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いか@ 筑豊境 寓 『看猫録』

Across a Death Valley with my own Distilled Resentment

アヴェロエス

2009年12月13日 20時15分27秒 | 筑波山麓

- 今朝の筑波山麓 -

■教科書、子供向け新書、ベストセラー新書に書いてある。日本人の常識なんだなぁ~。アタマいいな、日本人。

ヨーロッパの思想は二つの礎石の上に立っている。ギリシアの思想とヘブライの信仰である。 岩田靖夫、『ヨーロッパ思想入門』 

「するも選択、せざるも選択」に気付いた再帰的な(反省的な)人間が、どのように前に進めるのか。進んだらよいのか。ユダヤ教もキリスト教もイスラム教もそうした探究のバリエーションだと言えます。
 そうした探究を、起源を参照して「ヘブライ的なもの」と名付けることができます。「ヘブライ的なもの」の特徴は、人のなす必謬性ゆえに本源的に未規定であらざるをえない<世界>の、その規定不可能性を、超越神という特異点、すなわちサイファ(暗号、暗号を解くカギ)に集約して帰属させるという点にありす。
 欧米の知識人は多くがこうしたことを「ヘブライズムとヘレニズムの違い」として理解しています。ちなみに「神が万能なのになぜ悪(不条理)があるのか」と問う神義論がヘブライズムだとすると、「(万能の)神がいないのになぜ善があるのか」と問う逆神義論がヘレニズムになるでしょう。 宮台真司、『日本の難点』


ここで、ギリシア思想=ヘレニズムです。

■あんまりピンと来なかった。理由はキリスト教やイスラム教に興味がなかったから。で、先日のアリストテレス問題の続き。稲垣良典、『トマス・アクィナス『神学大全』』と、別途、井筒俊彦、『読むと書く』の"回教における啓示と理性"、"イスラム思想史"を読んで、少しイメージがわいてきた。

「ヘブライズム」と「ヘレニズム」の問題、すなわち、啓示と理性の問題は、キリスト教においてもイスラム教においても、中世において、アリストテレスの著作との激しい反応に劇的に展開したらしい。すなわち、現実、あるいは、いわゆる科学的思考をアリストテレスは代表していた。つまり、あのラファエロの絵画 『アテネの学堂』における、地上を指差すアリストテレスは、天上を指差すプラトンと抗争したのではなく、天上からの啓示を至上とするキリスト教やイスラム教の啓示"原理"主義者と抗争した。

詳しくは、まずはイスラム教とアリストテレスとの激烈反応が生じた。啓示と理性の激突。その時、アリストテレスや古代ギリシアの自然科学のテキストをアラビア語に翻訳した。その中で特に有名なのが、アリストテレス学者のアヴェロエス。のちのキリスト教とアリストテレスとの激突は、このアヴェロエスによるアラビア語の註釈をラテン語に翻訳したアリストテレステキストを読んだトマス・アクィナスと旧来の保守的啓示派の派閥との闘いだったらしい。アヴェロエスは啓示であるコーランの理論化を行ったらしい。

初めて知ったよ、アヴェロエス。この啓示と理性の調停を行った地は現在のスペインの、当時は"回教の一大中心地であった"、コルドバ。でも、最後は異端扱いで、対岸のアフリカ大陸モロッコに追放。1198年死ぬ。*1

かの地、かの文明では、歴史上有名人らしく、映画にもなっている。
炎のアンダルシア [DVD]

■関係ないけど、というか上記宮台の引用の直後にデリダが言及され、井筒もデリダと交友があったらしいので、書くと、デリダはSephardi Jews セファルディック ユダヤ人 (イベリア半島に住んでたユダヤ人) 。彼自身の生まれはアルジェリアであるが、たぶん祖先はスペインからアフリカに渡ったのかもしれない。たぶん、キリスト教徒によるイベリア半島からのイスラム、ユダヤ追放で。

デリダの祖先がこんな情景にいたのかもしれない。とまれ、セファルディック ユダヤ人は、ひたすら読み解くのであった (別にセファルディックに限らず東方のユダヤ人も読み解いてるけど)。そして、アメリカが好きなんだ。

▼啓示と理性の問題といってもピンとこないけど、今でもあると気づいた。米国におけるキリスト教原理主義者の進化論排斥である。もちろん、進化論は古代ギリシア思想そのものではない。しかし、一応、現在進化論は"科学"的とされ、例えば日本では公的教育で教えられている。

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*1 元のアラビア語は失われてしまっているらしい;

「元のアラビア語は失われてしまっているからです。そのため完全な形で残っているのは13世紀につくられたラテン語訳」のみとのこと。

抹殺・焚書にしたな、耶蘇・毛唐ども!と邪推すたのは、おいらのひがみ・ねたみ・そねみなのでしょう、たぶん。

●ブログ・スフェアーでも、アヴェロエスは結構言及されているんだ。知らなんだ。