2010年6月13日、7年間にも及ぶ飛行を終え、地球にイトカワのサンプルを持ち帰った「はやぶさ」プロジェクトを描いた映画。実写版はやぶさ映画は3作製作(競作)される予定ですが、その第一弾。本作品の制作に際しては、JAXAが全面協力。JAXA/ISAS相模原キャンパスでの撮影も敢行されました。
ドキュメンタリーでは無いものの、映画化に際して、モデルがいる登場人物については、監督が俳優陣に対して「完コピ(完全コピー)でお願いします」と言う指示を行ったと言われていますが、確かに良く似ていますねぇ。実際の川口淳一郎氏を講演で見たことがあるんですが、佐野史郎の川渕孝一(=川口淳一郎氏)なんか、非常によく似ていると思います。またそれ以外にも、はやぶさの2回目のイトカワへの着陸時に的場が見せた、ライブカメラへ振り返ってVサインを行うシーンも、実際に的川氏が行った際の映像を下にそのシーンが作られるなど、人物の見た目以外に、起きたエピソードなども実際のエピソードを忠実に再現しています。
リアルさ追求の精神は、セットやCGなどにも反映されています。管制室や第二運用室なども、実際のものを完コピしたセットを組み上げたそうですし、はやぶさ飛行の映像では、3つしかイオンエンジンしか同時点火していないなど、実際の飛行状態をちゃんと表現しています。もっとも、最期のイメージ映像では、4つのイオンエンジン全てに点火した状態になっていましたが、これは見た目を重視したということなのだと思います。
特に原作は無い様ですが、概ね、川口氏の講演と的川氏の著書などを下にしているように思えました。特に、イトカワ着陸後に通信途絶し、人気の無い第二運用室のポットに川渕がお湯を補給していたり、あるいは、イオンエンジンが故障して万事休すとなった後、故障していないイオン源と中和器を組み合わせて運用し始めた時、これまた川渕が中和神社にお札を貰いに行く件などは、川口氏の講演でもよく触れられているエピソードです。また、はやぶさ打上げに際して、地元漁協と漁業交渉(=飲み)に行くと言うのも、的川氏の著書で触れられているエピソードです。
人気の無い第二運用室のポットに川渕がお湯を補給するシーンですが、折角出てきたので少し触れておくと、実はこれは、はやぶさ運用チーム解散の危機を示す象徴的なシーンなんですよね。と言うのも、はやぶさが行方不明になる->作業が無くなる->運用室に人が集まらなくなる->ポットのお湯を使う人が減る->ポットのお湯が補給されない、と言う負のスパイラルに陥っている状況を示していて、プロジェクトマネジャーの川渕(=川口氏)自身がお湯を補給して、「まだまだ、はやぶさは終わっていない」と言うメッセージを発信していると言うシーンなんですよねぇ。川口氏の講演では、よく語られるエピソードなので、川口氏の講演を聞いたことがあると、「あ、これがあのシーンか」と直ぐ判るんですが、その背景知識が無いと、ただお湯を補給しているシーンにしか見えないですよねぇ。ちょっと残念。
また、中和神社の件ですが、これも実際に川口氏がお札を貰いに行っているところです。実は、読み方は「チュウカジンジャ」で、「チュウワジンジャ」じゃないんですよね。それと、川口氏がこの神社に行ったのは、中和器に悩んでいた時期だったので、“中和”と言う文字が含まれている神社を選んだと言う理由(=ダジャレ)なのですが、実はこの神社は道中安全の神だったという落ちも付いているんです。これも、そう言う背景知識があると、一層、楽しめるシーンなんですが・・・。
