Reflections

時のかけらたち

私はマリア・カラス ・・・ Maria by Callas

2023-05-07 22:29:26 | movie

 

マリア・カラスの生涯をマリアのインタビューとカラスの歌声で綴った真実のドキュメンタリー
のインパクトが強烈でした。天才の彼女の内側にいる普通の一人の女性。音楽に対するひたむきな努力など
思っていたイメージとは全く違うチャーミングな女性がいました。アルゲリッチのドキュメンタリーもそうだったけど
雲の上の人のようなアーティストの真実を垣間見るととても親近感を覚えます。
それにしてもあの歌声には魅了されます。
今までもよくYouTubeで聴いていたけれど、こうやって彼女の生きざまに沿って歌が流れると、歌の中に
彼女の思いが込められていることがよくわかります。監督のトム・ヴォルフの構成のすばらしさと彼女への愛にあふれた
映画に今さらですが、感激しました。公開されたとき少し見たいと思っていた映画でもありました。
一番心惹かれたのはアリストとの愛を友愛にまで高めてお互いに尊敬しあい、生涯の友人であり続けたことです。

 

映画『私は、マリア・カラス』予告編

 

 

2017年製作/114分/G/フランス
原題:Maria by Callas
配給:ギャガ

 

あらすじ
音楽史に永遠に輝く才能と絶賛されたオペラ歌手、マリア・カラス。ドラマティックな人生は幾度か映画化されたが、没後
40年にして初めて彼女の未完の自叙伝が紐解かれる。映像作家トム・ヴォルフは3年に渡る〈真のマリア・カラスを探す旅〉で
その自叙伝やこれまで封印されてきたプライベートな手紙、秘蔵映像を入手し、映画化にこぎつけた。
そこで描かれるのは「誰も知らない」マリア・カラス。スキャンダルやバッシングの嵐の中、プロフェッショナルとしての信念に
倒れても歌うことを諦めなかった壮絶な"カラス"と、ひとりの女性として愛を切望し、千々に心乱され苦悩しながらも、全てを
受け入れようと変化していく"マリア"の姿があった―。
 
 
出演:マリア・カラス (アーカイヴ映像) 
   ヴィットリオ・デ・シーカ、アリストテレス・オナシス、ピエロ・パオロ・パゾリーニ、ルキノ・ヴィスコンティ 他
朗読:ファニー・アルダン
 
 
映画の中で語られた音楽を追求する姿と一人の女性として愛し、傷つき、立ち直っていく姿をメモしました。
 
ホフマンは語った
ことばが止んだ時、音楽が始まる
壮大で深遠な音楽は、言葉では表現しきれない
私達は音楽に奉仕し、謙虚に向き合うべきだ
私が歌うのはプライドのためではなく
調和に満ちた天上の音楽に到達するためである
                  マリア・カラス
 
カラスの歌う、プッチーニ蝶々夫人から「なんて美しい朝」、椿姫から「さよなら過ぎ去った日々よ」
は本当に素晴らしく聴き入ってしまいました。カラスの歌にマリアが見えてきます。
 
不幸な結婚生活の中、アリストテレス・オナシスと出会います。早いうちからオナシスは最高の友で
生涯の友と語っています。しかし彼女は芸術家は幸せにはなれないとも。
 
彼女は自分のことをごく普通の1人の女性と語ります。私生活の「私」と舞台の「私」は完全に別人だが
イコールともいえる。精神的にはどっちも私だから、どっちも私の一部。内気な一人の女性は今まで抱いていた
カラスのイメージとは全く違うものでした。
 
音楽については成長もするが、歌心を感じてほしいと。自分のうちから湧き出る音楽を聴いてほしい。
家庭には恵まれなかったが、歌えることは幸せ。オペラは彼女にとって不可欠で自己表現の一つ、いわば
私の宇宙そのものと語るカラス。高みに登った気持ちになれ、観客にも届いてほしい酔わせるような幻想。
 
