じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

武者小路実篤「愛と死」

2018-05-04 19:13:59 | Weblog
☆ 恋愛小説の古典ともいうべき武者小路実篤「愛と死」(新潮文庫)を読んだ。

☆ 仏教では八苦の一つに「愛別離苦」を挙げる。愛する人との別れは苦しい。

☆ 主人公の村岡は駆け出しの小説家。先輩作家の家を訪れ、彼の妹・夏子を見かける。宙返りをする活発な彼女に村岡は魅かれていく。昔の恋愛はなかなか進まない。じれったく思えるのだが、進みだすと早い。二人の想いは一気に高まっていく。そんな時、村岡にパリ行きの話がくる。周りからの勧めもあり彼は出発する。帰ってきたら夏子と結婚すると約束をして。

☆ 時代は戦前、昭和10年前後だろうか、外国へは船で行くしかない。180日、二人は日を置かず手紙をやりとりする。文字は恋心を更に盛り上げていく。もどかしい月日の流れ。そして遂に日本へ帰る日が来た。船は神戸港を目指して進む。日本まであと数日と迫った時、電報が届く。それは夏子の急死を知らせるものだった。

☆ 人生の絶頂、「生」の最高潮で「死」と遭遇する。この落差が残酷だ。武者小路は比較的淡々と冷静に筆を進めている。


☆ 私も学生時代、親しくしている人の急死を経験した。朝、彼女の知り合いからもらった電話は今でも忘れられない。昨日まで教室で並んで講義を受けていたのにである。呆然として大学に向かったのを記憶している。


☆ 「愛と死」は何度か映画化されている。私は確か1971年版を観た記憶がある。配役はよく覚えていないが、夏子役は栗原小巻さんだったという。村岡役の新克利さんが最後テニスコートだったか眺めているシーンがぼんやり印象に残っている(間違っているかも知れないけれど)。映画「ある愛の詩」のラストシーン、愛する人を亡くしたオリバーがスケートリンクをぼんやり眺めているシーンとだぶる。

☆ 死んだ人は年をとらず、いつまでも生きる人の心の中で生き続ける。残酷だが、これも人生だろうか。
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