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持続可能的計画経済論(連載第11回)

2018-05-28 | 〆持続可能的計画経済論

第3章 持続可能的計画経済の概要

(3)持続可能的経済計画の実際〈1〉
 前回まで持続可能的計画経済の概要を論じたが、その内実がどのようなものになるかということが、計画経済の実際の成否を決する。
 まず貨幣経済が廃止されていることは、大前提である。以前に論じたとおり、真の計画経済は本質上アナーキーである貨幣経済とは両立しないからであった。 
 そのうえで、計画の中核は需要見通しに沿った供給計画となる。この限りでは、旧ソ連式計画経済の技法でもあった「物財バランス」はなお有効である。
 しかし、重要な相違点は需給計画が各種の環境規準によって制約されることである。すなわち、経済計画には環境アセスメントが予め包含されている。従って、ここでの「物財バランス」とは単にインプット・アウトプットの調節にとどまらず、エネルギー消費や廃棄・再利用のプロセスまで含めた循環的な収支となる。
 とすると、持続可能的計画経済は主として生産の量的な調節を目的とする「物財バランス」にとどまらず、環境的持続可能性に適合するエネルギー資源の選択、生産方法や生産品構造の規制にも及ぶ質的な「環境バランス」も組み合わされなければならず、そのためには、環境指標を織り込んだ新たな数理経済学の開発も必要となろう。  
 このように環境規準で規律される計画経済の期間的スパンは、3か年を軸とした中期的なものであるべきである。なぜなら、地球環境は可変的であり、絶対確実な長期予測を許さないからである。従って、3か年の限度内でも環境観測に基づいて常時検証し、随時計画内容の修正が可能とされなければならない。
 また貨幣経済廃止という条件下での経済計画にあっては、当然にも金銭的な収益計画ではなく、何時間で何をどれだけ生産できるかという労働時間の配分計画の形を取ることになる。この点でも、貨幣経済を残した条件下での旧ソ連式計画経済が収益で計量する個別企業の経営計画に近い面があったのとは異なり、物質的生産の価値尺度として労働時間に着目したマルクス経済学の視座がより活かされることになる。
 こうした持続可能的計画経済の対象範囲は基本的に環境的高負荷分野ということになるが、それは基幹産業分野に運輸、電機などが加わる程度で、さほど広いものではない。運輸や電機などの分野では、物財バランスより環境バランスに重点が置かれるだろう。また農漁業や消費に関わる分野は、一般計画とは別立ての計画となる(次回詳述する)。
 その余の分野は計画経済の対象から外れ、自由交換経済に委ねられる。これはいわゆる「闇経済」ではなく、れっきとした合法的な経済活動である(禁制品の取引は当然違法である)。ただし貨幣経済は廃止されているから、物々交換経済となる。その限りで、市場経済的要素も残される。 
 要するに、持続可能的計画経済とは交換経済との混合体制である。しかし、これは経済混乱のもととなる中途半端な「修正主義」や「折衷主義」ではなく、必要な限りでの計画的かつ柔軟な経済運営を導くポリシーミックスである。

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