不調が続いてもアリストが支えていましたが、彼女は出会って8年目で愛の告白をしています。
出会いを神に感謝。永遠に一緒にいたい。あなたの愛と敬愛が必要。私の命、心、誇り、愛。
自尊心が強いけれど、もろくて傷ついた女。でも私だけが枯れない愛を与えられる。それを忘れず
やさしいあなたでいて。 あなたの魂、マリアより
 
この願いに反して、オナシスはジャッキーと結婚をしてしまいますが、このことは私もよく覚えています。
新聞でこのことを知ったマリアの気持ちは想像できないほどです。9年間も愛をはぐくんできて、お互いの
離婚が成立したら、結婚する予定だったとも言われています。なんというか実業家としてのオナシスの選ぶ
結婚とは何なのかと思ってしまいました。またジャッキーはケネディとの結婚も不幸だったし、その後も
自分を庇護してくれる人を必要としていたとか。
音楽的にも不調だったマリアはパゾリーニのオファーを受けて「王女メディア」に女優として出演します。
この映画は若いころ見て、よく覚えています。おぞましく激しい役でした。
 
この結婚の間違いにすぐオナシス氏も気が付いて、マリアの「今に私を必要とする」の言葉通り、よりを戻す
オナシス。よりを戻し、自尊心を取り戻し、物事を客観的に見れるようになったと語るマリア。オナシスは
この結婚は間違いだったと語り、責任は妻ではなく、自分に全部あるとマリアに話しています。
その後2人の間に新しい友情が生まれ、とても情熱的な友情だったがけんかをしなくなり、建設的な会話を
かわすようになったとのことです。長々と無駄な議論をするのも止めたと。お互いに自己主張する必要が
なくなったとか。「彼との愛人関係は失敗だったが、友情の点では成功した。第二の男で、大切な人。私を
受け入れてくれる本物の男を望む。彼と出会い歌を捨ててもいいと思った。女性にとって大切なことは運命の
男性を幸せにすること。その愛は高くつく。本当の真心は高くて贅沢。」
オナシス氏は倒れ、死の床にあった彼を訪れたマリアに傷つけたこともあったが自分なりに最善を尽くし愛した
と伝えました。
最後から2番目に流れたジョルダーノのアンドレア・ジェニエの「母が死んだ」が彼女の気持ちそのものでした。
「あなたはひとりではない、私は愛、私は命、私の瞳の中にあなたの天国がある。もう一度生きるのです。あなたに
先立ち、支えて導こう。微笑みなさい。希望を持つのです。」
 
最後まで舞台への夢を持ち続け、練習を重ねていましたが、突然の心臓発作でパリで亡くなりました。53歳と言う
若さでした。
 
最後に流れていた「私のお父様」もピュアな感じがしてとても素敵でした。役どころではお父さんを脅かすような
所もありますが、清らかな歌に聞こえます。
 
後半は一気にオナシス氏との愛・友情の話になりましたが、彼女の真摯な音楽に対する思いがよくわかる彼女の
実態に迫ったいい映画でした。今さらですが、彼女の歌本当に素晴らしい表現力です。
 
Casta Diva を今まではずっと聴いていましたが、カルメンのハバネラもこの映画の中で歌われたすべての曲が素晴らし
かったです。カラスはベッリーニが好きだと話していました。
 
 
 
 
追記)
映画の中で歌われた曲
プッチーニ/蝶々夫人「なんて美しい空!」
ヴェルディ/シチリアの晩鐘「ありがとう、愛する友よ」
ベッリーニ/ノルマ「清らかな女神よ」
ヴェルディ/椿姫「さようなら、過ぎ去った日々よ」
ヴェルディ/マクベス「早く来て、明かりを
ビゼー/カルメン「ハバネラ」
マスカーニ/カヴァレリア・ルスティカーナ「ママも知るとおり」
プッチーニ/トスカ「歌に生き、恋に生き」
ベッリーニ/夢遊病の娘「おお花よ、お前がこんなに早く萎んでしまうとは」
ジョルダーノ/アンドレア・シェニエ「母が死に」
プッチーニ/ジャンニ・スキッキ「私のお父さん」

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