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続続々源太郎(6)

2015年10月14日 | 腰折れ文

六 賭けに負けた旅

「源ちゃん。いいところね」朝食をとるためにホテルのレストランに降りてきた源太郎を迎えたのは、既に席に着いていた絵理香だった。「良く寝れたかい。早いな」「いいえ、源ちゃんに置いてかれると思うと、気が気じゃないわよ」

源太郎は笑いながら、「ああ、そうだよ。もともと、現地集合、現地解散の旅の約束だよ。と言って、絵理香さんが了解して、ついてきたんだから。それより、源ちゃんという言い方はやめろよ。夫婦だってそうは言わない。おふくろにだって言われたことはない」
「じゃ、なんて言えばいいの」
「そうだな。あなた、はおかしいしな。やっぱり源太郎さんだな。絶対におじさんとは言うなよ」
「源太郎さんて呼ぶの。ちゃんちゃらおかしいわ。そう。貴方と言う事にするわ。決めた。そうする」
源太郎をあなたというのは、今まで智子以外言われた事はなかった。源太郎は、ひさしぶりに聞く「あなた」と言う響きをまんざらでもなく思っていた。

絵理香とオーストリアに来ることとなったのは行きがかり上仕方なかった。オークランドの埋め合わせから、何回か食事を重ねていたが、あることで賭けに負けて、一緒に旅する羽目になった。

それは、飲み屋で突然彼女から出された問題だった。後で思えば、これは完全に絵理香の策略だったが、源太郎もある失敗をしなければ賭けに勝っていたはずだった。

「ねえ。源ちゃんはなんでも知っているでしょ。何時も私を馬鹿にするから、今日は私から問題よ」と言って、何時もやり込められている絵理香は得意そうに問題を出すと言った。そして、
「ねえ。法律の問題ね。いいわね」

「ああ、絵理香さんに勝ち目はないよ」と源太郎は胸をはり、冗談に「何を賭けようか」と切り出した。いつもなら、また馬鹿にしてと言って拒否するが今日に限って、「いいわよ。もし私が負けたら、なんでも要求してもいいわよ。介護だって任しといて」と絵理香は切り返した。

偉く自信がありそうだと思ったが、小娘の問題なんてどうにでもなるし、最後はうやむやにもできると源太郎は高を括リ「ああ、俺が負けたら、現地集合、現地解散の旅に連れて行ってやるよ」と心にもない事を賭けた。

絵理香は、ニヤリとして問題を言った。「ねえ法律はみな一緒に思われているのね。でも重要なのは実質的意味と形式的意味の区別なのよ。知っているでしょ」

「知る訳ない」源太郎は少し焦ったが続きを聞いた。「色々な考えがあるけど。実質的意味とは国民の権利義務に関する一般的法規範なのね。だから法規を意味するとされることが多いの。じゃ、形式的意味は何」
こいつ、法学部の得意分野できたな。やり方が汚い。受けて立ってやるが源太郎に解るはずはなかった。

「ちょっと、考えさせてくれ」と言って源太郎はトイレに行こうとした。すると絵理香は、「携帯を置いて行って。どうせカンニングするんでしょ」と絵理香が上目遣いで言った。「馬鹿な。そんなこと微塵もない」と言ったものの、見破られたと源太郎は素直に携帯を絵理香の前に置いた。絵理香は得意げな表情をしている。

トイレに向かう源太郎は、「所詮小娘だ。会社の携帯がある事など知るはずがない」と優位に立っていた。さっそく、友人で後輩の弁護士に電話したが、これが運悪く留守電だ。しかたなくインターネットで検索する事にしたが、基本中の基本。すぐに適当な答えが見つかり暗唱して、席に何食わぬ顔で戻った。

「答えを聞かせて」座るなり、絵理香は聞いた。「焦るなよ。それより、勝って何を要求するかな。と思ってさ」絵理香は源太郎の自信に満ちた落ち着きに、ドキっとした。「答えを言うから、耳の穴、かっぽじって聞けよ。形式的意味とは、近代諸国において議会によって制定され「法律」という名で公布される特定の国法形式を意味すること。日本国憲法で法律という場合、多くは形式的意味で用いられている。どうだ」

授業で習った通りだ(絵理香自体確実な答えを持っていなかった)と思った絵理香は完全に敗北を認めた。もともとは、どんな答えでも正解にするつもりでいた。
だから、絵理香はそれで良かったと思い、「負けたわ。いいわ。なんでも要求して。情けはあるでしょ、無理なことは言わないと信じているから」絵理香は神妙に顔色をうかがった。

「さて。どうするかな。じゃ、奥様になってもらおうかな」絵理香は目を丸くして「恋人ぐらいなら」と答えようと思った瞬間、源太郎は「やめた。俺が大変だから。今日の店の勘定を出してくれ」と言って、大将に美味い酒を頼んだ。大将は笑いながら、「あいよ、源さんに一番高い酒をお持ちして」と合いの手を打った。

その直後、胸のポケットに入っていた携帯が鳴った。源太郎が差し出した携帯は、まだ絵理香の前にある。「しまった。マナーモードにしていなかった」
「あれ。それは、どうゆう事なの。ねえ、源太郎さん。おかしいわね」
友人が着信に気づいて、電話を掛けてきただけだと言っても、ピストルを置いて、隠してあったピストルがばれたからには、もう言い訳は聞かない。
「奥様になれ。だって言ったわね。裏切り者。極刑だわよ。約束どおり、旅に連れていってもらいますからね。大将、支払いは彼よ。私にも美味しいお酒お願い」

源太郎は「その呼び方は、この旅のあいだだけにしてくれ。帰ってから、大将達に言うなよ」
「駄目よ。ずっと、言ってあげるわ。私、結構執念深いのよ」源太郎はあきらめるしかなかった。

ここオーストリアは智子自身、母親との思い出の場所だった。彼女は、マリアテレジアが好きだった。良く、マリアテレジアの事を話してくれたが、源太郎はあまり興味はなかった。
「マリアテレジアはね。ハプスブルク家出身の神聖ローマ皇帝カルル6世の娘なのよ。 1736年ロートリンゲン公フランツ・シュテファンと結婚し、ハプスブルク=ロートリンゲン家が成立したの。父カルル6世は,男子が夭折してほかに嗣子がなかったので,国事詔書を公布して娘マリア・テレジアにハプスブルク家を継承させようとしたわけ。父の死を契機に,この相続問題にフランス、プロシアなどが介入してオーストリア継承戦争へと発展して、その結果オーストリアはシュレジエンの大部分をプロシアのフリードリヒ2世に割譲したんだけどさ、、、」呆れるほどに、何度も聞かされた。唯一、源太郎が覚えているのは「フランス王ルイ 16世の妃マリ・アントアネットは彼女の娘である」ということだけだった。

キャサリンらと夕食を共にした翌日に智子と源太郎は、ローザンヌから列車で、ベルン経由でこのViennaに到着した。