時を超えて

母も80歳半ばになった
父が屋久島は小杉谷小学校に赴任したのは55年も昔になる
お嬢さんお嬢さんと
ちょっと甘やかされて育った母が
屋久島の貧しい父と結婚した
戦犯の汚名を背負って教職を追放された父と
言葉には現せないほどの苦労をして
やっと教職に復帰できた最初の赴任校が小杉谷小学校だ

トロッコに乗って
遥か山奥の小学校に何時間も掛けて登っていく
今は廃校のその小学校に辿る途中の荒川ダムの付近を見てみたい
そんな母の願いを叶えるべく
登ってみた

痛い足を引きずりながら
トロッコの線路に立ちながら
遠い昔を思う母が
この世を去った父を思う母が
玄冬の寂しさと哀愁で物悲しい風景をつくっていた