雪深い東北の温泉町の駅に、貧相な2人の高校生が降り立った。2人ともやけに背が高く大変な旅の経験が顔をこわばらせていたために、とても高校生には見えなかった。列車から降りた数人の客に駅前でたむろしていた旅館の客引きが一斉に殺到する。数十センチの長さの棒に旅館の名前を書いた旗をぶら下げて「こちらにどうぞ」とやる客引きもいる。高校生2人にも客引きがまとわりついた。だが2人には金が無かった。2人のうち1人が「素泊まり2千円以下で泊まれるところありますか?」と客引きを見回して声をかけた。2人にまとわりついていた客引きはさっとどこかに消えて行き、改札前の駅舎には2人だけが残された。宮城県鳴子温泉。30数年前の出来事だ。
高校2年の冬、上野駅に集合した私と友人2人の3人。私のポケットにはそれまで貯め込んだ3万円が入っていた。上野で1万円の東北1周の列車周遊券を購入し残金2万円。この2万円で春休み2週間全部使って東北一周旅行に出ようというのが、私と友人2名の計画だった。もう1名は、2人とはまったく別に北海道1人旅を計画していた友人で、出発の当日「今夜から北海道に行く」と聞いて、「実は俺たちは東北一周を計画している。じゃあ、夜行で青森まで送る」と言う話になったのだった。終業式が終わった教室の片隅で話がついた。その夜、上野駅に集合した3人は、夜行列車で青森に向かい、朝方、青函連絡船に乗って海峡を渡って行く1人を思い切り手を振って見送って旅のスタートとなった。横殴りの雪が降る寒い朝だった。
青森から鳴子までのいきさつは、またいつかどこかで話すことにして、今日は鳴子温泉の話。
鳴子温泉の駅前をぶらぶら歩いて寒くなった私たちは1軒のみやげ物屋に入った。「こけし」の町だ。みやげ物屋も色とりどりのこけしであふれかえっている。見るでもなく店内を一周してから、店の主人らしいおばちゃんに「この辺に素泊まりで安く泊めてくれる旅館は無いでしょうか?」と聞いた。こんな旅をしている、こんなことがあった、と旅のエピソードをおばちゃんに話した。おばちゃんは楽しそうに聞いてくれ、親戚が旅館をしているから聞いてやる、と応じてくれた。奥に引っ込んで電話して戻ってくると「素泊まり千円でいいって」と旅館の場所をメモして「ここに行ってみなさい。番頭さんのXXさんに話してあるから、XXさんに頼むのよ」と送り出してくれた。うれしかった。旅はこうでなくちゃ。が、思い返してみると、この時紹介して頂いた番頭さんが、この旅一番のくせものだったのである。
旅館に到着すると、これ以上の愛想笑いはできないだろうと言う笑顔の番頭さんが、こんな部屋に客を通していいの?と思うような暗い部屋に私たち2人を案内した。で、二人が部屋に入るや否や、手に持った紙の束をもう一方の手のひらにパシパシぶつけながら、「お兄ちゃん達、夜はいいとこ行きたいよね?」と愛想笑いもここまで来るとかなり恐ろしいな、と思う笑顔でささやいたのだった。番頭さんがパシパシやっていた紙束の正体は、旅館が寝静まった頃、再び現れた番頭さんによって明かされることになった。
おっと、ブログの文字数が、日々ここまでと考えている1200字を越えてしまった。この続きはまた次の機会に。
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製品開発(monipet)、それに農業も手がけるIT企業
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