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パリ、カフェ、子育て、サードプレイス、
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徒然なるままに自分の想いを綴っています。

「大統領殿 あなたは罠に掛かっている」(訳)

2015年11月22日 | パリのカフェ的空間で

ルモンドに非常に興味深い文章が掲載されていました。
16日月曜日に掲載されたこの文章はさながら
今後の予言の様で、すでに掲載されてから世界は変化し、
彼の語る世界に近くなっているように思います。
当事者ではないからこそ言える言葉もあるのでは。
歴史家で小説家の彼の言葉には深みがあり、
なんとか時間をつくって訳しましたが非常に難解な文章なため
時間がかかってしまいました。
動くなら、本当に今だと思います。

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「大統領殿 あなたは罠に掛かっている」
David Van Reybrouk 

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  大統領殿


 11月14日土曜日の午後に行われたあなたの演説において、あまりに軽率に使用された言葉の選択、あなたが繰り返していた、「テロリスト軍」(※訳注1)によって遂行された「戦争犯罪」という言葉が私を強く捉えました。正確にはあなたはこうおっしゃった。


 「昨日パリとサン・ドニの競技場の近くで起こったことは、戦争行為であり、国家が戦争に直面した場合、それにふさわしい決断を下さなければならない。この戦争はテロリスト軍「イスラム国」が犯した戦争行為である。武装したテロリスト集団「イスラム国」はフランスに対し、我々が世界の至るところで守っている価値に対し、世界全体に向けて語る自由な国の我々に対し、戦争行為を行った。これは今後の調査で明らかになるであろう国内の共謀者とともに、国外で準備され、周到に計画を練った戦争行為である。これは絶対的に残忍な行為である。」


 最後の一行には完全に同意するにしても、あなたの演説の残りの部分は憂慮すべきことの繰り返しであり、9.11の直後にジョージ・W・ブッシュがアメリカ国会の前で行った演説をほぼなぞったものだといえる。つまり「自由に対する敵が我々の国に対して戦争行為を犯した」というものだ。


 この歴史的演説の結果はよく知られているではないか。「戦争行為」とみなす出来事を受けた国のトップはそれに応じなければならず、やられたらやり返すべきである。こうしてブッシュ大統領はアフガニスタンに侵攻したが、これは当時の体制がアルカイダをかくまっていたので、まだ納得のいくものだった。国連でさえもそれを是認した程だ。その次は、イラクが大量破壊兵器を保有しているはずだとアメリカが嫌疑をかけたというただ1つの理由によって国連の委任もなしにイラクへの全く気違いじみた侵攻をした。実際には大量破壊兵器を保有していなかったと後に証明されたが、この侵攻は今日まで続くことになる、この地域全体の不安定さをもたらした。


 2011年のアメリカ軍の撤退はこの国に権力の空白をもたらした。そして「アラブの春」が起こった後、隣国で内戦が勃発し、どれほどアメリカ軍の侵攻が有害なものであったか証明された。イラクの北部は根こそぎにされ、シリア東部は政府軍と自由シリア軍によって引き裂かれ、第三者「イスラム国」の出現を促す土壌と空間を残していった。


 つまり、ブッシュ大統領による愚かなイラク侵攻がなければ、「イスラム国」の問題が起こることはなかったのだ。2003年にこの戦争に対し、100万人規模のデモが起き、私自身も参加した。反対の声は世界的なものだった。結局我々が正しかったのだ。それは我々が将来を予見できたからではない。この点まで予見していたわけではなかった。だが今日はっきりと1つのことは自覚している。金曜の夜にパリで起きた事件というのは、2001年9月にあなたと同じ政治的地位にあったブッシュ氏が戦争というレトリックを使用した間接的な結果なのだということを。


 それなのにあなたは何をしているのだろう?あなたがテロから24時間以内にとった反応はどうだったのか?当時のアメリカ大統領が使ったのと同じ言葉を用いて、しかも口調さえもそっくりだ!何ていうことだろう!


 大統領、あなたは罠にかかっている。(中略)ニコラ・サルコジやマリー・ルペンのようにあなたの喉を焼け付かせるほどの強硬派たちの熱い憎しみを肌で感じているからだ。それにあなたは随分長い事気弱な人という評判だった。あなたは罠にかかっている。フランスでは選挙が近づき、12月6日から13日にかけて開催される。これはただの地方選ではなく、テロ以降、国家の安全性が大きなテーマとなることは間違いないだろう。あなたは両足揃えて罠にかかっている。何故ならあなたはテロリストがまさに臨んだ言葉、「宣戦布告」という言葉をそのまま返してしまったからだ。あなたは聖戦への挑戦状を情熱的に受け取ったのだ。しかしあなたが断固とした姿勢を保つこの返答は、暴力のスパイラルをより一層加速させる途方もないリスクを拡散させていく。私にはそれが懸命な判断だとは思えない。


