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共産論(連載第29回)

2019-04-19 | 〆共産論[増訂版]

 第5章 共産主義社会の実際(四):厚生

(2)年金も生活保護も必要なくなる

◇年金制度の不合理性
 福祉国家政策の柱とも言える公的老齢年金制度(以下、単に年金制度という)の揺らぎは、その影響が老後の貯蓄を十分に備えた一部富裕層を除くほぼ全国民の老後に及ぶため、福祉国家の揺らぎの中でも特に深刻なものの一つである。
 しかし、元来高齢化率が現在ほど高くなく、平均寿命も相応な限度内だった時代の産物である年金制度が少子高齢・長寿時代に揺らぐのは必然であって、年金はこの先も安泰だという政府のどんな約束も虚ろに響く。年金制度の合理性を疑うことはタブーに近いところもあるが、この制度は決して無条件に合理的な制度であると言えないことはたしかである。
 そもそも労働者を一定年齢で強制的に退職・失業させておいて年金生活に追い込むのは形式的にすぎるシステムである。60歳を過ぎてもまだ壮健で働く意欲に満ちた人もいるし、60歳を過ぎて新たな職に挑戦する「老新人」がいても不都合はない。
 しかし、資本主義の下では、老いた労働者は労働力としての有用性に欠けるものとみなされる。高齢労働者を強制的に退職させる方法としては一律的な定年制を適用する方法と個別的に解雇する方法とがあるが、どちらにせよ資本企業としては搾取し甲斐のない生産性の低下した高齢労働力は排除してしまいたいことに変わりはない。

◇共産主義的老後生活
 これに対して、共産主義社会における老後生活は単純かつ自由である。定年制をはじめ、年齢のみを理由とする退職強制は年齢による不当な就労差別として法的に禁止されるから、労働者は各自が望む年齢まで働き続けることができる(ただし、第3章で論じたように、共産主義の初期には中核的労働世代に労働義務が課せられる可能性はある)。
 もし老齢を理由にリタイアする気になったら、ただ静かに去ればよいだけである。何度も述べたように貨幣経済が廃され、必要な財・サービスはすべて無償で取得できるのだから、引退に伴う生活不安は生じない。もしも介護が必要になれば、次節で見るように充実したケアが無償で受けられるし、重度化すればこれまた無償で長期療養ケアを受けることもできる。
 逆に、早期リタイヤすることも自由である。その点、資本主義的社会保障制度は、賃奴として用済みとなった老齢者向けのものに集中しがちであるから、早期リタイヤは超富裕層以外にとっては夢物語であり、若壮年の離職者は失業保険や生活保護に依存せざる得ないだろう。  
 共産主義社会ではそのような必要もない。貨幣がなくとも生計は立つのだから、そもそも生活保護のような救貧制度自体が不要であり、失業保険のようなつなぎの社会保障制度も不要である。極端に言えば、老いも若きも安心して失業できる。
 正しく構築され、運営される共産主義社会は貧困とは無縁である。労働と消費とが完全に分離される共産主義社会は本源的な福祉社会であって、あえて福祉の充実云々と大上段に構えることすらないのである。

◇社会事業評議会  
 上述したように、共産主義社会は年金や生活保護に象徴されるような金銭給付型の社会保障という特殊な窮乏化防止制度を必要としないとはいえ、共産主義社会にも介護をはじめ、非金銭的な社会サービスの体系は存在する。むしろ、貨幣経済が廃される共産主義社会では、そうした非金銭的な社会サービスこそが中心を占めることになるのである。  
 共産主義的社会サービスは要受給者側からの申請を待つ申請給付主義ではなく―申請給付主義とは例の財源という資本主義的限界に対応する受給抑制策の一つである―、要受給者の申請がなくとも本人が合理的な理由に基づき辞退するのでない限り、計画的に給付する計画給付主義を採る。  
 そのために、市町村自治体の街区ごとに地域の社会サービス計画を主管する公的機関として、社会事業評議会(以下、単に「評議会」という)が設置される。評議会は自ら直接に社会サービスを提供することはないが、担当街区内の社会サービス全般を包括的に束ねる。  
 具体的には、街区内の社会サービス要受給者の状況を常に把握し、毎年更新される社会事業計画を立案しつつ、要受給者が必要な時に必要なサービスを受給できるよう調整を図ることを任務とする。従って、評議会の議長は正式の資格を持ったソーシャルワーカー(社会事業調整士)でなければならず、評議員は街区内の福祉や医療分野の専門家や事業者代表が非常勤で委託される。   
 評議会には複数のソーシャルワーカーが配置され、要受給者からの相談を受けるほか、ボランティアの協力員からの情報に基づき、要受給者を発見し、必要なサービスの手配につなぐ積極的な活動も展開する。ちなみに、児童福祉に関しては、評議会とは別途、未成年者福祉センターが設置されるが、評議会は同センターとも連携し、子を持つ家族の保護を行なうこともある。

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