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犯則と処遇(連載第42回)

2019-04-15 | 犯則と処遇

36 時効について

 通常は捜査→訴追という流れを取る「犯罪→刑罰」体系では、公訴時効という概念により、そもそも捜査自体が実施されない場合がある。公訴時効制度を認めるどうかは政策の問題であり、一切認めないこと、あるいは殺人など一部の重罪に限り時効を認めないことも政策的裁量のうちである。  

 その点、「犯則→処遇」体系においては、そもそも捜査→訴追という流れが想定されないため、公訴時効なる概念も成り立たないことになる。とはいえ、あらゆる犯則行為を恒久的に百年・千年でも捜査し続けるということは現実的に不可能かつ無意味でもあるから、どこかで時間的なリミットを設ける必要はある。

 そのような捜査の時間的なリミットとして、「捜査時効」という制度が用意される。これは年月の経過により、犯則行為を立証するに足りる証拠が散逸し、あるいは経年劣化し、もはや真相解明ができない場合に認められるリミットである。  
 従って、捜査時効は犯則行為の発生から何年経過という年数で形式的に区切られるものではなく、捜査機関が収集した証拠の量と質とによって個別的に判断されるものである。そうした判断に基づき、捜査時効を宣言するのは人身保護監の役割である。

 すなわち、人身保護監は捜査を完了した捜査機関から送致を受けた全証拠について検討したうえで、長年月の経過により犯則行為を立証・解明するに足りる証拠がないと判断すれば、捜査時効を決定し、当該事案についての究明を打ち切ることになる。人身保護監による捜査時効の決定は確定的であり、その後に何らかの新証拠が発見されても覆されることはない。

 捜査時効には二つの例外がある。一つは被疑者が特定され、指名手配されている場合である。この場合は、被疑者の死亡が公式に確認されるまで、捜査時効にかかることはない。もう一つは、指紋またはDNA証拠のように、個人の同一性が高度な蓋然性をもって証明できる生体証拠が採取されている場合である。ただし、この場合は、当該生体証拠が犯人以外の別人のものでないことが確実であることを要する。

 こうした「捜査時効」とは別に、「処遇時効」という制度がある。処遇時効とは、犯人と特定された者に対して課せられる各種の処遇に関する時間的なリミットである。
 矯正と更生のための各種処遇は、犯行者に対して犯行時から時間をおかずに課することが最も効果的である。極端な例であるが、20歳の時に犯した犯則行為について、100歳の時に処遇を受けても、十分な効果は得られず、処遇を課すことに意味はない。

 そこで、処遇に関しても時間的なリミットが必要となるが、これも、犯行時から一定年数の経過により形式的に区切られるのではなく、当該犯行者に対する処遇の効果いかんにより、実質的に決定されるべきことである。  
  そうした実質的な処遇時効の判断と宣言は、後で見る矯正保護委員会の役割であるが、処遇時効の決定も確定的であり、決定後に覆されることはない。

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