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比較:影の警察国家(連載第60回)

2022-05-20 | 〆比較:影の警察国家

Ⅴ 日本―折衷的集権型警察国家

1‐1‐1:警察庁の集権化と行政浸透

 警察庁は、日本特有のスフィンクス型警察組織の頭部を成す警察行政機関として位置づけられるが、完全な国家警察ではないため、それ自身が犯罪捜査や警備・監視などの現場任務を実施するものではない。その点で、ドイツの連邦警察連邦刑事庁とは似て非なる機関である。
 とはいえ、警察庁は単なる形式的な管理機関ではなく、全都道府県警察の頂点に立ち、各警察本部の上級幹部人事を掌握する集権性を持った機関である。特に、1994年の警察法改正に際して、警察庁における言わば参謀本部である長官官房の職務権限を強化し、警察行政全般の総合調整の役割を付与したことで集権性を増している。
 また、この94年改正では、警察庁に生活安全局を新設したが、これは防犯や地域警邏、少年補導、風俗営業規制などの諸分野を統括する新たな部局の設置であり、それにより、都道府県警察業務の中でも最も地域密着型の分野を警察庁が中央から統制できる形となった。これも集権性を増強する制度改正である。
 日本の警察庁のもう一つの特質として、そこに所属する上級警察官である警察官僚が他省庁へ出向または移籍する形を取って、政府部内で横断的に活動することである。中でも、内閣の中枢事務を担う内閣官房である。
 その代表的なものとして、内閣危機管理監がある。これは、90年代の阪神淡路大震災やオウム真理教による化学テロ事件などの事変を契機として、1998年に大災害や大規模犯罪事件などに際しての政府の危機管理対策を統括するポストして新設された官職であり、歴代すべて警察官僚から任命される指定席である。
 もう一つは、同じく内閣官房に属する内閣情報官である。内閣情報官は日本における中央諜報機関である内閣情報調査室の室長を兼ねつつ、日本の諜報機関を束ねて内閣総理大臣に直接報告を行う事務次官級特別職であるが、これも2001年の設置以来すべて警察官僚から任命されており、指定席である。
 危機管理監や内閣情報官が属する内閣官房には三名の副長官が置かれるが、そのうち官僚から任命される事務系副長官は必ずしも警察官僚の指定席ではないものの、歴代しばしば警察官僚が任命されてきた。近年は2012年以来、二代連続で警察官僚から任命されており、指定席化の兆候が見られる。
 それとも関連し、2014年に中央省庁の幹部人事を統括する機関として新設された内閣人事局の局長にも、近年二代連続で警察官僚が官房副長官兼務で任命されており、これが慣例化すれば中央省庁人事全般に警察官僚の統制が及んでいく可能性がある。
 また、2011年の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故を契機に環境省外局として設置された原子力規制員会の事務局となる原子力規制庁の長官も初代以来、現在まで歴代四人中二人が警察官僚であり、その他の下僚出向者と合わせ原子力規制の分野にも警察官僚の浸透が見られる。
 このように、警察官僚はその本拠である警察庁を超えて内閣中枢や他省庁にも人事上浸透し、政府の運営全般に影響力を行使している。このことは、日本における影の警察国家化が警察の活動そのもの以上に、警察官僚を通じて行政的に進行していることを示している。


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