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パリ、カフェ、子育て、サードプレイス、
新たな時代を感じるものなどに関して
徒然なるままに自分の想いを綴っています。

パリのテロと世界の変化

2015年11月19日 | フランスあれこれ
フランスのテロは引き続きニュースを賑わせているようで
報道されすぎで気にくわないという人もいる。
テロが起こって以来ひたすらフランス語のニュースを
チェックするのに必死な私は、日本のニュースを見る暇はないし、
全ての情報は把握していると思っていたら、先日こんなことを言われて驚いた。
「ラデファンスでもテロが起きそうだったって」
「え・・・?」私は耳を疑った。
その日はいつもより早く起きてルモンドをチェックし、通勤時間には
ひたすらフランスのラジオを聴いていた。もちろん
サンドニの警官隊の突撃の話は前日からやっていたし状況もよく知っている。
だがラデファンスの話なんてきいた事もない。
一体何が起こったのか?と調べてみると日本では
18日の夜からそんなニュースが流れていたそうだ。
あまりに普通に知られてそうな印象なので、大手のテレビ局も
そう報道したのかもしれない。ところが調べてみても
フランス側の情報にはどこにもそんなことが書かれていない。
(ルモンドもリベラシオンもFrance Infoにも載っていない
検索をしてもほとんどきちんとしたメディアの情報には
掲載されていないので、作戦実行中の未確認情報をフランスのどこかのメディアが
掲載したかと思われる。ちなみにこの「ラデファンス等でテロ計画」は
19日の日経朝刊にも載っていた。
追記:ようやくルモンドやFrance Infoで「ラデファンス」と
言われたのは25日になってからで、24日夜に検察が発表したとのこと)

今回の警察の突撃の一番の目的は、数日前から首謀者だと
言われてきたベルギー人、28歳のアブデラミド・アバウッドが
サンドニにいる可能性が高いということで、彼を狙っての作戦だった。
警官は5人負傷し、5000発以上も銃を撃つという激しい作戦だったが
2人の死者の中に彼が含まれているかは微妙で、どちらかというと
可能性は低そうなニュアンスで報道されていた。
ところがつい先程、日本時間の19日21時半頃、
フランスの検察と司法警察が彼の死亡を確認。
France Infoは「これはきちんと確認された情報です」
と言ってそのニュースでもちきりだ。
彼は国際新幹線タリスのテロ未遂事件にも関わり、
ブリュッセルのユダヤ教博物館での殺人犯とも関わりがあったとされる。
彼は今回のテロ事件当初はシリアに居ると思われており、
次に出身地のベルギー、モレンベックに居ると思われたが
バタクランの近くのゴミ箱に捨ててあった携帯電話から
彼がサンドニにいるらしいということがわかってきた。
後にわかった情報からは、彼がテロの実行犯として関わっており、
その直後にメトロを普通に使った様子が地下鉄の監視カメラに写っていた。


このようにフランスの信頼できるメディアは
情報がでてきても「これは未確認」
「これはアメリカの~というメディアが言っているが不明」
などと強調し、未確認の情報を大急ぎで載せようとはしていない。
日本のメディアはかなり大手のメディアであっても、
死者数が150人以上になっていたり、
「仏メディアがカミカゼをカミカズと誤って報道」
と報道したり(フランス語では最後のeを発音しないので
そうなるし、kamikazeという言葉はフランス語の辞書にも載っており、
報道ではなくフランス語の問題。
意味は死を覚悟して命がけで敵に向かっていくことで
ニュアンスとしてはわりと的確に使われていると思うし、
kamikaze=テロリストという認識ではない。
ただし自爆という意味では使われる)

