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「サイバー冤罪」の恐怖

2012-10-08 | 時評

他人によって遠隔操作されたパソコンで爆破や殺人予告等の書き込みをしたとして、二人の男性が相次いで誤認逮捕された事件は、「サイバー犯罪」ならぬ「サイバー冤罪」というパソコン・ユーザーであれば誰でも巻き込まれ得る新たな冤罪の登場を示した。

この場合、誤認逮捕された人のパソコン内に送信記録自体は残されていた以上、捜査当局が当該パソコン所有者が犯人だと誤認してもやむを得ない事情があったと言えないこともない。

しかし、近年他人のパソコンを乗っ取るタイプのコンピュータ・ウィルスの存在は公知の事実となっており、パソコンを利用したサイバー犯罪の捜査ではその可能性を常に考慮しなければならないはずである。

従って、パソコン内に送信記録が残されていても、パソコン所有者を直ちに犯人と決めつけず、第三者が犯人である可能性が残されていないか、無罪方向の証拠を収集・検討する反面捜査が実行される必要がある。

こうした反面捜査は無罪推定原則から派生し、一般的にすべての犯罪捜査に妥当することであり、「サイバー犯罪」に限定される特殊な捜査手法ではない。

従来、日本の捜査機関はこうした反面捜査の習慣も問題意識も希薄で、一度目星を付けた人物についてはむしろ「有罪推定」に立って立件へ向けて流していくことを習慣化してきた。「サイバー冤罪」はそうした日頃の習慣の延長上で発生したことである。

せめて任意捜査の原則を尊重し、まずは被疑者に任意の捜査協力を求めつつ、慎重に調べを進めていけば、逮捕起訴に至る前に冤罪が晴れた可能性がある。

デジタル社会では他人に身に覚えのない犯罪を転嫁する偽装工作も技術的にたやすいという事実を、捜査機関がサイバー冤罪を「適正捜査」と正当化する口実に利用することを許してはならない。繰り返せば、「サイバー冤罪」はパソコン・ユーザーであれば誰でも巻き込まれ得る恐ろしい事態だからである。


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