さて、登場人物やエピソード、セットなど、リアルに拘った作品ですが、主人公の水沢恵は架空の人物になっています。とは言え、彼女の設定は、複数の実在の人物をミックスして創り上げられた人物像なんですね。でもねぇ、あの水沢のキャラ設定には、理系の研究者に対しての若干の偏見を感じました。理系の研究者には、確かにオタクっぽい人は居ますが、多くは普通の人なんですけどね、研究者といえども。なんか事更オタクっぽいところを強調した水沢のキャラは、私はちょっといただけないと思いました。それと、ツッコミを一つ。最期に彼女は学位を取得しているわけですが、正確には“理学博士”ではなくて、“博士(理学)”と表記するのが正しいはずなんですがね。細かいところにこだわっていたので、ちょっと残念でした。
もう一つ残念な点は、生瀬勝久や蛭子能収など、一般人ではやぶさを見守っているという設定の人達のシーンが所々挿入されていましたが、映画のストーリーとの整合性がイマイチ取れていないかなと感じました。JAXAスタッフの話だけだと、世の中とのつながりを表現できないので作られたシーンだと言うその意図はわかったんですが、ストーリー全般とのまとまりを感じなかったのがちょっと残念でした。
逆に素晴らしいと思ったのが、はやぶさ君の声の設定。エンドロールを見ていると、はやぶさ君の声は、竹内結子ではなくて“水沢恵”となっていました。これは、水沢恵のキャラ設定の件とは逆に、粋ないい設定だと思いました。
撮影の際しては、実際のJAXAのスタッフも多数参加・出演しているそうです。って言うか、見た感じ、明らかに『本物』と言う人達が沢山居ました。ドラマは期待できませんが、はやぶさプロジェクトの概略を理解するには、良い作品だと思います。
タイトル はやぶさ/HAYABUSA
日本公開年 2011年
製作年/製作国 2011年/日本
監督 堤幸彦
出演 竹内結子(水沢恵)、西田敏行(的場泰弘【的川泰宣氏】)、嶋政宏(坂上健一【齋藤潤氏】)、佐野史郎(川渕幸一【川口淳一郎氏】)、山本耕一(田嶋学【矢野創氏】)、鶴見辰吾(喜多修【國中均氏】)、高野長英(萩原理【藤原顕氏】)、マギー(福本哲也【山田哲也氏】)、甲本雅裕(平山孝行【西山和孝氏】)、市川実和子(小田島加那子)、筧利夫(矢吹豊)
※【 】内は、モデルとなった人物
[2011/10/01]鑑賞・投稿
ドキュメンタリーでは無いものの、映画化に際して、モデルがいる登場人物については、監督が俳優陣に対して「完コピ(完全コピー)でお願いします」と言う指示を行ったと言われていますが、確かに良く似ていますねぇ。実際の川口淳一郎氏を講演で見たことがあるんですが、佐野史郎の川渕孝一(=川口淳一郎氏)なんか、非常によく似ていると思います。またそれ以外にも、はやぶさの2回目のイトカワへの着陸時に的場が見せた、ライブカメラへ振り返ってVサインを行うシーンも、実際に的川氏が行った際の映像を下にそのシーンが作られるなど、人物の見た目以外に、起きたエピソードなども実際のエピソードを忠実に再現しています。
リアルさ追求の精神は、セットやCGなどにも反映されています。管制室や第二運用室なども、実際のものを完コピしたセットを組み上げたそうですし、はやぶさ飛行の映像では、3つしかイオンエンジンしか同時点火していないなど、実際の飛行状態をちゃんと表現しています。もっとも、最期のイメージ映像では、4つのイオンエンジン全てに点火した状態になっていましたが、これは見た目を重視したということなのだと思います。
特に原作は無い様ですが、概ね、川口氏の講演と的川氏の著書などを下にしているように思えました。特に、イトカワ着陸後に通信途絶し、人気の無い第二運用室のポットに川渕がお湯を補給していたり、あるいは、イオンエンジンが故障して万事休すとなった後、故障していないイオン源と中和器を組み合わせて運用し始めた時、これまた川渕が中和神社にお札を貰いに行く件などは、川口氏の講演でもよく触れられているエピソードです。また、はやぶさ打上げに際して、地元漁協と漁業交渉(=飲み)に行くと言うのも、的川氏の著書で触れられているエピソードです。