テロが起きて以来私がそのことばかり考えているのは
パリでなんてひどいことを!という思いや哀しみというよりも
シャルリーエブドの事件以来、フランスに関するニュースを
少しでも正しく伝えたいし、わかってほしいと思うからかもしれない。
二重翻訳には誤解がつきもので、少しでもフランス語が
できるのならば、フランスのニュースに自分で触れて、日本語で伝えた方がいいと思う。
フランス語で流れていく圧倒的な情報を英語で伝えようとする。その時点で情報は
半分以下に精査されていく(それが要約された情報であり、執筆というものだ)
その半分以下の情報を今度は日本語に訳してみる。
ところが英語はフランス語にくらべわりとアバウトに記述ができる。
だからもとの出来事や背景を知らない人が急いで
訳してしまうとニュアンスが変っていく可能性があるし、
英語→日本語の際にまた情報量ががくんと下がるだろう。
伝言ゲームを思い出してみてほしい。
5人が同じ言葉を伝えたつもりでも、言葉が長ければ長い程、
最後の人には正しい言葉が伝わらない。

だからこそ強く伝えたい。英語でもフランス語でもアラビア語でも、
日本語以外の言語を1つでいいから自分でなんとか使って、できるだけ
その言語でニュースをとらえられるようにした方がいい。
思い出してみてほしい。東日本大震災の後、福島の原発の状況に対して
どう世界が反応を示したか。それと日本がいかにかけ離れていたのかを。
日本のメディアはそれから180℃変ったわけではない。
だからこそ、「もしかしたらこれだけが真実ではないかもしれない」という
視点をもって、自分の力で一次情報に触れて欲しい。
そして可能であれば(できるだけ的確な情報を)誰かに伝えていってほしい。
語学ができる人は海外で自分が楽しむだけでなく、
その言葉がないと伝わらないことを誰かに教える、
そんな役割も担っているようにように思う。

世界は局面を迎えつつある。本当に重大な局面で、
場合によっては第三次世界大戦になるかもしれない。
それはまだ誰にもわからない。でも何が何でも戦争反対、空爆反対という方は
今すぐ行動した方がいい。安保法案改正の時より大きなデモをするぐらいの
気持がないと、この世界のトップの行動の早さと本気さにすぐ負けてしまうだろう。
オランド大統領は寝る間も惜しんで恐ろしい程の早さで演説原稿を仕上げ、
数々の拍手や共感を勝ち取り、もはや1月の「寛容」の彼ではなく
「強い父」になりつつある。彼の言葉には感情がこもり、
人の心を揺り動かすだけの力を持っている。そしてその後は即行動。
今日はテロの捜査がよりしやすくなる非常事態宣言をあと3ヶ月引き延ばす案が
国民議会を通過。私の知る限りではフランス国内からは空爆に対する非常に大きな
反対運動や反対の声は聞こえてこない。(もちろん出来る限り
慎重に標的を選ぶべきだという声はあるし、それは当然)


すでにロシアとアメリカと強力な関係を築けたオランド大統領は
来週はこんな最中、自らワシントンとモスクワに足を運び、
オバマ大統領とプーチン大統領と会談しにいくことに決めている。
こんな緊迫した状態に、わざわざその国を離れてトップが
トップに会いに行くこと、その覚悟が何を表しているのか。
そして3大強国のアメリカ、ロシア、フランスが本気で
力を合わせたら何が起こるのか。プーチン大統領は空爆だけでなく
ロシア海軍にフランスと協力して動くことを要請した。
フランスの訴えを受けてついには国連安全保障理事会までもが
満場一致でイスラム国に対し、あらゆる手段をもって
対処することを認めてしまった。

世界の3大国が本気になったらイスラム国をうまく倒すことも
できるのかもしれない。けれども9.11の二の舞になるかもしれない。
結果はまだ誰にもわからないが、1つ言えるのは今は指一本動かさず、
1-2ヶ月後に反対運動を初めても時は遅すぎるということだ。



イスラム国に対して、フランスのとらえ方としては
彼らは「狂信的なテロ集団」という位置づけだと思う。
だからこそ標的を的確に狙った空爆を開始したわけだし
(アメリカは今まで渡さなかった標的リストをフランスに提示)
空爆には約40カ国程が参加しているという。
個人的な見解だが、イスラム国とイスラム教の位置づけというのは
仮にオウム真理教が仏教の教典の1部を教義にしているとして、
それと通常の仏教との違いくらいに差があるものだろう。

