子供の頃誰もが抱いたであろう劣等感を
あますところなく
活字で的確に表してくれる。
長年の蟠りが
スッ
と融けて喉を流れてゆく感覚。
読書芸人がもてはやされたとき
中村文則と並んで名前が頻出した作家さんだけど
作風が確かによく似ている。
おそらくは作者の自伝的要素の強い内容なのだろうが
ピンポイントで同世代なところに
親近感を強く感じる。
確かにあの頃は就職氷河期だったなぁ。
そして今もみんなそこを乗り越えて
いきてるんだなぁ。
ボソリ。
そして43歳になった今
彼をこれから襲うであろうイベントに
先回りしているところが
実に面白い。
あの頃はこうだったなぁと思うと同時に
彼はこれからどうするのかな?
と思いながら読み進むことができるのだ。
ただ
出てくる映画や音楽は
馴染みのないものが多く
伊坂幸太郎の音楽の趣味に共感を覚えていたところもあり
浅学に恥ずかしさを感じる。
そして愚痴というものが
解決やアドバイスを求めたものではなく
「誰かに認めて欲しい」という
ただの承認欲求の極地である。
ということを静かに教えてくれた圷歩くん、
心の底からありがとう。
学業を修めて
いや、修めることすらほどほどに
日本という島国をあとにした知人が
極々極めて僅かながらいるが
日本人というものは
まだまだ魂の封建社会にあり
それが日本人を日本人たらしめているのかもしれん。
さて物語の後半は主人公が
ギラギラした10代とは変わってしまった
30代の世界がいつの間にかやってきているのだが
誰もが持つ劣等感を
個性として
あるいは友人として
受け入れることができた人ほど早く
落ち着いた世界を手に入れることができ
それが年相応に歳を取るということであり
それは
誰かに認められる
という手段を通じてのみ
昇華できる作業のように感じる。
いつだったか、
「僕らには西加奈子がいる」
という文庫帯をみたことを覚えている。
読み終わってまさにそう思う。
「みんなそう、みんなそうなんやで」
と卑しい劣等感を
抱きしめられたような気持ちになる一冊である。
と同時に
自分が自分に追いつくための物語。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます