語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】復興の条件--リーダーシップ ~台湾大震災の経験から~

2011年04月23日 | 震災・原発事故
 1999年9月21日に発生した台湾大震災(マグニチュード7.3)では、2,415人が亡くなり、11,000人以上が負傷した。日本は、その日のうちに、世界に先駆けて国際消防救助隊を台湾に派遣してくれた。「あのとき、日本から受けた恩義や友情は、私ばかりか、台湾の人民は忘れたことはない。台湾人は、友情をもっとも大切にする」
 台湾には、NGOのレスキュー部隊、中華民国捜救隊がある。日本財団(曽根綾子会長)から3億円の提供があり、うち1億円を投じてハイテク救助機器をそろえた。授賞式に出席した曽根会長に、日本で緊急事態が生じたら第一に日本の救済に関わります、と李登輝・台湾総統(当時)は約束した。

 3月11日、ニュース速報で日本の被災を知った。曽根会長との約束を履行するべく、翌12日早朝、今井正大使への連絡を手配した。その日、今井大使から、受け入れ体制が整っていない、責任者の連絡先を教えてくれ、と連絡が入った。さらに1日たった13日昼に入った連絡によれば、日本の自治体自身が手の施しようもなく、救助隊への要請はもっと先になる、云々。
 自然災害では、発生から72時間経つと生存する確立は急速に下がる。一刻の猶予もならない。それに、12日には、米軍と韓国の救助隊が到着し、中国も救助隊の派遣を表明している。なぜ台湾にだけ要請できないのか。“命の絆”を待ち焦がれているのは、国の利害関係や政治、イデオロギーとは関係のない被災者なのだ。
 そんないらただしさは、捜救隊も同様だったらしい。日本政府の対応を待たず、13日朝8時に成田に向けて出発した(医師2人を含む総勢35人)。
 中国政府の救助隊が、13日に日本に到着し、宮城県で救助活動を行ったのは報じられた。しかし、同じ日に到着した台湾の捜救隊の、岩手県大船渡市を中心とする活動についてはあまり報じられていない。

 大災害が発生した後、復興までに三つの段階をたどる。(a)人命救助と遺体処理、(b)生存者のための措置、(c)再建・復興策被災者の心のケア、だ。自身の体験をふまえて、日本政府の危機管理や首相のリーダーシップ、今後予想される問題点などについてアドバイスや感想を述べる【ここでは、数点を抜粋、要約する】。
 
(1)初動
 諸外国では、大災害には必ず軍隊が出動する。台湾大地震でも、国軍がその任務を遂行した。大地震は午後1時47分に発生し、台湾北部一帯は停電した(原発3基は緊急停止した)。まもなく震源地にもっとも近い軍司令部が前進指揮所を確保した、という連絡が入った。地震発生から13分後の午後2時、行政院(内閣)内に対策本部を設置した。人命救助優先、電力供給の確保など9項目の対応策を決定した。
 翌朝6時、李総統(当時)は台北をヘリで出発。被災した人民の声を聞き、指揮中心(救援センター)で兵士や民間の消防団などを激励した。そのとき、常に二人が帯同した。国軍の参謀総長(日本の自衛隊統合幕僚長に相当)および総統府の秘書長(同、官房長官)または副秘書長だ。自分の目で被災地の現状や被災者の窮乏を把握し、その場で直ちに、参謀総長や秘書長を通じて国軍や行政に指示した。
 「私は、国のリーダーは、国民を第一に考えるべきだと思っている。これが民主主義だ。これが自由の国が持つ姿勢だ。この視点を忘れたら、指導者としての資格はない。その点、菅首相は被災地でヘリから降りて、被災者の声に耳を傾けなければ問題は解決しない」
 こんなときだからこそ、政治のトップに立つ首相は、毅然として、将来のビジョンを示しながらリーダーシップを発揮していただきたい。