つまり、あるカルト的宗教団体が、同じ教義に多少なりとも基づいて、
こちらの方が正しいという。そこにちょっと心を病んだ若者がいる。
1月のテロから私が調べてきたテロに関与した者達は、実際には
昔から経験なイスラム教徒というタイプはほとんどいない。
ある事件や出来事をきっかけにして、突然目覚め、
師と呼べるような人に出会い、そこから人生が変っていく。
おそらくその師は彼が抱えていたちょっとした社会に対する
不満やくすぶりを正当化し、「まさに君のいっていることが正しい。
我々はそれを変えようとしているんだ」と言うだろう。
そしてそのために君が変るべきこと、とるべき方法、
多少の犠牲もやむをえないこと・・・沢山のことを
実に親身になって話してくれるだろう。
はじめて、そうまるでオウムの事件の時のように
はじめて「わかってもらえた・・・自分にも生きる意味がある!」
そしてこの社会は間違っている、と思った正義感の強い若者達は
師とともに?もしくは言われるがままに?彼らの道を模索する。

哀しいことに「テロリスト」としてテレビに登場した若者達の
妻や兄弟の中には「彼がそんな風になるなんて夢にも思わなかった」
と答える人がいる。「本当に?信じられない!あの人がそんなになるなら
誰にだって起こりうるわよ・・・」1月のテロのクアシ兄弟も、
妻達に「買い物に行く」といって出ていったまま帰らぬ人となっていた。
(私は妹のインタビューや生い立ちを知って泣きそうになった。
貧しいけれども助け合って生きてきたし、学校では差別などはなく、
フランスの公教育は人種の混ざり合いの中頑張ってきた)
今回のテロに関与し、一人は国際指名手配中のベルギー人の兄弟は
インタビューにこう答えていた。
「彼がそんなことをできるんだったら、俺の友達誰だってできてしまうよ・・・」
(La Libre.be より)
サンドニの警察の突撃時に殺された、アブデラミド・アバウッドの
いとこの女性(ヨーロッパで初めて自爆テロをした女性とも
言われているようだが実際には自爆していない)は6ヶ月前まで
ヴェールをかぶったこともなかったといい、彼女の兄弟は「彼女が
コーランを開いているのはみたことがない」と語っている。


日本では、どことなく「イスラムの人たちもヨーロッパで
差別を受けていたから(かわいそう・・・)」という風潮があると思う。
でも彼らにとっての差別というのは、私たちがパリや外国に行ったとき、
ちょっと治安の悪そうな地区のホテルに泊まり「怖かったのよ」といって
ホテルを変える、まさにその行為や感覚にあると思う。
特に盗まれたわけでもない。彼らは道端に立っていたかもしれない。
座り込んで大声で話していたかもしれない。でも実際には
そこで暮らしていただけだ。貧しい地区には沢山の国の移民が暮らし、
本当に多国籍で雑多な環境になっている。フランスを訪れる日本人は
移民が沢山載ったメトロに乗るだけで「こわい・・・」と思い、
平気でそれを口にする。「だからあの地区はやめておこう」
その考えこそが地区による差別をうみ、就職の差別を生んでいる。
駐在でパリに住む人たちはたいてい生粋のフランス人が多い15区、16区に住んでいる。
けれど移民が多くクアシ兄弟たちも住んでいた19区は日本のガイドにすら載っていない。
私がどんなに素敵な場所ですよと勧めても、たいていの人は言う。
「でも一人で行くのはちょっと・・・」


