厳しい状況の中生きていく。そんな状態なのでしょうか。
私は実際にそういう状況の人たちを見たことがないし、自分の周りにもそのような環境はないので実感はしづらいというのが本音なのですが高橋さんのブログや写真を見るとその実情が伝わってきます。
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Unknown (miura)
2007-07-19 17:01:39
たしかイギリスでは、こうした問題から近年、
若年失業対策に力を入れ始めて
単純に失業保険を出すのだけでなく、
就職のアドヴァイザーをつけたり、技術訓練したり
さまざまな就職支援をしていると聞きます。

アメリカでは、そういう制度は充実していないのでしょうか。
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