(2)被災自治体の支援
 被災した自治体は、救済対策や住民サービスにおいて限度がある。金融機関は被災直後には機能しないことが多く、自治体にも予算がないからだ。
 台湾大地震では、中国国民党(当時の主席は李登輝)から3億元(9億円)を持参し、村ごとに直接分配した。県を通して資金を渡すと、途中で滞ってしまって末端の自治体まで行き渡らないからだ。日本も、政府が救済資金を直接自治体に現金で配分してはどうか。自治体は、必要な物資を購入できるし、その資金を復興に役立てられる。
 たとえば、台湾大地震のとき、被災者のうち希望する者には、復興や再建のための公共事業に従事させ、日当千元(3,000円)を支払った。労働の手段を失った被災者は生活費を稼げるし、自分たちの街を自分たちで再生できる。“一石二鳥”の効果がある。さらに、働く被災者は、心のケアにもなる。
 日本でも検討する価値はある。

(3)被災児の教育
 親兄弟を失った子どもたちが就学の機会を失わないよう、篤志家や実業家の皆さんは、奨学資金や児童養護施設に寄付してほしい。被災した子どもたちは、教育を受ければ、将来きっと日本に役立つ人材に育つだろう。ノブレス・オブリージュとは、高貴な人には社会的な義務が課せられているという意味だ。日本の高貴な人こそ、被災者の教育について考えてほしい。「人材こそ、日本の宝なのだ」

(4)総括
 「今回の大震災で日本の復興を危ぶむ声もあるが、日本は再生するに決まっているではないか。ただし、それには条件がある。それは、国や国民を第一に思う、いい指導者に恵まれるかどうかにかかっている」

 以上、李登輝(台湾元総統)「台湾は日本の恩義を忘れない」(「文藝春秋」2011年5月号)に拠る。
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【震災】被災地支援に活躍するスリランカ大使

2011年04月23日 | 震災・原発事故
 駐日スリランカ大使は、身長183cm、体重95kgの偉丈夫。3月24日に来日したばかりだ。
 震災当日、ワサンタ・カランナゴダ大使(58)は、まだ母国にいた。原発問題が浮上するやいなや、家族や友人から、赴任を思いとどまらせようとする声が湧き起こった。
 だが、辞令にしたがって着任した。かなり深刻な内容の報道があったものの、「いまこそ日本との強い結束を示す時期だと考えた」のだ。

 スリランカにとって、日本は長らく最大の援助国だった。
 加えて、元官軍司令官のカランナゴダ大使には、強い思い入れもあった。「スマトラ沖地震(04年)で、わが国は壊滅的な被害を受けた。その時、日本は真っ先に駆けつけてくれたんだ」

 かくて、福島第一原発事故後、大使館を東京から待避させる国が続出するなか、彼は着任早々、積極的に被災地の支援にあたった。
 まず訪れたのは、福島県と宮城県だ。福島では、二つの避難所で900食のスリランカ・カレーをふるまった。
 宮城では、特産のティーバッグを配った。
 それだけではない。
 15,000人の在日スリランカ人に、「日本にとどまって、困難な状況下の日本の人たちと一緒になって働いてください」とメッセージを発したのだ。

 スリランカから、まもなく300万個のティーバッグが届く。
 スマトラ沖地震の際、がれき除去に活躍した救援隊を来日させるプランを立て、外務省に持ちこんでいる。「許可が下りれば、2~3週間で来日できる。まだまだ日本のために、やるべきことがあります」

 以上、記事「カレーふるまい、がれきも撤去 『男の中の男』駐日スリランカ大使」(「週刊朝日」2011年4月29日号)に拠る。
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【震災】もう一つの海洋汚染 ~PCBとダイオキシン~

