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続続々源太郎(8)

2015年10月19日 | 腰折れ文
八 ザルツァハ川

Salzach川は、オーストリアとドイツの国境付近を流れるイン川の支流だ。日本なら大きな川になるのだろうが、ヨーロッパでは小さな川でキッツビューラーアルペンから谷底の村々を流れ、ザルツブルクに流れ下る。落差があまりないので、水力発電はあまり盛んではない。それでも、古くから金属鉱山や岩塩鉱山があり谷筋に沿うアルプス山中の村としては裕福なところだった。

川を隔てて、旧市街と新市街地が別れて見えるが、さほど大きな町ではなく、なぜこの町が人気があるのか源太郎は不思議に思っていた。

元々、この地は、ローマの植民地に始まり、以後カトリック文化中心地となって芸術や音楽の都として発達したのは事実だが、左岸の旧市街に大司教の居館や大聖堂、尼僧院、そしてモーツァルトの生家があるものの、植民地文化の遺産だけで、建物は欧州のどこにでもある風景だった。

しかし、何処かの国と同じで、20世紀の終わりに世界遺産の文化遺産に登録されて、猫も杓子も観光客がやってくるようになったのだが、それ以前も欧米の観光客は来ていた。それは、あの映画一本のお陰で、観光地となっていた。

旧市街を見おろす丘には、11世紀に築城されたホーエンザルツブルク城があり、今は観光客がひしめき合っている。右岸の新市街にはバロック様式のミラベル宮や聖セバスティアン聖堂が見渡せる展望台には、色々な国の言葉がこれ程あるのかと思うほど、会話が飛び交っている。

源太郎はうんざりしていた。
「あの頃は、せいぜい、英語、ドイツ語、フランス語ぐらいの言葉だった。あのように、大声で話したり、喧嘩しているような会話を聞かされる場所になってしまったのは残念だよ。もっと静かに景色を見る事が出来たのに」
「でも、美しい街並みは変わらないでしょ」
「ああ、欧州の街並みはほとんど変化がない。それはそれでいいんだが、この雰囲気は最悪だ。あれじゃ、スーパーマーケット帰りのおばさん達の遠足だよ。なんで、案内荷物を持って散策しなくちゃいけないのかな」
「しょうがないでしょ。ケーブルの乗り場までお土産屋がいっぱいだし」
「見てみな。みんなモーツァルトの絵柄のチョコレートを持っている。あんな重いものを持って上がって来るかい」
「そうね。私なら嫌だわ。私ならあなたに持ってもらうわよ」
「そうきたか。お城はもういいだろ。散策路を降りて行こう。あの集団とは一緒にならないだろうから」
「分かったわ、降りましょう」
源太郎と絵理香は石畳を降り、未舗装の小径を降りて行った。数人の欧米人のカップルも同じような行動となっている。
「本当に静かだわ。昔はどうだったの」
絵理香は足元を気にしながら、昔のザルツブルクの様子をもうすこし聞こうと思った。
絵理香は、スリムなパンツ姿で、外国人にも引けを取らない。すこしスレンダーだけど、魅力は充分だ。良くこれだけの洋服をあのスーツケースに収まっていたのか驚かせられる。
「昔は、あのお城のテラスは静かだった。会話は小声で、他人の観光を邪魔をしない様に、みんな気遣っていたよ。木陰や、ベンチに腰掛けて、抱擁するカップルもいたけど、今じゃ、そんな雰囲気なんて感じられないね」
「じゃ、奥様とそんな風だったの」
「それは別だよ。あそこから見るザルツアハの流れをずっと眺めていたのさ」
「私もその頃のこの街を見てみたかった」
「二十年早く生まれていないと無理だよ。もし見ていたなら、もうおばあちゃんだよ」
「そうか、そうだわよね。その時なら、あなたと一緒にここにはいないわね」
「まあ、そうゆことだね。その方が僕は良かったよ。賭けに負ける事も無かったしね。一人で来たかったしね」
「それは、ご迷惑でしたわね」
彼女の髪は少し風に揺れ、横顔はハッとする程綺麗だ。そんな思いを打ち消す様に源太郎は言った。
「もう少し歩けるかな」絵理香は足元を気にしながら答えた。
「少し休みたいわ。お茶でもしない」
「わかった。そこのカフェに入ろう。店の中でなくテラスでどうだい」
「いいわよ」絵理香は足を早めた。

化粧室から絵理香はもどり、ストレートの髪は整えられ、薄い化粧も一段と綺麗だ。
「私は紅茶、あなたはコーヒーよね」絵理香の注文は智子と一緒だった。違うのは、英語とフランス語の違いだ。
「 thés et un café, s’il vous plaît」
すると、ボーイは「Oui,Mademoiselle」と答えた。
絵理香は、上機嫌になった。
「ねえ、聞いた。私の事をお嬢様と言ったのよ。普通ならMadameでしょ」
「聞いていなかった」と源太郎はとぼけた。
「聞くべきだったわよ。でも私はMadameの方が良かったかも」女心はわからない。
「grand-mèreが似合っているんじゃないか」
「失礼ね。聞こえていたの。どっちがあなたにとっていいと思う」
しまった。また絵理香の手中にはまった。仕方ない。
「そうだな。女性的にはMademoiselleだけど、僕ならmadameを選ぶな」
「そう」切り返しを考えているのは明らかだ。
「奥様に見えたら、そういったでしょうね。私たち他人だから、仕方ないわね。あなたは年寄りだし」
口数が減らないやつだなと思ったが、本当の事だし仕方ない。
「さて、新市街地に行くか。あの人道橋を渡って」
「いいわよ」