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戦後ファシズム史(連載第37回)

2016-05-24 | 〆戦後ファシズム史

第四部 現代型ファシズムの諸相

2:管理ファシズム
 前回述べたように、現代型ファシズムはイデオロギー色を薄め、全体主義的な社会管理を志向するプラグマティックな権威ファシズムの性格を持つが、このような型のファシズムをここでは「管理ファシズム」と呼ぶことにする。
 元来、ファシズムは国民統合を高度に実現するための強権的な社会管理体制であるので、すべてのファシズムの本質に管理主義がある。従って、ファシズムの反共イデオロギー色を薄めていくと、後には管理主義が蒸留されて残ることになる。
 他方で、マルクス‐レーニン主義その他の社会主義イデオロギーを脱して、旧一党支配体制を再編するに当たって、変節的に管理ファシズムに到達することがある。このように、管理ファシズムには、ファシズムのイデオロギー的脱色化と脱社会主義イデオロギーの双方からのコンヴァージェンスとしての意義がある。
 このような管理ファシズムは、成立したばかりの新興国家、もしくは大規模な体制変動を経験した直後の再編国家を安定化させるうえで有効な面もあるため、冷戦終結以降の新興国家や再編国家においてかなり広がりを見せている。とりわけ、ロシアを含む旧ソ連構成諸国から独立した新興諸国において管理ファシズムが集中していることには一定の理由があり、これらは旧ソ連の体制教義マルクス‐レーニン主義からの変節化形態の事例でもある。
 管理ファシズムは、政治制度上は必ずしも議会主義を否定せず、むしろ「独裁」批判を回避する狙いからも議会制の形態をまとうことが少なくないが、議会では政権与党が圧倒的な多数を占め、野党は断片化・無力化されているのが通例である。
 また管理ファシズムにおける社会管理は何らかの差別的社会統制を通じて行なわれるが、大虐殺のような非人道的手法は慎重に回避されることが多く、その実態は外部からは見えにくい。ちなみに、近年は管理ファシズムの共通政策として反同性愛政策を執行することが多い。
 またカリスマ的指導者の存在は管理ファシズムに関する一つのメルクマールであるが、それも真正ファシズムに見られるような超越的指導者ではなく、一定以上の実務的な手腕を持つテクノクラート出身者が多い。これは戦後ファシズムではよく見られる現象であり、管理ファシズムにおいてその傾向は一段と増す。
 現時点における管理ファシズムの分布域は、アジア、アフリカが圧倒的な中心であるが、欧米や日本においても、反移民国粋ファシスト勢力が政権を獲得すれば、これらの「先進」地域にも拡散する可能性は十分にあると考えられる。


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