早苗田
急に思い立ち、三里に灸据えて、「東京さ」へ出かけた。これまでも訪ねようと思っていたがきっかけがなかった。しかし、コロナがやや下火になった今がチャンスと思って出かけた次第。10数年ぶりの東京であった。
車窓からは春の光景が次々と目に飛び込んだ。
早苗田や満々と水張られをり
菜の花の里までつづく近江かな
山梨辺りを通過時に浮かんだ桃源郷
一瞬過ぐは桃の花とや甲斐の山
老舗のうなぎ屋
昼前に東京に着くや否や、懐かしい老舗のうなぎ屋に直行した。東京勤務の40年前、時に訪れた。老舗の鰻は一口食べて、数十年前の変らなぬ味がよみがえった。
久に来し老舗の鰻とはの味
小名木川が墨田川に流れ込む地点、その向こうは清洲橋
芭蕉庵はこの近くにあった。
念願の深川の芭蕉庵のあった地を訪ねた。芭蕉記念館や実際に芭蕉庵が立っていたと思われる地、墨田川や小名木川の辺りを歩き匂いを嗅いだ。
草の戸を偲ぶよすがや春の風
翁愛でし石のかはずや芭蕉庵
春光や時流るるも墨田川
江戸の頃小名木川は舟を浮かべ月見をする名所だった。芭蕉も然り。そして春は。
舟浮かべ春惜しみけむ小名木川
そして庵を人に譲って1689年3月に奥の細道へ旅立った。
若芽吹く庵払つて網代傘
上野の森
上野では東京芸大美術館・芸大コレクション展や東京都美術館・二科会春季展を訪ねた。改めて上野の森の深さに印象付けられた。神保町の古書店街、その他都内のあちこちの変貌を遂げつつある姿を見て回った。そして代官山近くの西郷山公園でうぐいすの鳴き声を聞きホッとした。
赤レンガ上野の森の深みどり
アバンギャルドなる春季展疫払ふ
刻止まる古書肆 のはしご春日差し
うぐいすや都心の苑も裏山も