「ドイツ・ヴィーガンの方々への和食料理教室」

2017年03月19日 | 日本の「食」

今日は午後から4時間、今年3回目、ドイツのヴィーガンの方々への、
和食料理教室でした。

「和のヴィーガン」は日本の料理の伝統や食材の選択、扱い方の中に
元々あるものです、というところからコースの説明スタートです。

一つ一つのレシピを伝えるのではなく、和食の基本的なこと、お米と
大豆のこと、昆布出汁、干し椎茸の戻し汁、旨味の相乗効果、日本の
発酵文化、天然調味料、味噌や醤油の種類と味の違いなどを、何度も
何度もその一つ一つの味見を繰り返しながら、キッコーマンやハナマルキ、
だしの素等の食品産業へのかなりキツイ冗談も交えながら、ゆっくり、
ゆっくりと伝えていきます。

米味噌、麦味噌、豆味噌の違いも分かって、豆腐の水抜きのやり方も
覚えて、合わせ味噌のコツも聞いて、最初の「絹さやと絹ごし豆腐の
お味噌汁」と、ほんの少しの隠元の胡麻和えが出て来る頃には、もう
一時間余りが過ぎています。

それでも、皆さん、本当に熱心で、「あぁ、本当に美味しい」とお代わり
もしてくれます。その間に箸の使い方だけでなく、箸の上げ下ろしの手順、
器の持ち方も一緒に練習します。

今日の参加者は計9人。20代後半から30代始めのカップルが3組、日本が
大好きな16歳の男の子とヴィーガンなどには全く興味のないお肉料理が
大好きなお父さん、それに、僕の長男の彼女のお母さんでした。
巨漢のお父さん以外は、皆もう長くベジタリアンで、その中ですっかり
ヴィーガン一本の人も半数以上でした。

昆布出汁や水だけで作る、具沢山の野菜中心のお味噌汁の部が終わると、
ドイツの人達が大好きな、お寿司の部に移ります。

紹介するのは巻き寿司、そして数種の具材とすし飯、四半切りの海苔さえ
あれば食卓で誰でも簡単に美味しく出来る手巻き寿司の二通りです。
巻き寿司は作りやすいように、そして、いろいろなネタを組み合わせて
楽しめるように、細巻きでなく、中巻きを選びます。

まずはお米の選び方、洗い方、炊き方、お砂糖を控えた寿司酢の作り方、
飯切りの仕方などを実演します。

その後はヴィーガンのコースなので、野菜中心の寿司ネタを次々に
紹介します。
最初に、火を使わずにぼぼ切るだけで出来る、すぐにネタになるもの
ー梅酢漬けの紅生姜、胡瓜の細切り、アボカドのスライス、クレソン、
ゴマなどがテーブルに並びます。
それから、椎茸の旨煮、細切り人参の塩煮、蒸し隠元、赤や黄色の焼き
パプリカ、オクラのたたき等を紹介し、一つ一つの味見もしてもらいます。
小休止もはさみ、もう二時間半は過ぎました。
いよいよ一人づつ、巻きずしに挑戦です。

両手に米粒が付いてどうしようもなくなったり、ご飯がはみ出したり、
上手く切れなかったり、或いはビギナーズラックで、一発でとても綺麗に
仕上がったり、本当にまちまちです。一人ひとりの作品を8巻から9巻に
切り分け、記念写真を撮り、グループ全員で相互に試食をします。形は
まちまちでも、皆とても美味しく出来上がっています。もちろん、
お醤油はあまりつけ過ぎないようにのアドバイスを忘れてはなりません。

『きちっとした天然の素材で、一つ一つの手順を丁寧に」の成果!
本当に美味しいね!
僕も参加者皆んなも、まさに笑顔の瞬間です。

今回のお醤油は、奧出雲の森田醤油さんの生醤油、野菜寿司にぴったり
の爽やかな深み、実に綺麗な味の醤油です。ドイツの人達もこんな醤油
は初めて、まさに目から鱗だとびっくりします。

これで大体コースも終わり、最後は皆で食卓に座って、手巻き寿司の
ホームパーティです。
数時間前は顔も知らなかった人達が和気あいあいと、ネタの組み合わせも
個人の勝手、日本のフィンガーフードを楽しむ、自由なフリースタイル
の寿司大会です。

寿司飯も海苔も、どんどんなくなっていきます。一方で、頭や知識だけ
でなく、各人の舌の記憶の中に、和食本来の味覚と寿司の味が初期定着
し始める時間だとも思います。

さて、開催者の僕達の方と言えば、僕と二人のスタッフ計三人で二日前
から準備と仕込みを始め、当日はほぼ10時間立ちっぱなし、集中力を
絶やさない長丁場。終わった時は相当にクタクタです。恥ずかしい話
ですが、採算面も毎回赤字です。過去10年、一度もプラスになったこと
はありません。

それでも、何故するのか、続けているのか?
やっぱり、和食が本当に好きだからそして、なんだか自分のためにも
なっているからだと思います。
また、昔よりも強く思うのは50半ばを過ぎてある程度年だからで
しょうか、この異国の地で半生を送り、家族も持ち、一つの仕事を
続けてこれたこと、そのドイツの社会や文化に自分の出来ることで
役に立ったり、喜んでもらったりして、恩返し出来ることは有難い
ことだという、心の動きです。

大分、長い文章となりました。料理コースの終わった後、一人で
ハノーバーまで列車で4時間移動してきました。もう真夜中になりました。
ホテルにも着きました。
明日からは三日間、日本の経済界の大型視察団の通訳、料理の仕事ほど
には気合も入りませんし、面白くもありません。
けれども、これが僕の生業、30年以上も家族と自分を経済的に支えて
きた活動です。

好きなことでなくとも、専門的に出来ることがあることを有難いこと
と思い、これからの10年間、ドイツ語でしっかりした和食の本を書き
表すためにも、この産業通訳の仕事を高い質で続けられるように、
家族の生計を立てられるように、もう少し頑張ろうと自分に話しかけます。

それでも、自分が本来、好きなこと、人生の中でずっと大切なことに、
和食の仕事に集中し切れない自分への歯がゆさ、情けなさは常につき
まといます。

このことについては、またの機会に、もっと根本的に前向きなこと、
新しいことをを書けるようにしたいと思います。

では、各々に、明日がまた良い一日となりますように。

(「www.culina-Japan.de」- ドイツで和食を伝えること」
 「ドイツの自宅で、和食の料理コース」という2つの関連の記事も
よければお読みください。)

 
 
 

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