人気の無い第二運用室のポットに川渕がお湯を補給するシーンですが、折角出てきたので少し触れておくと、実はこれは、はやぶさ運用チーム解散の危機を示す象徴的なシーンなんですよね。と言うのも、はやぶさが行方不明になる->作業が無くなる->運用室に人が集まらなくなる->ポットのお湯を使う人が減る->ポットのお湯が補給されない、と言う負のスパイラルに陥っている状況を示していて、プロジェクトマネジャーの川渕(=川口氏)自身がお湯を補給して、「まだまだ、はやぶさは終わっていない」と言うメッセージを発信していると言うシーンなんですよねぇ。川口氏の講演では、よく語られるエピソードなので、川口氏の講演を聞いたことがあると、「あ、これがあのシーンか」と直ぐ判るんですが、その背景知識が無いと、ただお湯を補給しているシーンにしか見えないですよねぇ。ちょっと残念。
また、中和神社の件ですが、これも実際に川口氏がお札を貰いに行っているところです。実は、読み方は「チュウカジンジャ」で、「チュウワジンジャ」じゃないんですよね。それと、川口氏がこの神社に行ったのは、中和器に悩んでいた時期だったので、“中和”と言う文字が含まれている神社を選んだと言う理由(=ダジャレ)なのですが、実はこの神社は道中安全の神だったという落ちも付いているんです。これも、そう言う背景知識があると、一層、楽しめるシーンなんですが・・・。
さて、登場人物やエピソード、セットなど、リアルに拘った作品ですが、主人公の水沢恵は架空の人物になっています。とは言え、彼女の設定は、複数の実在の人物をミックスして創り上げられた人物像なんですね。でもねぇ、あの水沢のキャラ設定には、理系の研究者に対しての若干の偏見を感じました。理系の研究者には、確かにオタクっぽい人は居ますが、多くは普通の人なんですけどね、研究者といえども。なんか事更オタクっぽいところを強調した水沢のキャラは、私はちょっといただけないと思いました。それと、ツッコミを一つ。最期に彼女は学位を取得しているわけですが、正確には“理学博士”ではなくて、“博士(理学)”と表記するのが正しいはずなんですがね。細かいところにこだわっていたので、ちょっと残念でした。
もう一つ残念な点は、生瀬勝久や蛭子能収など、一般人ではやぶさを見守っているという設定の人達のシーンが所々挿入されていましたが、映画のストーリーとの整合性がイマイチ取れていないかなと感じました。JAXAスタッフの話だけだと、世の中とのつながりを表現できないので作られたシーンだと言うその意図はわかったんですが、ストーリー全般とのまとまりを感じなかったのがちょっと残念でした。
逆に素晴らしいと思ったのが、はやぶさ君の声の設定。エンドロールを見ていると、はやぶさ君の声は、竹内結子ではなくて“水沢恵”となっていました。これは、水沢恵のキャラ設定の件とは逆に、粋ないい設定だと思いました。
撮影の際しては、実際のJAXAのスタッフも多数参加・出演しているそうです。って言うか、見た感じ、明らかに『本物』と言う人達が沢山居ました。ドラマは期待できませんが、はやぶさプロジェクトの概略を理解するには、良い作品だと思います。
タイトル はやぶさ/HAYABUSA
日本公開年 2011年
製作年/製作国 2011年/日本
監督 堤幸彦
出演 竹内結子(水沢恵)、西田敏行(的場泰弘【的川泰宣氏】)、嶋政宏(坂上健一【齋藤潤氏】)、佐野史郎(川渕幸一【川口淳一郎氏】)、山本耕一(田嶋学【矢野創氏】)、鶴見辰吾(喜多修【國中均氏】)、高野長英(萩原理【藤原顕氏】)、マギー(福本哲也【山田哲也氏】)、甲本雅裕(平山孝行【西山和孝氏】)、市川実和子(小田島加那子)、筧利夫(矢吹豊)
※【 】内は、モデルとなった人物
[2011/10/01]鑑賞・投稿