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戦後ファシズム史(連載第12回)

2015-12-25 | 〆戦後ファシズム史

第二部 冷戦と反共ファシズム

4:反共軍事独裁ドミノ
 冷戦期のアメリカは、いわゆる「ドミノ理論」に基づき、共産主義の拡散に対して強い警戒心を示したため、アメリカが世界戦略上重視する地域においては、軍事クーデターを背後で画策・誘発、もしくは黙認する手法で「反共の砦」となる同盟国を作出することに熱心だった。
 その結果、1950年代半ばから冷静終結期にかけて、とりわけアメリカが「裏庭」とみなす中南米と戦後旧大日本帝国勢力圏から引き継いだ東アジアを中心に、一部はアフリカや欧州、南アジアなどにも点在する広い範囲でアメリカないしイスラエルを含む西側陣営に後援された反共軍事独裁体制が続出する「反共軍事独裁ドミノ」と言うべき現象が発生した。
 これらの体制は、左派政権もしくは左傾化しているとみなされた前政権をクーデターで排除して成立した軍事独裁政権の形態をとるのが一般であるが、単に秩序回復のための中継ぎ的な暫定政権ではなく、アメリカ・西側陣営と連携して「反共」政策を体系的に執行するため、場合によっては数十年単位の長期に及び得る本格政権であることを特徴とする。
 その結果、これらの体制は反共イデオロギーを基盤に、国家権力を絶対化する全体主義傾向を強く帯びた体制となり、見かけ上はファシズムに近い色彩を示す。ただし、ほぼすべてがクーデター政権のため、その本質は大衆運動に基盤を置くファシズムではなく、共産主義勢力の鎮圧を最大目標に据えた一種の戦時体制であり、戦前日本の軍国体制に近い擬似ファシズムの特徴を持つ。
 このような形態の反共軍事独裁体制の事例は多数に上り、そのすべてを詳論するだけの頁数も力量もないので、ここでは、年表式で記すにとどめ、その中でも代表的・特徴的な六つの実例を次回以降改めて取り上げることにしたい。
 なお、下に掲げたもののうち、韓国とインドネシアの事例は、長期政権化する過程で当初の軍事政権形態から急速な経済開発を全体主義的な手法で追求する不真正ファシズム体制に転換されたと解釈できるので、続く第三部で取り上げることにする。

1954年
:グアテマラで軍事政権成立(~86年:66年~70年は形式上民政)

1957年
:タイで軍事政権成立(~73年)

1962年
:韓国で朴正煕政権成立(~79年:63年以降は民政標榜)

1963年
:ホンジュラスで軍事政権成立(~71年/72年~82年)、南ベトナムで軍事政権成立(~75年:67年以降は民政標榜)

1964年
:ブラジルで軍事政権成立(~85年)、ボリビアで右派軍事政権成立(~69年/71年~82年)

1965年
:ザイールでモブツ政権成立(~97年)

1966年
:インドネシアでスハルト政権実質成立(~98年)

1967年
:ギリシャで軍事政権成立(~74年)

1971年
:ウガンダでアミン軍事独裁政権成立(~79年)

1973年
:ウルグアイで軍事政権実質成立(~85年:81年までは形式上民政)、チリでピノチェト軍事独裁政権成立(~90年)

1976年
:アルゼンチンで軍事政権成立(~83年)

1977年
:パキスタンでジア‐ウル‐ハク軍事独裁政権成立(~88年)、タイで軍事政権再成立(~88年:80年以降は半民政化)


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