2011年04月22日 | 震災・原発事故
 放射性物質に加えてもう一つ、世界中が注視している海の汚染がある。

 (a)PCB(ポリ塩化ビフェニール)
 PCBは、通電しにくい絶縁性があり、燃えにくいから変圧器などに幅広く使われてきた。しかし、発ガン性があり、皮膚障害、内臓障害、ホルモン異常を引き起こす。カネミ油症の原因物質の一つだ。その毒性が社会問題化して、生産中止(72年)。第1種特定化学物質に指定されて(74年)、使用は原則中止となった。
 ところが、田辺信介・愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授によれば、電力会社や事業者が保管している変圧器などの電気機器が海に流された可能性が高い。PCB処理に係る特別措置法が制定され(01年)、PCB廃棄物の処理施設が作られて順次無公害化処理が進められていたのだが、その最中に津波が襲ったのだ。
 PCBも食物連鎖を通して生物体内に濃縮蓄積しやすい。
 環境省は、3月28日、PCBを含む変圧器などが流出している恐れがあるとして、被災自治体に実態把握を求める通知を流した。
 PCBを保管する事業者は、保管状況などを自治体に届け出る義務がある。自治体は保管状況を把握している。しかし、立入りできない場所があるし、保管状況のデータを失った自治体もある。今のところ、環境省廃棄物・リサイクル対策部には実態はつかめてない。

 (b)ダイオキシン
 このたびの震災で倒壊した家屋やビルなど産業廃棄物は、宮城・岩手・福島の3県で2,500万トンにのぼる(環境省推計)。全国の一般廃棄物排出の半年分だ。
 これだけ大量の廃棄物を燃やす高温の焼却炉は足りない。海水に洗われ、塩分を含んだ木材を燃やすと、猛毒のダイオキシンが大量に発生する恐れがある。

 田辺教授のもとには、世界各地からPCBやダイオキシンの流出を危惧するメールが殺到している。
 地球規模のもう一つのフクシマ問題に対処するべく世界の英知を集めるためには、「情報公開、情報発信が欠かせません」(田辺教授)。 

 以上、藤後野里子「もう一つの汚染 世界が懸念するPCBとダイオキシン」(「サンデー毎日」2011年5月1日号)に拠る。
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【震災】復興ナショナリズムの危険性 ~香山リカの「こころの復興」で大切なこと~

2011年04月22日 | 震災・原発事故
 いま「復興ナショナリズム」とでも言うべき風潮が蔓延している。たしかに被災地の復興が急がれるが、被災者にとっての復興とは、元の生活を取り戻すことだ。そうした切実な思いが、復興ナショナリズムによって忘れ去られてしまわないか。
 「われわれは日本人なんだから一緒に頑張ろうぜ」という雰囲気が強まり過ぎている点も疑問だ。
 もちろん、緊急時にはバラバラではいけない。短くてインパクトのある「一緒になって」「一丸となって」という言葉を使うしかない、という事情はある。しかし、21世紀に生きる私たちは、どこか相対化しておかないと間違った方向に進んでしまう恐れがある。全員が一斉に一つの方向に進んでいると、思わぬ方向に向かわないとも限らない。原発の問題がこじれ、仮に国際社会から総スカンを食った場合に、意地になって「日本だけでやっていく」といった考えに陥って暴走しかねない。

 現在の状況は、日本に住む人にとって不安なことばかりだ。人間はしかし、究極の不安が襲ってきたとき、高揚状態になることがある。たとえば癌を宣告された患者の場合だ。もちろんショックを受ける人が多いが、なかには何事もなかったかのように振る舞ったり、落ちこまずに「癌なんかに負けるか」と強い意思を見せたりする。癌宣告後、新しいビジネスを立ち上げると口にする人もいる。
 非常事態に直面し、迫り来る恐怖や不安に向き合うのを避けるための反動、これを精神医学では「葬式躁病」と呼ぶ。身内や親しい人が亡くなったとき、葬式のときにテンションが異様に高くなってしまうのだ。高揚することで恐怖や不安や悲しみに直面するのを避けるのだ。人間の防衛反応の一つだ。
 こうした高揚感は防衛反応だ、ということを認識しておかないで、本当に元気だと思ってしまうと、あとでしっぺ返しが来る。
 震災前の日本経済は、デフレ不況に喘いでいた。回復の糸口さえ探しあぐねていたはずだ。それなのに「いまこそ奇跡の復興だ」「乗り越えられる」といった復興ナショナリズムは、葬式躁病的な反応を示している可能性がある。

