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犯則と処遇(連載第44回)

2019-04-17 | 犯則と処遇

37 真実委員会について(下)―審議

 真実委員会の証拠調査が完了すると、証拠調査員は排除された証拠を除く全証拠及び信用度別に分類した証拠一覧表を真実委員会に提出する。これにより、真実委員会の審議が正式に開始される。

 真実委員会の制度では、起訴というプロセスを経ないため、公訴官(検察官)と被告人・弁護人が対峙するという当事者構造は存在しない。
 とはいえ、審議の効率を上げるためにも、審議の対象となる事件の内容を明らかにするべく、捜査機関―複数の機関が合同捜査した場合は主たる機関―は、事案摘要書を委員会及び被疑者側双方に提出しなければならない。  
 事案摘要書には事件の概要とともに、適用されるべき根拠法令を明記する。こうした摘要書を的確に起案するためにも、各捜査機関には法務部を常設し、法律家の資格を持つ専従職員を配置する必要がある。

 真実委員会の審議はこの事案摘要書―この書面自体は証拠書類として扱われない―及び証拠調査員の提出に係る証拠に基づいて行なわれるが、必要と認めれば、新たな証拠を追加したり、より詳しい鑑定を外部の専門家に委嘱し、独自に真相を明らかにすることもできる。  

 先に述べたように、真実委員会の審議は当事者対決構造を採らないから、被疑者その他当事者の出席を要しない。当事者といえども、真実委員会が証人として召喚した時のみ出席するのである。
 真実委員会は真実の解明に特化した司法機関であるから、召喚された証人は、真実委員長が特に許可した場合を除き、原則として証言を拒否することはできず、証言の拒否は司法侮辱行為として制裁される。

 真実委員会の具体的な審議は、真実委員が事案摘要書と証拠とを照らし合わせ、不明な点を究明するという形で進められていく。そのための証人尋問は委員長が主導し、必要に応じて他の真実委員も補充尋問を行なうことができる。

 真実委員会の審議は原則として公開で行なわれるが、性的事犯などではプライバシーの観点から当事者及び独立した有識者の傍聴人にのみ傍聴を制限する限定公開措置を採ることができる。少年事件の場合は、常に限定公開制とする。  

 審議は短期集中的に行い、裁判のように数年もかけることはない。最終的な審決を出すための合議は非公開で行なうが、その際は、証拠一覧表の信用度評価に基づかなければならない。例えば、信用度1のC級証拠をかさ上げして評価するようなことは許されない。  
 基本的にはS級及びA級証拠を主証拠としつつ、B級以下の証拠を補強証拠として真相を導くことになる。B級以下の証拠しか存在しない場合は、それらの総合評価によって解明できる限りでの真相を導かざるを得ない。

 真実委員会の審決は口頭及び書面で示されるが、裁判の判決とは異なり、単純に「有罪」「無罪」を決するものではないので、多数決によるのでなく、五人の委員の合議により到達した真相を報告書の形で記述する形式を取る。  
 とはいえ、単なる調査報告書ではないから、犯人に成立する犯則行為と根拠法令は明示しなければならないが、審議の結果、捜査機関の提出に係る事案摘要書とは異なる結論に達することはあり得る。

 犯人が特定できた場合は、その氏名を審決中で明示するが―実質上の「有罪」認定―、犯人を特定するに足りる証拠が見出せない場合は、犯人不詳としつつ、証拠上解明し得た限りでの真相を記述する。

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