ある月が美しい晩、気分がよく、二条大路を歩いて笛を吹いていた源博雅。
宮中では、藤原兼家がその晩、笛に聞き惚れて女の元に通いそびれた話が話題に。兼家は、その笛が誰が吹いていたかを知らず、その音色は博雅もおよぶまいと吹聴する。その噂は三日もすれば収まると思われたが、その翌日再び笛が聞こえたのだという。しかし博雅は吹いていないことから、別の何者かが吹いた笛を聞いたこと。それを確かめるべく出かけた二人。
そこに現われたのは盲の童子。主上の命もあり、博雅は童子と笛合わせをすることになったのだが、童子の笛を聞き、初めて他人の才に嫉妬したという博雅は思い悩む……『笛吹き童子』、
都のあちらこちらで、伽羅の匂いと共に現れては消えていく奇妙な女性がいるという噂が。
そんな中、西光寺の明鏡という僧が晴明の元を訪れ、相談事があるという。庭の蜘蛛の巣に妙なものが引っかかっているということで、それを放してやると、伽羅の匂いがして……『はるかなるもろこしまでも』、
藤原実貞の様子が十日前ほどからおかしいという。
なかなか起きてこないと思ったら、その後やたらと姿を隠すようになったらしい。姿を見た家人によると、手が六本足が六本生えている異形だったという。たまたま屋敷を訪れた博雅は頼まれ、その話を晴明の元に持ちこんだ。晴明は鶏を用意するようにいい……『百足小僧』、
日に一度、唐の国の道人のような衣を着て、一本の杖を手にしている白髪白髯の老人が、大津、琵琶湖 方面から坂を登ってきて、逢坂山に至り、京へ下っていくという。
その晩、逢坂山の草庵で琵琶を弾いていた蝉丸法師は、梅の樹の根元辺りに倒れている老人を見つけた。庵に運んだが目を覚まさず、弱って晴明を呼びにいこうとするも、何故か庭から出ていけない。
四日が経ち、晴明と博雅がやってきて……『きがかり道人』、
晴明が博雅に見せたかったという夜光杯。そこに注がれた酒を博雅が飲むと、唐風の女の姿が見えた。曰く、楊玉環…玄宗皇帝に寵愛された美女・楊貴妃だという。
藤原成俊から、女が出ると相談を受けた賀茂保憲は、その元となっているのがその夜光杯であると探り当てた。それは、
阿部仲麻呂の遺品として、成俊の祖先が持ち帰ったものだった。保憲は、晴明に相談するようにいい、彼の元に持ち込まれた代物だった。
彼女自身がその因縁を語り……『夜光杯の女』、
半月ほど前、帝の腹痛を見事治したという、高山の正祐法師が、博雅の屋敷に笛を聞くために顔を出すという。
晴明は、彼は来訪の折に何故か博雅に腹痛の仮病を装うようにいい……『いたがり坊主』、
世間的には保憲の弟とされている心覚上人(賀茂保胤)は、実は保憲の兄だという。秀才だったが道心をおこして出家し、僧になった心覚。
ある日、達智門という門に梶原景清が赤ん坊が置かれているのを見つけた。その場は用事があり見過ごしたが、赤ん坊は野犬に食べられもせずに生きていた。不思議に思い、様子を見ていると、なんと犬が乳を与え育てていたのだった。
その赤ん坊を拾おうとしたが、すでに心覚に拾われた後だった。
その話を景清が言いまわり、親だと名乗り出るものが現われたが、犬はその人間に吠えかかった。その犬は、前世は赤ん坊の母だったのだと主張する心覚は、犬が許さないから渡すことができないという。
彼と微妙な関係にある保憲が、晴明の元に話を持ち込んで…………『犬聖』、
東山の長楽寺にいる実恵という僧は、すでに老齢に差し掛かりながら、経のひとつも暗唱できず小僧の如き働きしかできないながらも、皆から親しまれているという。
そんな彼はある日、法華経を誦する声をきき、たどると老女に出会った。
その後、実恵がなかなか朝起きて来ないようになり、憔悴した様子。仲間の僧がこっそり様子を見ていると、白い大蛇が彼の身体に絡みついていたのだという。
寺の、念海僧都に頼まれた晴明は……『白蛇伝』、
藤原忠常が黒い大猪獅子を射たという北山。その後、忠常の家人が顔を食べられ死んでいるという怪異が立て続けに起こっていた。
その北山で、薬好きの中納言・在原基次が茸を探して山に分け入り、神隠しに遭った。五日後無事戻ったが、その間のことを何故か何も話そうとしないという。
そんな彼が晴明の元を訪れて、ある秘密を打ち明ける……『不言中納言』の9編収録の短編集。
シリーズ…何弾目だったっけ;
いつもの如く、いろいろ怪異が持ち込まれつつも、どこかほのぼのテイスト。
珍しく博雅が他の人に嫉妬する、という話がありましたが、まぁ結果的にはアレですし(笑)。