パリでは生粋のフランス人らしい風貌の人ばかりいる地区の方が
珍しい。10区も11区も沢山の人たちが入り交じり、
私の知人のフランス人女性は日本のガイドブックに「近づかないほうがいい」と
指摘されている北駅周辺に20年以上も住んでいる。
「危なくないんですか・・・?」と随分前に聞いてしまった私に
彼女は言った。「何一つ危険なことなんて起きた事ないわよ」
インド系も、アラブ系も、アフリカ系も、中欧系も、沢山の
移民や移民2世のフランス人で交じり合う。彼女はカンボジア人の養子を育て
今年は私にこう言った。「パリでは人種による差別なんてないのよ。
ねえ、あんたもカンボジア人だからって何か言われた事ある?」
「べつにない・・・」「パリではね、共和国の精神さえちゃんと
大事にすればどこから来たかはどうでもいいの。大事なのはそこなのよ」
彼女がそれを語った場所はまさにあのテロ現場から100メートルくらいのバーだった。
移民の多い地区ほど実際にはあたたかい。けれど私たちの多くは
そんな混沌とした状況を体験したことすらないだろう。
それに今回だって、パリのイスラム教徒の中でも
「今回ほど自分をフランス人だと感じたことはない」と
語る人や、バタクランの前でマルセイエーズを歌ったイマムの姿に
強く感動したというイスラム教徒の人もいる。



差別による憎しみが行動に移ることもある。でも同じ兄弟でも
何も不満を感じていなかった人もいる。だからひとくくりに
「ヨーロッパでイスラムの人たちが差別を受けていたから・・・
ヨーロッパの人は冷たいし」とは言えないのではないかと思うし、
多くのイスラムの指導者が「イスラム国はイスラムではない」と断言し
相変わらずオランド大統領が発言の度にイスラム教徒と
イスラム急進派をわけて話しているように、イスラム国はただ
ちょっとした若者の心の乾きに宗教をたてにしてつけいった
新興宗教団体だとも言えるだろう。
優秀な人たちがオウムに入信しサリンをまき散らしたように、
その思想に惹かれ、それこそが真の世界観だと思う若者は
いつの時代にもいるものだ。信じる対象が違えこそすれ、
世界は変えられる!と信じて運動に身を投じる若者は
日本にだっていたし、おそらく今でもいるわけで、
その時たまたま出会った「師」が誰かで
方向性が変ってしまうだけかもしれない。

世界は問題で満ちており、不平等はますます大きくなっていく。
持てる者はますますその富を活かして豊かになって、
その子供たちは成功の道が保証されていく。
一方で貧しい立場に置かれた者には時間もなければお金もない。
子供にしっかり優しい目をむける余裕もなければ
社会問題の構造を真剣に考える余裕もない。そんな時間があるなら
少しでも、そして何としてでもお金を稼がなければいけないからだ。
激しく変化する世界の中で、私たちが肝に銘じたほうがいいのは、
日本に住んで普通の暮らしをしているような人たちは、
自覚していないにしても、世界の格差ピラミッドの中の上部にいるということだ。

だからこそ、恵まれた立ち場にある人たちが
一度足元を見直して、状況を少しでもよくするために
できることは何なのか 考えていく必要があると思う。
環境問題も南北格差も、国内での激しい格差も憎しみも、
実際に問題を産み出しているのはたいてい先進国の
恵まれた者達の生活や行動の仕方なのだから・・・


世界情勢が激しい勢いで動く中、自分たちにできることは何だろう。
それは無理して国会議事堂前で数万人規模のデモをすることでは
ないかもしれない。自分の特技を活かしながら、少しでも
状況を改善するためにできること。政治家には政治家なりの
解決策があるのなら、市民には市民なりの道があるかもしれない。
現時点ではまだ当事者ではない国に住む私たちだからこそ
今この歴史的局面に、できることもあるのでは。

参考文献 資料
Le Monde, La Libre.be ラジオFrance Info 等
Le Monde " Attentas du 13 novembre: qui est Abdelhamid Abaaoud,
le commanditaire présumé?"

La Libre.be "Le témoignage d'un ami de Salah Abdeslam:
"Si lui est capable de cela, tous mes potes sont capables de cela…"

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