ザ・コミュニスト

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リベラリストとの対話―「自由な共産主義」をめぐって―(29)

2015-07-19 | 〆リベラリストとの対話

27:共産主義的教育について⑤

リベラリスト:あなたは『共産論』の教育に関する章の最後に、「共産主義社会は人生やり直しをいつでも可能とする自由なライフ・リセット社会であり、これこそが「ポスト近代」社会の要件である。」とまとめています。名言だと思うのですが、これも我々リベラリストのお株を奪われた感があります。

コミュニスト:コミュニストならぬパクリストというわけですか・・・。しかし、こうした人生設計の自由は資本主義社会の下で得られるものでしょうか。

リベラリスト:たしかに、コミュニストさんもご指摘のように、資本主義社会ではライフ・サイクルによる制約がかなりあります。しかし、そうした制約は国によって相違もあり、おそらくあなたの日本社会は制約が強いのだと思います。しかし、グローバル化の時代にはライフ・サイクルにとらわれないより自由なライフ・コースが開拓されるでしょう。

コミュニスト:私はそれほど楽観的ではありません。たしかにライフ・サイクル的制約は国により異なりますが、この制約は文化的要因だけでは説明がつかず、人間を労働力として生産活動に動員することを中心に組み立てられた資本主義社会ならではの制約です。あえて言えば、人間は役畜と同じで、労働力としての適齢というものが決まっているのです。

リベラリスト:それはたしかに悲観的な見方ですね。しかし、特に若い世代には学校を修了した後、モラトリアム期間をしばらく保障するようなゆとりを持った社会を構築することは可能ではないでしょうか。

コミュニスト:それは結構なことですが、モラトリアム期間にも自ずと限界があるはずです。一方で、方向付けがないままの放任型モラトリアムでは社会的な「迷子」―いわゆるニート―を作ってしまう恐れもあります。

リベラリスト:その点ですが、あなたによると、共産主義社会では職業教育が重視され、義務教育に相当する一貫制基礎教育を修了すると、「原則として全員がひとまずは就職する体制」を作るとのですね。私にはこのほうがほよほど画一的な社会のように思えますが。

コミュニスト:人生設計の自由を抽象的にとらえると、「人生放任」の社会になって、先ほど述べたような「迷子」を増やすことになります。ですから、まずは全員をいったんは社会に送り出す。問題はその後の人生です。そこで、リセットができるかどうかなのです。

リベラリスト:あなたは労働に関する章で、「職業配分」という提案をしていましたね。これはやや統制的な印象を受けますが。

コミュニスト:「職業配分」は「労働統制」でも「労働市場」でもなく、教育ともリンクしたまさに人生リセットの具体的な支援制度なのです。

リベラリスト:教育に話を戻しますと、職業教育のような実践教育は資本主義とも矛盾しませんし、大いにやるべきだと思います。

コミュニスト:「やるべき」といっても、資本主義的教育は選別的ですから、職業教育コースと教養教育コースに早期選別されていくのが一般です。しょせんは、階級別教育システムなのです。

リベラリスト:そうした教育制度の不平等を正すべきだという一点では、意見の一致があります。

コミュニスト:「正すべき」といっても、資本主義社会では正しようがないというのが、私の意見です。本気で正したければ、社会のあり方を土台ごと入れ替える必要があるのです。ですから、はじめに戻って、私はリベラリストさんのお株を奪ったのではなく、リベラリストさんのお株を正しい土壌に植え替えようとしているだけなのです。

※本記事は、架空の対談によって構成されています。

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