見もの・読みもの日記

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ベラスケスを楽しむ/プラド美術館展(国立西洋美術館)

2018-03-24 23:51:10 | 行ったもの(美術館・見仏)
国立西洋美術館 日本スペイン外交関係樹立150周年記念『プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光』(2018年2月24日~5月27日)

 スペイン王室の収集品を核に1819年に開設されたプラド美術館のコレクションから、ディエゴ・ベラスケス(1599-1660)の作品7点を軸に、17世紀絵画の傑作など61点を含む70点を紹介する。私は西洋美術の中では、むかしからスペイン美術が大好きなので、会場に入ったとたん、何とも言えない安らぎを感じた。

 会場は「芸術」「知識」「神話」「宮廷」「風景」「静物」「宗教」「芸術理論」の8部構成であるが、この構成の意味はあまりよく分からなかった。最初の部屋には黒服の男性の肖像が数点並ぶ。ベラスケスの『ファン・マルティネス・モンタニェースの肖像』は彫刻家の肖像。リベーラの『触覚』は、目しいたような初老の男性が彫像の頭部をまさぐっている。背景も服装も簡素で、ほとんど色彩がない。ほぼモノトーンの画面の中で、像主の顔の部分だけに光が当たり、薄暗い室内に浮かび上がる。この感じ! この光と影が好きなのだ、私は。

 続くセクションにあった『メニッポス』もそんな感じの肖像画である。簡素な背景、茶色い帽子をかぶり、黒っぽい外套で全身を覆った初老の男性が振り向いており、その顔にだけ光が当たっている。古代ギリシャの哲学者を(たぶん)当時の民衆の姿で描いているのが面白い。ベラスケスは『マルス』も来ていた。妙にだらしない中年男の肉体をした軍神マルス。確か会場の解説ボードには、くつろぐ軍神を描くことで逆説的にスペインの平和を寿いだ、という説が紹介されていたが、図録によれば、内外に山積する問題に疲れ切った国王、疲弊するスペインという解釈もあるそうだ。

 ベラスケス『狩猟服姿のフェリペ4世』は特徴的すぎる風貌だが、簡素な狩猟服が好ましい印象を与えている。スペイン宮廷の人々を描いた肖像画はどれも一癖あって面白い。ベラスケスには、宮廷に仕える障害者を描いた作品群があることは知っていたが、今回、その一例『バリューカスの少年』が来ていた。ベラスケスは、その障害(短躯)を隠さないが、特に強調もしていないので、ふつうの少年のように見えるが、解説によれば知的障害が窺えるとのこと。

 本展の目玉は『王太子バルタサール・カルロス騎馬像』で、少年の理想像のような凛々しさと愛らしさを描く。17歳に足らずして夭折した王太子だが、成長したら、父のフェリペ4世の風貌を受け継いでいたんだろうか。冷たく澄んだ青い風景にも注目。本作は「風景」のセクションに分類されている。

 ベラスケス以外の注目作品としては、ビセンテ・カルドゥーチョに帰属という『巨大な男性頭部』。タイトルそのままの作品で、現物を目の前にしたときは呆気にとられた。大仏の仏頭くらいあると思う。ベラスケスの道化や倭人像が掛けられていた「道化たちの階段」の近くにあったらしいが、何を意味していたのか謎である。

 デニス・ファン・アルスロート『ブリュッセルのオメガングもしくは鸚鵡の行列:職業組合の行列』(油彩画)は、横長の画面に、整列して広場をジグザグに行進する人々を小さく描き込んだ、まるで日本の洛中洛外図屏風みたいな作品。近代絵画かな?と思ったら、1601年の作で驚いた。行進するのは、黒いつば広帽子、短めの黒マント、白い飾り襟の男性たち。ざっと千人くらいいる。この絵が詳しく見たくて図録を買ってしまったのだが、拡大図版で見るとさらに面白い。行進は男性ばかりだが、見物には女性も混じっている。広場のまわりの建物の窓からのぞいている女性も多い。子供や物乞いも描かれている。これはほんとに洛中洛外図みたいだ。

 物販コーナーでは図録と一緒にスペインのお菓子ポルボロンを見つけて購入した。むかし、カトリック系の女子高で非常勤の教員をしていたとき、修道女さんからいただいて覚えたお菓子なのである。



 プラド美術館、ゆっくり行ってみたいなあ。たぶん一日いても全然飽きないと思う。
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