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空中弾道兵器の廃絶こそ

2022-12-15 | 時評

与党が「敵基地反撃能力」の保有を軸とする防衛費の大幅増大策を決めようとしているが、以前の稿でも述べたとおり、「敵基地反撃」は観念論であり、実際にそれを憲法9条の枠内で実行することは不可能である。

辛うじて可能だとすれば、第一撃を受けた後、第二撃以降を阻止するための自衛行動として反撃する場合だけであるが、現代の最新鋭弾道ミサイルなら第一撃が領土内の陸地に命中すればそれだけでも相当な被害を生じることは避けられないうえ、第二撃以降がどこから撃ち込まれるかの予測を瞬時的確に行うことは不可能である。

そこで、そもそも第一撃を受ける以前に先制的自衛行動として「反撃」するならば、これは憲法9条が禁ずる武力行使そのものであるから、紙切れ三通で決められることではなく、正面からの憲法改正を必要とする。

改憲を歴史的宿願とする与党が相変わらず正面から改憲を提起せず、〝解釈改憲〟の手法で9条を空洞化するやり方に固執する理由は定かでないが、「敵基地反撃」はそれを文字通り実行する気なら、もはや〝解釈改憲〟という伝統の術策では対応しきれないこと明らかである。*想定されるのは、例によって同盟主・米国からの手っ取り早い政策転換の要求、あるいは9条改憲にいまだ積極的と言えない連立相方党への配慮である。

こうした事実上の超法規的改憲策動に対する「反撃」も、野党や平和運動の弱体化に伴い、風前の灯火ではあるが、そもそもの問題の発端はミサイルに代表される空中弾道兵器の脅威にある。

空中戦は現代の戦争の軸であり、伝統的な陸戦や海戦以上に民間人の犠牲者を出す非人道的な戦法である。原爆投下はその歴史的最大級の事例であるが、現代戦ではミサイルに核弾頭を載せて飛ばすだけで、敵国に破壊的な打撃を与えることが可能となっている。

核弾頭を搭載していなくとも、高速ミサイル攻撃は地上の市民に避難する時間的余裕を与えないため、被害が拡大されやすいという点で、核兵器に準じるか、少なくともそれに次ぐ非人道的な飛び道具と言える。

こうした非人道的な空中弾道兵器を廃絶することは、核兵器廃絶と同等の意義を持つことである。将来的には全世界における全軍備の廃絶こそが恒久平和の道であるが、さしあたりは核兵器とともに空中弾道兵器の廃絶を求めることこそ、現時点で唯一の被爆国の「責任」である。

敵基地反撃の技術的な方法論とか、まして防衛費増大の財源問題といった与党内のやらせ論争に引きずられて、増税か国債かなどといった矮小な視点に野党がとらわれるならば、それは与党の思う壺であろう。

 

[付記]
与党が国防政策の法的及び財政的な大転換を本気で断行しようとするならば、憲法9条の改正発議を行って国民投票にかけるのが筋であり、今こそ自由民主党の党是である改憲に進む最大の好機となるはずである。その是非を最終的に判断するのは、国民である。

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