 あなたは「テロリスト軍」とおっしゃった。しかしそれ自体が終わりなき矛盾を抱えた言葉である。「テロリスト軍」という言い方は、例えば多食症のダイエットを実践するような矛盾がある。軍や集団は武器を持つことがあるだろう。そしてきちんとした訓練を受けられなければ、彼らはテロリズムを選ぶかもしれない。つまり、地政学的野心を抱き、しっかりした構造と展開の軍事力ではなく、心理的効果を最大限に狙った一点集中型の攻撃だ。


 あなたがおっしゃった「軍」について、これも明確にするべきだ。今までのところ、このテロの首謀者がシリアから戻って来たもしくは送り込まれた兵士かどうかは判明していない。テロが「カリファ」の懐で計画されたのか、郊外やある「地区」で計画されたのかも私たちにはまだわからない。それに対し、シリア由来のグローバルな計画だと思わせる指標もいくつか存在している(ほぼ同時期に起きたレバノンの自爆テロやロシア旅客機の墜落事故)。だが「イスラム国」の声明は後に発表され、既にネット上で出回っていたような内容しか含まれていなかったと示唆しておきたい。これらは連帯や情報収集後に問題にすることではなかろうか?



 私たちの知る限り、武装したテロリスト集団というのはコントロールのきかない個人のことで、おそらくシリアから帰国した大半のフランス人があてはまるだろう。彼らはシリアで武器や爆弾の使い方をトレーニングされ、全体主義的イデオロギーに浸って暮らし、軍事作戦にも慣れるようになっていた。彼らの誰もが恐ろしい人物に変っていった。だが彼らは軍人とはいえない。


 「イスラム国」の公式発表はテロのために「入念に選ばれた場所」だと賛美した。フランスの警察も、犯人達のプロ意識を強調していた。この点においてあなたは同じ言語で語っている。だが実際はどうだろう?あなたが観戦していたフランス対ドイツのサッカー親善試合が行われた競技場付近を訪れた3人の男達はどちらかといえばアマチュアのようではないか。彼らはおそらくあなたに対するテロ行為を行うために競技場内に入ろうとしていたようで、その可能性は高いだろう。だがマクドナルド付近で自爆し、犠牲者を一人「しか」出さなかった男はテロリストとしては貧弱だといえないか。爆発後少ししてから8万人もの人たちが競技場の外に出たにも関わらず、実際には3人の自爆テロに対して4人の犠牲者「しか」出さなかったテロリストが有能とは言えない。コンサートホールの観客を大量に殺そうと考える4人の犯人が非常口を塞いでおかないなんて、戦略に長けているとはいえないだろう。車に乗り、罪もなく武装もしていない、カフェのテラスに座っていた市民に向かって銃を乱射していく者も、戦術に長けた軍人ではなく、どうしようもない卑劣漢であり、同じタイプの個人と結びついた、完全に道を誤った個人といえる。孤独な狼達が群がることもあるものだ。




 あなたの「テロリスト軍」という分析は納得できるものではない。あなたが使った用語、「戦争行為」も並外れて意図的なもののように思う。例えこの戦意をかきたてるレトリックが、何の恥じらいもなくオランダの首相やベルギーの国務大臣によっても使われたとしても。あなたがフランスを落ち着かせようとするこの試みは、世界の安全を脅かす。あなたの激しい言葉遣いからは弱さしか伝わらない。


 戦争の言葉以外にも、断固とした態度を表す方法はあるものだ。(中略)あなたは演説で自由に言及したが、フランス共和国のあと2つの価値、平等と友愛についても話すべきだったのではないか。私たちが今こそより必要としているのは、戦争の疑わしいレトリックよりも、平等と友愛なのではなかろうか。


David Van Reybrouk 
"Monsieur le Président, vous êtes tombé dans le piège!" Le Monde.fr 2015年11月16日掲載
David Van Reybroukはオランダ人の歴史家、小説家で「コンゴ、ある歴史」等数々の作品を出版。
著者の同意を得て日本語に訳しています。(フランス語→日本語訳 飯田美樹)



※ 訳注1 もとの文章はオランダ語で書かれており、この著者もオランダ語の翻訳でまず読んだのではないかと思われる。翻訳にはいつも誤解やニュアンスの微妙なズレがつきもので、著者の解釈が必ずしもオランドが意図したものと同じであるかはわからない。私は日本語では"une armée terroriste"は「武装したテロリスト集団」とも訳せるとも思う。この文章の翻訳自体がオランダ語をフランス語にしたものを日本語訳しており、多少のズレがある可能性は否定できないが、できる限り著者の意図を汲んで訳したつもりである。


この文章16日に翻訳を経てルモンドに掲載されているため、著者の得ている情報は14日~15日時点での情報と思われる。
多少は文章のレトリックや解釈の違いの問題のようにも思えるが、時間の経過につれて彼の言っている事が現実になりつつあるように思い(国連での決議等)、非常に難しい文章だったが訳すことにした。また誤訳しかねない文章は割愛させていただいた(計3-4行程度)

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