 少子高齢化の日本がデフレ不況を脱し、高度成長を成し遂げて中国を抜くなどということは、現実にはあり得ない。しかし、リーダーたる日本の政治家は、それはあり得ないから違う方向を目指そう、とは言わないで、逆に実現可能性の低い経済成長戦略を打ち出してきた。国民を安心させ、現実から目をそむけさせるよう仕向けてきた。
 誰がどう考えても、震災によって経済が悪化するのは明白だ。この事態のなかで「経済はまだ大丈夫。いまこそチャンス」などという発想は、かえって危険だ。
 医療の世界では、患者にバッドニュースでも告知するのが常識になりつつある。患者にとってどれだけ辛い情報でもきちんと伝え、患者も納得の上で治療を進めるのだ。真実を伝えたとき患者は混乱したとしても、時間や周囲のサポートが助けとなり、それなりに受け入れる。ごまかしからは、何も生まれないし、始まらない。
 政治的リーダーには、悪いことも伝える役割がある。国民はまやかしを聞きたくない。
 もちろん、悪い現実を簡単に受け入れられるほど人は強くない。混乱し、不安になるのは当然だ。そのため、精神の安定を保つためには、一時的にも現実逃避が必要だ。現実を直視するのは辛い。現実が辛ければ、現実逃避が自分を守るために有効だが、その後は現実と向き合うことがどうしても必要になる。時間をかけても、後回しにしてもいいが、いつかそれと向き合うことになる覚悟がいる。

 決して無理をする必要はないが、震災前からやってきたことを継続するのは重要だ。寝る前に1時間読書をする習慣のあった人なら、こんなときでもそれを続ける。日頃の日常生活を無理せず自分の意思とペースで営んでいた人ほど、大きな出来事があっても、日常の営みを続けられるものだ。
 人間は、マイナーチェンジは可能だ。時間をかけて次第に変わることはできる。しかし、一つの出来事で人格が入れ替わるほどの変化があると、とても危険だ。人格の激変は病的だ。
 同じニュースを見ても、いろいろな反応を示す人がいるのが健全な社会だ。義援金を出さないでも、ボランティアに行かなくても、人それぞれ出番はいずれ必ず訪れる。その時のためにいまは力を蓄えておいていいし、みんなが疲れきってしまったときに大きな力を発揮できるかもしれない。いまは自分のために時間を使って将来に備える、という選択は決して悪いことではない。

 以上、香山リカ「大きな出来事があったからといって人は急に変わらない ~香山リカの『こころの復興』で大切なこと【第3回】 2011年4月19日~」(DIAMOND online)に拠る。
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【震災】東京電力社員の高い給与、潤沢な福利厚生施設 ~東電の「隠蔽」~

2011年04月21日 | 震災・原発事故
●給与年収順位(電力・ガス各社、2009年度)
  1位 中部電力・・・・・・837万円
  2位 J-POWER・・826万円
  3位 東北電力・・・・・・825万円
  4位 九州電力・・・・・825万円
  5位 北海道電力・・・822万円
  6位 関西電力・・・・・807万円
  7位 中国電力・・・・・796万円
  8位 四国電力・・・・・795万円
  9位 静岡ガス・・・・・776万円
 10位 北陸電力・・・・・775万円
 11位 東京電力・・・・・758万円★
 12位 沖縄電力・・・・・735万円
 13位 東京ガス・・・・・718万円

 有価証券報告書記載の東電従業員年収が不自然に低い。東電が、「監督もしくは管理の地位にある者を含まない」という妙な前提条件で数値を出しているためだ。実際は、関西電力とほぼ同じだ(関係者)。
 東電は、独身寮など社員の福利厚生施設の充実ぶりでも知られるが、その情報は3月末日をもってホームページから削除された。
 もっとも、近年、東電社員の収入は揺らいでいる。年間5ヵ月で安定していた賞与は、09年、柏崎刈羽原発事故の影響で4.0ヵ月(組合員平均161万円)にダウンした。今年の春闘では、組合は柏崎刈羽原発事故前の水準183万円を要求していたが、福島第一原発事故後、組合は要求案を撤回した。春闘のめどは立っていない。

