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続・持続可能的計画経済論(連載第40回)

2022-12-05 | 〆続・持続可能的計画経済論

第3部 持続可能的計画経済への移行過程

第7章 経済移行計画Ⅰ:経過期間

(7)農林水産業の統合準備
 持続可能的計画経済にあっては、食糧生産に関わる農林水産業は基幹産業分野の生産計画Aとは区別された生産計画Bとして別立てとなるが(拙稿)、計画の立案と実施は農林畜産事業機構または水産事業機構といった統合企業体自身によって行われる。
 経過期間においては、そうした生産計画Bの計画主体となる統合企業体の設立に向けた準備過程が遂行される。中でも、農林畜産分野は土地制度とも密接な関連を有するので、前回見た土地所有権制度の廃止過程とも重なる。
 すなわち、農林畜産業の生産要素となる農地や林野、牧草地もすべて所有権観念から解放され、無主物として公的な管理下に置かれることが前提である。その点でも、しばしば社会主義的な「農地改革」政策として実行される農地の接収と分配とは全く異なるプロセスとなることに留意される必要がある。
 そのうえで、経過期間開始時に農林畜産業がいかなる経営形態を採っているかにより、準備過程の様相も異なる。自営的家族経営形態が主流を占めている場合は、統合企業体の設立はゼロからのスタートとなるため、各経営家族への告知と試行を通じた慎重な過程となる。
 自営的家族経営形態を前提としながら、協同組合組織が定着している場合は、それらの協同組合組織を合同して統合企業体を結成することは比較的容易である。その場合、協同組合の中央組織が核となる。
 いずれも場合も、旧来の農林畜産業者は将来の農林畜産事業機構の現地管理者または農林畜産労働者に対する業務指導員として包摂されることになるため、そうした地位の変更に伴う研修も必要となる。
 一方、経過期間開始時に未だ半封建的な大土地所有制が存残している場合、土地所有権を喪失した旧地主のうち、不在寄生地主ではなく、自ら現地で農林畜産経営に従事していた者は、農林畜産事業機構の現地管理者として再雇用される余地がある。
 以上の基本的なプロセスは水産分野にもほぼ妥当するが、水産分野で土地に相当する水域は元来、個人的所有権の対象ではないため、農林畜産分野のような所有権廃止と関連した準備は要しない。
 ただし、経過期間開始時に漁船所有者による網元制度のような半封建的な漁業経営形態が依然として残存している場合は、そうした旧制の解体プロセスが先行し、然る後に統合企業体の設立過程に入ることになろう。

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