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比較:影の警察国家(連載第12回)

2020-09-11 | 〆比較:影の警察国家

Ⅰ アメリカ―分権型多重警察国家

1‐3:国防総省の警察機能

 アメリカの連邦警察集合体の中核は前回まで見てきた司法省と国土保安省の所管機関に集中しているが、国防総省が所管する軍内警察機関もかなり大規模かつ強力である。
 軍内警察機関と言えば、軍隊内の法秩序の維持や警備などに当たる伝統的な憲兵隊があり、アメリカ軍においても、名称は各々若干異なるが、陸・海・空軍と海兵隊、さらに戦時下で軍として活動する沿岸警備隊それぞれの軍種ごとに憲兵組織が置かれている。
 しかし、アメリカの特色は、こうした憲兵組織に加えて、陸・海・空軍それぞれに独自の犯罪捜査機関が置かれていることである。これらも名称は各々異なるが、基本的には同等の性格を持つ機関である。
 中でも最も大規模かつ歴史が古いのは、1948年発足の合衆国空軍特別捜査局(U.S. Air Force Office of Special Investigations:AFOSI)であり、およそ3000人の要員を擁する。任務は空軍内の犯罪捜査であるが、特に空軍絡みの経済犯罪の捜査に重点を置いていることが特徴である。また、近年は、防衛サイバー犯罪センター部を運営し、防衛絡みのサイバー犯罪の取り締まりの中核機関となっている。
 これに次ぐ規模を持つのが、海軍犯罪捜査庁(Naval Criminal Investigative Service:NCIS)である。前身組織は19世紀の設立ながら、現行組織での発足は1992年と新しいが、約2500人の職員を擁し、そのうち1200人余りが特別捜査官である。しかも、大半の職員が文民の身分を持つ準文民機関であるという点で、事実上は海軍から独立した警察機関とも言える。
 NCISの任務は海軍及び独自捜査機関を持たない海兵隊に関わる連邦犯罪の捜査と海軍関連施設の警備に限定されるが、その範囲内ならば、連邦法違反事案を広く管轄し、全世界で捜査活動を展開する権限を持つ。そうした点では、FBIをはじめとする連邦の文民捜査機関に匹敵する役割を持つ。
 1971年に発足した合衆国陸軍犯罪捜査司令部(United States Army Criminal Investigation Division Command:USACIDC))は、如上の二機関よりもやや小規模である。権限の点でも、USACIDCは陸軍内の軍法違反及び重大な連邦法違反事案の捜査を担当するが、直接に立件することなく、捜査結果を他の適切な部署へ送致する調整的な役割に限定されている。
 なお、国防総省系機関として、国家安全保障庁(NSA)のような諜報機関も、対テロ対策の拡大に伴い、公安警察に近い機能を果たすようになっているが、これについては、節を改めて後述する。


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