●東京電力の社員向け福利厚生施設
 独身寮・・・・・・・168
 単身寮・・・・・・・・66
 厚生施設・・・・・・22
 体育施設・・・・・・・6
 社員食堂・・・・198
 社内託児所・・・・・1
 合計・・・・・・・・・461

 以上、COLUM「給与も社員施設も『隠蔽』」(「週刊東洋経済」2011年4月23日号)に拠る。
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【震災】共感疲労 ~香山リカの「こころの復興」で大切なこと~

2011年04月21日 | 震災・原発事故
(1)間接的トラウマ
 地震発生直後から、テレビ、インターネットで連日のように津波の映像が放送された。日を追うごとに新しい映像が増え、繰り返し繰り返し流された。
 かくして、東京には津波の被害はなかったのに、津波の夢で目が覚めてしまうという人が出てきた。自分が津波に呑まれてしまったかのような息苦しさを感じる、と訴える人もいる。被害の映像を見過ぎたためだ。
 映像がトラウマになるという現象は、「間接的トラウマ」「二次的トラウマ」と呼ばれ、子どもに多く見られる症状だ。子どもは、目で見た映像が目の前で実際に起こっていることなのか、モニターの中の出来事なのかを区別する脳の機能が未熟だ。このため、実体験として記憶してしまう危険性があり、それがトラウマを引き起こす、というわけだ。
 脳が処理できる量を超えた映像を見続けると、記憶の貯蔵庫に入れるとき、実体験と同じ場所に分類してしまうこともあるだろう。それは子どもに限った話ではない。
 さらに、津波の映像を見てショックを受け、自分の過去のトラウマがフラッシュバックした人もいる。虐待、レイプ、犯罪への巻き込まれといった自分の過去が、悲惨な映像を見たことで蘇ったのだ。こうした人は、津波の映像を自身の「命の危機」と同等の出来事として見たのだ。

(2)共感疲労
 無気力状態に陥ってしまう人もいる。金曜日に地震と津波が起こり、土曜日、日曜日の2日間テレビ、インターネット、新聞で情報に触れ続けた結果、月曜日に会社に行っても仕事が手につかない。やる気も、集中力もまったく出ない。涙が止まらなかったという人も少なくない。
 映像や被災地に関する情報は、津波の場面だけではなく、肉親を失った人、家を失った人のインタビューや避難所での厳しい生活ぶりを伝える。それに触れて、被災者に共感し過ぎることで精神が疲労してしまうのだ。
 これは、臨床心理学の世界で「共感疲労」と呼ばれている。災害時に被災地に入る医療関係者やボランティアにもよく見られる現象で、相手の境遇に心を寄せて考え過ぎるあまり、自分のエネルギーがすり減ってしまう状態だ。

(3)共感疲労を防ぐ法
 共感するという行為は、本来は褒められて然るべきことだ。
 共感疲労は、介護士、看護師、ボランティアなど被害者や被災者を直接支援する人に起こりやすい。たとえば、児童養護施設で虐待を受けた子どもたちと寝食を共にしながら接していくうちに、子どもが親から受けた虐待行為を直接聞き、子どもたちの気持ちに感情移入し過ぎてストレスが起きてしまう。
 精神科医は、共感疲労を避けるためのトレーニングを受けている。なるべく相手から距離を置いて、相手の身にならないように話を聞く。自分だったらどう思うか、とは考えない。基本的に、共感し過ぎない態度を取りながら相手に向き合う。
 災害の映像を見て「たいへんね」と思いながらも、「私じゃなくてよかった」「私の大切な家族は無事でよかった」と考える。被害者・被災者に同情しながらも、わが身と家族の安全を確認し、安心する。これは、どんな悲惨な事件や災害でも必ず起こる健全な心理だ。自らの身を守るためのメカニズムだ。
 他人事として切り離す行為は「分離」という心のメカニズムで、誰にでも備わっている心の防衛反応だ。何かが起きたときに「これは私のことではない」と思うことで、心が不安定な状態に陥るのを防ぐ機能だ。

