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比較:影の警察国家(連載第33回)

2021-02-28 | 〆比較:影の警察国家

Ⅱ イギリス―分散型警察国家

2‐1‐3:国境隊及び移民執行局

 前々回と前回に見た国家犯罪庁と保安庁はいずれも内務大臣の管轄下にありながら、内務省の部局でなく、一定の独立性を持った特殊機関という性格を持つが、内務省の部局として設置されている法執行機関として、国境隊(Border Force)と移民執行局(Immigration Enforcement)がある。
 2010年以降のキャメロン保守党政権下では、警察・治安機関の大幅な再編がなされたが、この二つの機関も同政権下の2012年に設置された新機関である。それ以前、労働党政権下の2008年に設置された英国国境庁(UK Border Agency:UKBA)を分割・再編したものである。
 この前身機関UKBAは、それまで複数の機関に分散されていた国境警備・関税・移民などに関する法執行権限を集約した集権的機関として登場したが、包括的な機関となりすぎ、業務に関する苦情が発足当初より集中したため、政権交代後、分割される形で再編された経緯がある。ここでは、警察機関の分散というイギリス的伝統が作用したようである。
 国境隊はその名の通り、国境での人と物の出入りを直接に統制する任務を持つが、軍に近い性格を持つ他国の国境警備隊よりも文民警察の性格が強く、国境ではあらゆる犯罪の被疑者を拘束し、警察官に引き渡す権限を持っている。
 また、近年はテロ対策の任務も加わり、テロリストによる武器や放射性物質・核物質の持ち込みを監視し、取り締まることも重視されている。
 一方、移民執行局は移民法の執行を専任する法執行機関である。移民法違反の取り締まりが中心的任務であるが、特捜班として犯罪・金融捜査チームを擁し、人身売買や現代的奴隷制その他の組織犯罪・経済犯罪の取り締まりにも拡大されている。
 従来、イギリスの国境・移民管理は欧州連合の枠内での行政管理的な方式で行われてきたが、欧州連合脱退という新たな状況下で再び単立国家となったイギリスの国境・移民管理は「テロとの戦い」テーゼや移民排斥的風潮の高まりとともに、より警察的・抑圧的となる可能性を秘めている。


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