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理研の政治経済学

2014-04-17 | 時評

STAP細胞論文をめぐる捏造疑惑に関して、メディア上では時の人となった実験責任者の小保方氏を中心に、芸能的な人間模様に異常なまでの焦点が当てられ、多少まともな取り上げ方でもSTAP細胞の存否という一点に集中しているが、問題をより大きな視点から見ると、これは資本主義的な科学研究の負の側面を映し出す不祥事だったと言える。

そのことを象徴するのが、小保方氏の「結論は間違っていない」とか、後から会見した総括責任者・笹井氏の「最も合理的な仮説である」という言明に見られるように、「STAP細胞は存在する」という結論を強調しようとする点である。ここに、この騒動の本質が凝縮されている。つまり初めに結論ありきだったということだ。

このように証明軽視・結論先行型の思考法は、当然にも科学的方法論に反しているが、しかし、これは小保方氏個人が自ら認めた“未熟さ”だけがもたらしたものではない。この研究は小保方氏の独自研究ではなく、理化学研究所という実質的な国立研究機関における組織的なプロジェクトとして国際的に発表されたものである。となれば、このプロジェクトは、それ自体が結論先行型の研究だったとみるのが自然である。

なぜそうなったかと言えば、それは舞台が理研という特殊な研究機関だからである。理研は大正時代、資本家の渋沢栄一が発起人となり、官民共同出資の研究所として発足、それ自体が財閥化し、戦中は原爆研究の拠点ともなった。戦後のGHQ指令で解体された後、株式会社として再興され、政府系の特殊法人を経て、独立行政法人として現在に至る特異な経緯を持つ。

そのため、理研は基礎科学の研究機関でありながら、財・官にとって有用な実利的研究が多く行われており、STAPもそうした研究の一貫であった。とりわけ今回は安倍政権の経済成長戦略の柱の一つである科学研究の産業化の拠点にするために計画されていた理研の「国立研究開発法人」への格上げという国策が絡み、本研究がその突破口と位置づけられていたと考えられる。

理研とは、最も古い歴史を持つ資本主義的な「産学官連携」の牙城である。今回も、研究発表直後「理研関連株」が連想買いで高騰し、一転不祥事発覚で文科省が慌てたのも、そうした理研の特殊な地位の現れである。 

政府・理研はとりあえず、不祥事を「小保方個人による捏造事件」として早期幕引きし、今後は「再現実験」による時間稼ぎで乗り越えようとしているかに見えるが、そうはさせじと小保方氏側が法律問題化して反撃に出ている構図である。

理研が当初、高らかに誇示したiPS細胞との比較で言えば、iPSが国立とはいえ、財・官から一定の自律性を保っている大学を拠点とする学術的にも手堅い研究成果であったのに対し、STAPは財・官と結びついた研究機関での政治経済的な性格のプロジェクトであったことが、早い者勝ちの特許出願競争も絡み、前のめりで杜撰な研究発表の土壌を作ったのである。

[追記]
特許権という財産権との絡みも、資本主義的な科学研究上の不正を誘引する大きな要因である。秘密性が強い問題であるため、特許問題と本件の関係は一部で指摘されるにとどまり、解明されていない。メディアはそうしたテーマこそ継続して追求していくべきである。

[追記2]
14年8月、論文の総括責任者であった笹井氏が自殺したことで、事態は急展開した。キーパーソンとなる中間管理職の自殺で真相が葬られるという終わり方も、政治経済上の不祥事で繰り返されてきた図式であり、STAP問題の政治経済的な性格を浮き彫りにする悲劇である。

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