(4)罪悪感
 何も被害を受けていないことが申し訳ない、無事でいることが申し訳ない、と言う人がいる。
 こうした考えは珍しくない。戦場や被災地を取材したジャーナリストが、何も被害を受けていないことに罪悪感を抱くケースは以前からあった。共感疲労を端緒とした罪悪感と言ってもいい。今回の大震災でも、被災地の取材から帰ったテレビのレポーターで、自分がいたもとの世界に戻れなくなった人がいた。ジャーナリストが抱く心理としては不思議ではないが、一般の人にまでその傾向が表れている点が今回の特徴だ。
 もう一つ、何も支援できなくて申し訳ない、という罪悪感がある。多くの人がボランティアやチャリティをやっているのに、自分は何も行動していない。自分は義援金もあまり多く払う余裕がない・・・・。そんな人が、誰かに強制されたわけでもないのに、自分を責めてしまう。こんなことで心を痛めている人がいるのは、本当に不幸なことだ。 
 いま日本で、一致団結して「自粛」しようという空気が蔓延している。一人ひとりの行動を強制的に制するかの雰囲気が漂っている。自粛をしないと「不謹慎」と白い目で見られてしまう。これは社会として決して健全ではない。
 一人ひとりで今回の震災の受け止め方は違う。対応も違って当然だ。共感を押し付けるかのような動きによって、多くの人が苦しんでいる。

(5)無理は禁物
 自分のことを自分で支えること。これがいま被災地への最大の支援となる
 大きな惨事があったからと言って、社会全体で同じ対応をする必要はない。遊びたい人は遊べばいいし、静かにしていたい人は静かにすごせばいい。無理せず、自分をいたわることだ。無理してやっても、いいことはない。
 共感疲労、そこから派生する罪悪感によって心の調子を崩す人は、もともと思いやりのある優しい性格の人だ。それは否定しなくていい。しかし、その共感疲労によって、結果的に被災者への支援とは逆向きの効果をもたらしている。
 いま被災地以外の人にもっとも大切なことは、自分で自分を保つこと、自分のことを自分で支えることだ。それによって、世の中の多くの資源が被災者へとつながる。それが、最大の支援になる。そのためには、社会として特定の行動を強制せず、それぞれの人が無理なく過ごせるような状況にすることが大切だ。

 以上、香山リカ「『一日も早く』にとらわれない ~香山リカの『こころの復興』で大切なこと【第1回】 2011年4月5日~」(DIAMOND online)、同「被災していない人にも『共感疲労』という苦しみがある ~香山リカの『こころの復興』で大切なこと【第2回】 2011年4月12日~」(同)に拠る。
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【震災】復興の財源(案) ~社会資本整備特別会計と農林漁業関係公共事業予算の統合など~

2011年04月20日 | 震災・原発事故
(1)被災地のインフラを復旧し、中小企業や農林水産業を復興するための財源
 「社会資本整備特別会計」(3.2兆円)を廃止し、農林漁業に関係する公共事業予算(0.5兆円)を統合する。
 そのうえで、(a)当該予算の半分は、地域主権を促進するための「一括交付金として配分する。
 (b)残りの半分は、東日本大震災の復興資金(年間2兆円)【注1】として、被災した東北・関東地域に重点的に配分する。その際、都市と農村の土地利用計画制度を一元化・総合化する。併せて、防災を加えたスマートシティ化を目標とする。