<11/7/13>
宮中では、藤原兼家がその晩、笛に聞き惚れて女の元に通いそびれた話が話題に。兼家は、その笛が誰が吹いていたかを知らず、その音色は博雅もおよぶまいと吹聴する。その噂は三日もすれば収まると思われたが、その翌日再び笛が聞こえたのだという。しかし博雅は吹いていないことから、別の何者かが吹いた笛を聞いたこと。それを確かめるべく出かけた二人。
そこに現われたのは盲の童子。主上の命もあり、博雅は童子と笛合わせをすることになったのだが、童子の笛を聞き、初めて他人の才に嫉妬したという博雅は思い悩む……『笛吹き童子』、
都のあちらこちらで、伽羅の匂いと共に現れては消えていく奇妙な女性がいるという噂が。
そんな中、西光寺の明鏡という僧が晴明の元を訪れ、相談事があるという。庭の蜘蛛の巣に妙なものが引っかかっているということで、それを放してやると、伽羅の匂いがして……『はるかなるもろこしまでも』、
藤原実貞の様子が十日前ほどからおかしいという。
なかなか起きてこないと思ったら、その後やたらと姿を隠すようになったらしい。姿を見た家人によると、手が六本足が六本生えている異形だったという。たまたま屋敷を訪れた博雅は頼まれ、その話を晴明の元に持ちこんだ。晴明は鶏を用意するようにいい……『百足小僧』、
日に一度、唐の国の道人のような衣を着て、一本の杖を手にしている白髪白髯の老人が、大津、琵琶湖 方面から坂を登ってきて、逢坂山に至り、京へ下っていくという。
その晩、逢坂山の草庵で琵琶を弾いていた蝉丸法師は、梅の樹の根元辺りに倒れている老人を見つけた。庵に運んだが目を覚まさず、弱って晴明を呼びにいこうとするも、何故か庭から出ていけない。
四日が経ち、晴明と博雅がやってきて……『きがかり道人』、
晴明が博雅に見せたかったという夜光杯。そこに注がれた酒を博雅が飲むと、唐風の女の姿が見えた。曰く、楊玉環…玄宗皇帝に寵愛された美女・楊貴妃だという。
藤原成俊から、女が出ると相談を受けた賀茂保憲は、その元となっているのがその夜光杯であると探り当てた。それは、
阿部仲麻呂の遺品として、成俊の祖先が持ち帰ったものだった。保憲は、晴明に相談するようにいい、彼の元に持ち込まれた代物だった。
彼女自身がその因縁を語り……『夜光杯の女』、
半月ほど前、帝の腹痛を見事治したという、高山の正祐法師が、博雅の屋敷に笛を聞くために顔を出すという。
晴明は、彼は来訪の折に何故か博雅に腹痛の仮病を装うようにいい……『いたがり坊主』、
世間的には保憲の弟とされている心覚上人(賀茂保胤)は、実は保憲の兄だという。秀才だったが道心をおこして出家し、僧になった心覚。
ある日、達智門という門に梶原景清が赤ん坊が置かれているのを見つけた。その場は用事があり見過ごしたが、赤ん坊は野犬に食べられもせずに生きていた。不思議に思い、様子を見ていると、なんと犬が乳を与え育てていたのだった。
その赤ん坊を拾おうとしたが、すでに心覚に拾われた後だった。
その話を景清が言いまわり、親だと名乗り出るものが現われたが、犬はその人間に吠えかかった。その犬は、前世は赤ん坊の母だったのだと主張する心覚は、犬が許さないから渡すことができないという。
彼と微妙な関係にある保憲が、晴明の元に話を持ち込んで…………『犬聖』、
東山の長楽寺にいる実恵という僧は、すでに老齢に差し掛かりながら、経のひとつも暗唱できず小僧の如き働きしかできないながらも、皆から親しまれているという。
そんな彼はある日、法華経を誦する声をきき、たどると老女に出会った。
その後、実恵がなかなか朝起きて来ないようになり、憔悴した様子。仲間の僧がこっそり様子を見ていると、白い大蛇が彼の身体に絡みついていたのだという。
寺の、念海僧都に頼まれた晴明は……『白蛇伝』、
藤原忠常が黒い大猪獅子を射たという北山。その後、忠常の家人が顔を食べられ死んでいるという怪異が立て続けに起こっていた。
その北山で、薬好きの中納言・在原基次が茸を探して山に分け入り、神隠しに遭った。五日後無事戻ったが、その間のことを何故か何も話そうとしないという。
そんな彼が晴明の元を訪れて、ある秘密を打ち明ける……『不言中納言』の9編収録の短編集。
シリーズ…何弾目だったっけ;
いつもの如く、いろいろ怪異が持ち込まれつつも、どこかほのぼのテイスト。
珍しく博雅が他の人に嫉妬する、という話がありましたが、まぁ結果的にはアレですし(笑)。
<11/7/13>