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共通世界語エスペランテート(連載第7回)

2019-06-21 | 〆共通世界語エスペランテート

第1部 エスペランテート総論

(6)自然言語近似性

 前回、世界語たりうるための相対条件として、習得容易性をあげたが、もう一つの相対条件として自然言語近似性(または近自然言語性)をあげなくてはならない。すなわち、世界語は計画言語でありながら、自然言語にちかい語彙や文法構造を有している必要があるということである。
 その点で対照されるのはプログラミング言語である。周知のとおり、プログラミング言語とはコンピュータを作動させるうえで不可欠なコンピュータプログラムを記述するために作成された計画言語の一種である。プログラミング言語はコンピュータに対する指令を記述する言語であるから、厳格な文法規則にしたがい、かつきわめて単純化された形式で記述されなければならない。
 しかし、プログラミング言語はひととコンピュータのあいだでの一種のコミュニケーション言語であるため、ひととひととのあいだのコミュケーションに援用することは―ある種の暗号文としてなら不可能ではないが―適していない。ひととひととのコミュニケーションはより複雑微妙であり、言語があまりに形式的でありすぎれば、かえってコミュニケーションに困難をきたしかねないからである。
 他方、自然言語にも文法規則は存在するが、通常はさほど厳格に形式的ではなく、程度の差はあれ、柔軟化されている。それによって、ひと対ひとのコミュニケーションを円滑なものにしている。エスペラントをはじめとする従来の主要な国際計画言語のほとんどが自然言語近似性をもって作成されてきたのも、首肯できるところである。
 その点で、注目されるのは、もっともあたらしい計画言語の一つであるロジバン(Lojban)である。ロジバンはエスペラントなどの旧世代計画言語とはおおきくことなり、論理学的な述語論理を文法規則の基礎におき、語源の点では世界の自然言語をはばひろく渉猟しつつ語彙を創出し、中立的なオリジナリティーを追求している。
 ここでロジバンについて詳論する余裕はないが、ロジバンの基本的な目的は、自然言語につきまとう曖昧さを徹底的に除去し、二義をゆるさない意味明瞭な言語表現を可能にすることにあるとされる。そのために、述語論理を基礎とし、プログラミング言語にちかい性質―いわばプログラミング言語近似性―をもたせようとするこころみである。
 これはロジバンが元来、「ひとは体得した言語によってその思考形態が左右される」という言語学仮説(サピア‐ウォーフ仮説)の検証のために開発され、人間同士のコミュニケーションの手段として普及させることを目的としない実験言語であるログラン(Loglan)をベースに開発されたことに由来している。
 しかし、曖昧さの排除に専心するあまりに、論理学の知識を要する述語論理に傾倒することは、かえって習得容易性という条件をみたさなくなる可能性もあり、ロジバンやそれに類する新世代の計画言語には世界語としての普及可能性に関して疑問符もつく。
 そうした点で、自然言語近似性は世界語の相対条件として維持すべきものとおもわれる。ただし、ロジバンには例外のない文法規則の一貫性や高度な言語学的中立性など世界語たりうる条件としてみるべき点もあるので、エスペランテートを考案するうえでも参考に供されるべきものである。


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