草若葉

シニアの俳句日記
 ~日々の俳句あり俳句談義あり、そして
折々の句会も

私の好きな句、十句 (九分九厘)

2008-09-14 | Weblog

ゆらぎさんと百鬼さんの俳句雑感に刺激され、手持ちの資料から私の好きな句を、現代俳句に限って一人一句で十句選んでみた。典型的な写実俳句は出てこない。人間の生命が綿々と紡がれて営まれていく、そのかすかな軋み音の感じられる心象句が多いようである。使われている季語は半身後ろに控えていているようだ。

仄かなる男の地面ダリヤ立ち       飯島晴子
風花にあまる明るさ嫌ひつつ       赤尾兜子
万年の途中と言うて亀鳴けり       亀田虎童子
乱心のごとき盛夏の蝶を見よ       阿波野青畝 
一つづつ田螺の影の延びており      松本たかし
木枯とわれを去りゆくわれのあり     千代田葛彦 
春光に確かめて道あやたまず       村田 脩
こがらしのさきがけの星山に咲く     大野林火
冬雲を山羊に背負はせ誰も来ず      百合山羽公
長閑とはたとへばおのれなきごとし    清水芳朗

俳句は人に読んで貰って、分かりやすいのがよいと教えられているが、飯島晴子の句は極めて難解なものが多い。直観的に言わんとするところは感じ取れるのだが、やはり解釈を明文化しないと作者との会話が成立しない。仄(そく)には傾くという意味もあるが、磐石であったはずの男の地面が、はたから見ると仄かにぐらついている。その地面には、男のかつての欲望の対象であった赤紫色の幻想のダリヤが、直ぐと立ち上がっていて、男を皮相的且つ侮蔑的に見下ろしている。といった勝手な解釈をしながら、サスペンスを読んでいるような気をさせる飯島晴子である。それでいて<さるすべりしろばなのまだこの世なる>という句もある。

兜子の句は最晩年の句が好きである。<左脳に生きる言葉いたしや冬わらび><ゆめ二つ全く違ふ蕗のたう>。若い時の句はこれまた難解でかつ剛速球の感があるが好きな句が多い。

虎童子のユーモラスな句は、これこそが俳句の原点なのかと感心するのである。<初蝶に思はず道をゆずりけり><眼も鼻も口も悪くて海雲吸ふ><つれずれのこと省きたる落し水><余るほどいのちのあらず粽解く>。

青畝の句は自然描写の句が多いが、時に心象のいい句にめぐリ会う。<のけぞりに空蝉すがる青柚かな><蛍狂ふ女人高野の夜の雨><何の木といふことなしに御所紅葉>。

松本たかしの句は、黒々した墨の書を見る感じがする。<綺羅星は私語し雪嶺これを聴く><虹の中を人歩きくる青田かな><百姓の足袋の白さや野辺送り>。

葛彦の句は分身現象を詠みこむので、時間の認識が途切れてきて、薄ら寒い感じがする時がある。<傷舐めし今も幼き冬の空><いつもここで冬日の終わり川一条>。
 
                         
 ;写真は今頃の秋の季節に、見事に咲く布袋草の花     以上

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8 コメント

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精選句、流石に感じいりました (ゆらぎ)
2008-09-15 16:48:15
好きな句十選、大変興味深く拝見しました。いろんな人の句を読んで、かつ楽しんでおられるのに、感じいります。心象句が多いとのことですが、そこのところは共感を覚えます。

(好きな句)
万年の途中と言うて亀鳴けり      亀田虎童子
乱心のごとき盛夏の蝶を見よ      阿波野青畝 
春光に確かめて道あやたまず      村田 脩
長閑とはたとへばおのれなきごとし   清水芳朗


本当に色んな句がありますね。日頃接しているものとジャンルが違うのですが、九分九厘さんのコメントにも助けられて、鑑賞させていただきました。こんな句を詠めるようになるには、どうしたらいいのでしょうね。いつかその辺りのご意見もお聞かせください。松本たかしの、「綺羅星」には、惹きつけられました!

この記事が目に飛び込んで来たとき、一瞬あれと思いました。前から、このテーマにコミットしていたので、書き込もうかなと考えていたところでした。どこかで共鳴波が飛び交っているようです。続編を書きます。

 ご紹介に感謝です。
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御礼 (九分九厘)
2008-09-15 21:50:56
ゆらぎ様
 時に好きな句をまとめてみるのはいい勉強になりますし、気分転換になります。それにしても上手く詠むものですね。前からこの企画を提案されていたのを先取りしてしまったようですね。済みません。ゆらぎさんの続編を期待しております。他の方々も入れてもらうといろんな句を知る機会になって面白そうです。私もこの10句の中で「亀の句」が一番好きです。簡単な句ですが、これはなかなか思いつかないです。
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すきな句 (龍峰)
2008-09-16 10:24:49

万年の途中と言うて亀鳴けり     亀田虎童子 
木枯とわれを去りゆくわれのあり   千代田葛彦
冬雲を山羊に背負はせ誰も来ず    百合山羽公


心象句等とても詠める段階ではありませんが、九分九厘様のご紹介で読んでいきますと結構面白いことは間違いないですね。しかし、その前にやることが余りにも多すぎて難しいです。当分は写生句に専念です。
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好きな句 (やまもも)
2008-09-16 17:41:40
万年の途中と言うて亀鳴けり    亀田虎童子
こがらしのさきがけの星山に咲く  大野林火

十句はすべて、初めての句ばかりです。それぞれに趣がありますね。花鳥諷詠の写生句とは違う面白さに満ちていると思いました。飯島晴子も、或る年以前の句を全て捨て去られたとどこかで読みました。ジャンプするには、踏み込み飛跳ぶための土が必要なのだと思いました。
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お礼 (九分九厘)
2008-09-16 20:00:33
龍峰 様
 コメントありがとうございます。己の精神状況を、言語で表現するのが俳句だと定義するのならこんな心象句になるのでしょうね。さて問題は短くて的確な言葉を探して短い定型にするのが至難の技ですね。
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お礼 (九分九厘)
2008-09-16 20:19:20
やまもも 様
 皆さん全員「亀の句」がお好きのようです。私もこれが大好きです。ちょっとした発見かもしれないし、今まで誰も気づかなかったことかもしれないし、なにか不思議なほっとする気配を感じます。

晴子の秋の句二首

 晴天のどもりのために祈るすすき
 東はいまだきまらぬ柿の色
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好きな句 (百鬼)
2008-09-19 05:31:14
好きな句を選んでみました。

仄かなる男の地面ダリヤ立ち       飯島晴子
万年の途中と言うて亀鳴けり       亀田虎童子
乱心のごとき盛夏の蝶を見よ       阿波野青畝 
こがらしのさきがけの星山に咲く     大野林火
冬雲を山羊に背負はせ誰も来ず      百合山羽公

とくに最後の羽公の句が好きです。虎童子の「万年の途中」はいいですね。俳号もいい。よき句をご紹介いただき感謝です。
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お礼 (九分九厘)
2008-09-20 16:58:22
百鬼 様
 羽公の句もいいですね。悠然として、毅然としていて、こんな句を詠みたいものです。ご同感を頂戴し感謝です!
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