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たんなるエスノグラファーの日記
エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために
 



日本語で「指」に付けられた名前は、「親指」から順に、一般に、「人差し指」、「中指」、「薬指」、「小指」である。英語では、順に、thumb、index finger、middle finger、ring finger、little fingerである。 中国語では、「拇指」、「食指」、「中指」、「無名指」、「小指」である。

このなかで気になるのは、第一に、中国語の「食指(しょくし)」という言い方である。興味関心をもつという意味の「食指が動く」は、その指が動いたのを見て、食事にありつけると言ったという、故事に由来するらしい。第二に、中国語の「無名指(むめいし)」という言い方である。その指のことを、日本語では、「薬指」と呼んでいる。鎌倉時代に「薬師指」と呼ばれ、江戸時代に「薬指」と呼ばれるようになったという説がある。その指が薬指と呼ばれるようになったのは、それが、薬を水に溶くのに用いられたからだといわれているらしい。

中国語の「無名指」とは、名前がない指という意味ではないのだろうか。プナン語には、その指(=薬指)に対する呼称がない。その指は、一般に、何かに役立つという観点からいえば、他のどの指にも勝ることはないと思われる。つまり、それが、何かをするときに、単独で使われるようなことはまずない、と言っていいのではないか。

プナン語では、親指から順に、pun(親指), uju tenyek(人差し指), uju beluak(中指),ingiu(小指)と、薬指を除いて、4本の指にたいして呼び名がある。薬指に呼び名はない。名前のない指だから、あえて呼ばない、名前を付けない。有史以来、圧倒的にそれを呼ぶ必要がなかったのではないだろうか。わたしのような外側からやって来た人間が問い尋ねる以前には。

そのように考えると、中国語で「無名指」と呼ぶのは、もともとは、名前がなかったところへ、他の指にすべて呼び名があるのに、その指にだけないのはおかしい、何か名前をつけておいたほうがいいという具合に、人びとが判断したからではないのかとも思える。名前がない指をそのまま放っておくのではなくて、名前がないということを、その指の名前にしてしまうというような、まどろっこしい動きが起こったのかもしれない。

以下のホームページを見ると、中国語だけではなくて、他の言語においても、薬指には「名前がない指」という名前が与えられているのだという。「フィンランド語の nimeton sormi、ブルガリア語の benzimen pryst、モンゴル語の nereguy hurgan は全て、名前がない指を意味する」とされている。
http://www.sf.airnet.ne.jp/ts/language/yubi.html

他方で、 プナン人は、そういうふうにして、名前がない指にあえて名前をつけて来なかった。ある意味で、あっぱれとでも言おうか。ないのであれば、それでもいいと考えてきた。

しかし、あってもなくてもいい、名前さえ与えられない指を、どうして人間はもっているのだろうか。進化論は、そのことを、どういうふうに説明しているのだろうか?ひょっとしたら、薬指そのものは、単独ではそれほど役に立つものではないが、5本集まったときに、一体化して、使い勝手を得るのかもしれない、というようなことかな?・・・

追記:それよりも不思議なことは、プナン語では、指も手も同じ一つのことばで表わすということかもしれない。指は uju で、手もまた uju という。

(写真は、オオトカゲを解体するプナン人)



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