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続・持続可能的計画経済論(連載第13回)

2020-02-27 | 〆続・持続可能的計画経済論

第1部 持続可能的計画経済の諸原理

第2章 計画化の基準原理

(6)物財バランス③:数理モデル
 持続可能的経済計画における物財バランス基準の適用においては、厳密な数理化が必須であり、これを誤ると計画経済では需給関係の失調、しかもどちらかと言えば、需要を満たす供給が停滞し、物不足が恒常化することになりかねない。そこで、物財バランスの精緻な数理化が必要となる。
 その点、従来から、線形計画法の理論が開発されてきた。これは、主として旧ソ連の計画経済体制の中で、限られた資源の最適配分という観点から研究開発された数学的手法で、特にソ連の数理経済学者レオニート・カントロヴィチが、この分野の先駆者であった。
 線形計画法の理論自体は、市場経済下の個別企業の生産計画や輸送計画などにも応用可能であるため、市場経済の西側でも、オランダの数理経済学者チャリング・クープマンスが、一つの商品を生産するために必要な各生産要素の有限的な組み合わせを求めるアクティビティ分析の手法を開発した。
 カントロヴィチとクープマンスの両氏は、それぞれ東と西で別個に研究された業績により、1975年度ノーベル経済学賞を共同受賞しているが、ここで線形計画法を介して、計画経済理論と市場経済理論とが交差する形となったのは、興味深いことであった。
 これらの先駆的な線形計画法理論は、計画経済・市場経済いずれであれ、環境的な持続可能性という観点がまだ埋め込まれていなかった時代の研究産物であるから、これを持続可能的計画経済に応用するに当たっては、さらなる理論的進化を要するであろう。
 その点、線形計画法とは、簡単に言えば、第一次的な式で記述された制約条件の中で最適な目標値を得るための数学的な手法であるから、持続可能的計画経済においては、第一次的な基準原理となる環境バランスの制約条件内で最適な生産目標値を得るうえで応用できるであろう。
 もっとも、線形計画法は、およそ人間が何らかの計画を厳密に数理化する際の計算式を提供する広義の数理計画法の一つであり、数理計画法には、他にも線形計画法に対立する非線形計画法や、組み合わせ爆発を防ぐために最適化問題を多段階に分け、逐次段階を増やしながら解を求めていく動的計画法といった手法もある。
 おそらく環境バランスという予測困難で、複数通りの予測シナリオが想定される制約条件内での最適解を導出するうえでは、線形計画法を基礎としながらも、動的計画法を適用する必要があるかもしれない。いずれにせよ、こうした数理計画法の適用に当たっては、その物的基盤となるスーパーコンピュータや人工知能の利用が欠かせない。
 その点、旧ソ連の計画経済体制では、コンピュータ化の不備が厳密な計画策定の技術的な障害となっていたことが指摘されているが、思うに、これは旧ソ連型計画経済が貨幣経済と国家主導の上に成り立っており、国家による高度なコンピュータ化への投資力に限界があったがゆえであろう。
 それに対して、持続可能的計画経済は本質的に貨幣経済を前提としないので、貨幣による投資ということが必要なく―そもそも問題にすらならない―、貨幣経済下ならば国家であれ、企業であれ、巨額の投資を必要とする高度コンピュータ化や人工知能の活用も、決して困難なことではない。


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