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リベラリストとの対話―「自由な共産主義」をめぐって―(31)

2015-08-09 | 〆リベラリストとの対話

29:本源的福祉社会について②

リベラリスト:年金も生活保護も必要ないという本源的福祉社会はたしかに魅力的ですが、その秘訣は労働と消費が分離されていることにあるわけですね。端的に言えば、働かなくとも食べていける社会。人によっては楽園と思えるでしょうが、それでは社会の生産活動が著しく停滞する危険と隣り合わせです。この問題は以前にも少し議論しましたが、改めてここで正面から議論しておきたい論点です。

コミュニスト:働かない=怠惰という図式をお持ちなら、まさしく資本主義的価値観だと思います。働かないのではなく、病気・障碍等で働けない場合のことを念頭に置いてみましょう。そういう状態は誰にも起こり得ることです。

リベラリスト:そういう場合は、それこそ社会保障によって支えていけばよいわけで、働けるなら、働いた報酬で食べていくのはいけないことですか。

コミュニスト:いけないとは言っていません。ただ、生活保護の受給条件でよく問題となるように、働ないのか、働ないのかの線引きはあいまいで、時に行政訴訟になるほど恣意的なものです。そういう無理な切り分けをするぐらいなら、労働と消費は初めから分離したほうがいいのです。

リベラリスト:そのうえで、労働は職業教育と労働配分によってコントロールしていくという構想だったと思いますが、一方で、本源的福祉社会では定年制も撤廃され、何歳でリタイアするかも自分で決定できるということでしたね。しかし、老年者がなかなか退職しない社会では、労働配分も困難にならないでしょうか。

コミュニスト:むしろ労働と消費が結合されている資本主義社会で、老年労働者がなかなか退職してくれなければ、代替の若年労働者の補充は困難となり、若年者の就労困難・貧困化が深刻になるでしょう。共産主義社会では計画的な人員補充が適宜行なえるので、そのような労働渋滞現象は起きません。

リベラリスト:理屈ではそうなのかもしれませんが、実際のところ、社会保障なくして、労働経済的なコントロールだけで人々の生活保障が成り立つという想定で大丈夫なのかという懸念が残ります。

コミュニスト:言い換えれば、福祉国家モデルは本当に消費期限切れなのかどうかという問いかけですね。たしかにそれは遅ればせながら福祉国家モデルに傾斜してきているアメリカを含め、世界が革命に流れるかどうかの分かれ道になるかもしれません。

リベラリスト:日本の共産党のように、企業課税強化による福祉国家再生論も根強いですね。

コミュニスト:企業課税強化論には実現可能性がありません。「近代的国家権力は、単に全ブルジョワ階級の共通事務を司る委員会にすぎない」(マルクス‐エンゲルス『共産党宣言』)のですから、そのような「ブルジョワ委員会」である国家がなぜ、ブルジョワの城塞である企業に重税をかけようとするでしょうか!共産党はどの政党よりもこの理を理解していなくてはならないはずです。

リベラリスト:アメリカについて言えば、アメリカ人は福祉国家でも、本源的福祉社会でもなく、自分で自分の世話をする「自己福祉社会」をいまだ支持しているようです。かれらは若きIT長者が体現しているような「アメリカン・ドリーム」から覚めていないのです。

コミュニスト:なるほど。しかし長期的に見て、出生率が高いヒスパニック系が人口構成上多数派になったときには、アメリカ社会全体がラテン化していきます。そうなれば、価値観も変化するでしょう。

リベラリスト:ヒスパニック系は本源的福祉社会を望むと?

コミュニスト:かれらは「ドリーム」とはあまり縁のない層ですし、文化的にも働き蜂ではなさそうですからね。

※本記事は、架空の対談によって構成されています。

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