 【注1】5年間の大震災地域復興特別会計。

(2)他の特別会計などの洗い直し
 再度行う。余剰金を捻出して上記特別会計に繰り入れる。

(3)税制改革
 5年間の期間限定の「社会連帯税」(所得税の付加税)を導入し、相続税率を引き上げ、さらに環境税【注2】を新設するなどの税制改革を行う。

 【注2】実態上の道路特定財源の活用。

(4)法人税
 現行の租税特別措置を廃止した上で、内部留保について原則として課税強化を行う。一定の戦略産業【注3】への投資、雇用の増加を実現した場合に法人税減税を実施する。

 【注3】再生可能エネルギー、医療など。

(5)再生可能エネルギー
 固定価格買取制度の実現のために、所得に配慮しつつ電力料金を引き上げる。

(6)復興債
 以上の施策を実施しても財源が不足する部分について、復興債を発行する。と同時に、借換債について永久債を発行し、売買禁止を前提に日銀引き受け等によって調達する。

 以上、金子勝(慶應義塾大学教授)「後戻りせず、前に進もう -日本復興計画の提言」(「世界」2011年5月号)に拠る。

  *

 河野太郎衆議院議員によれば、公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センターは、典型的な「原子力村」天下り組織だ。3兆円の積立金を保有し、うち2兆4,491億円が使用済燃料再処理等積立金だ。今回の事故で再処理や核燃リサイクルの先行きは不透明で、積立金が使用されない可能性がある。ならば、法改正して賠償金に充てるべきだ。原発関連団体を精査し、さらなる埋蔵金を掘り起こしたい、云々。

 北沢栄(ジャーナリスト)によれば、特別会計から、年金・労働保険資金を除く積立金や剰余金をかき集めると、ざっと50兆円になる。たとえば、外国為替資金特別会計の積立金は20.5兆円だ。さらに、財政投融資、エネルギーなど各特別会計が内部留保している積立金も莫大な額にのぼる、云々。

 以上、記事「原子力村の埋蔵金3兆円を賠償に充てろ」(「サンデー毎日」2011年5月1日号)に拠る。
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【震災】漁業を再生させる新たなしくみ ~米国CSA運動に学ぶ~

2011年04月20日 | 震災・原発事故
 「3万5,000kmあまりの海岸線をもつわが国には、平均して12kmごとに2,914の漁港があり、18万隻の漁船が魚を追いかけている。そして海岸線5.6kmごとに6,298の漁村集落がある。ここに生きる20万人余の漁業就業の懸命の努力によって私たちの食卓は支えられ、漁食文化はかろうじて保たれてきたのである」
 大震災と大津波に打ちのめされ、住み慣れた海辺の町に背を向けて新しい人生を歩もうと決意しはじめた漁師たちに、私たちの明日の食卓のために漁を再開してほしい、と頼むことは可能か。できるとすれば、具体的にはどんなことがあるか。

 そのヒントは、近年米国で急速に広がっているCSA運動にある。CSA(Community Supported Agriculture)は、「地域で支えあう農業」とでも訳すべきものだ。大規模単一栽培が主な米国農業の中で、多品種少量生産の家族農業を応援し、農村環境を保全しながら、地域社会を維持しようとする運動だ。
 「グローバル化で歪んでしまった食と環境コミュニティを健全なものに回復させようと始まったアメリカのCSA運動は、全米で1万3,000農場で取り組まれており、質の高い食材を生産する小農を守ろうとはじまったイタリアのスローフード運動や韓国の身土不二運動、日本の地産地消運動とも共通するものがあるが、CSAは消費者と農業者の結びつきが一歩も二歩も深くつながっている」
 契約関係を前提としている。農作業作付け前に消費者と農家が話し合って農作物代金を1年分前払いする。年間600ドルが一般的だ。前払いされた農家は、安心して生産に勤しむことができる。しかも、冷害など不作の時は、契約上、返金しなくてよい。農業は、自然相手のリスクの高い仕事だ、という認識が米国の消費者に広がっているからだ。このリスクを生産者だけに負担させず、消費者もリスクを負担するのだ。
 CSA運動は、格差社会への配慮も行っている。低所得者で参加したい消費者には、割引するし、払えない分は労働(雑草取り・収穫・配達など)による交換を積極的に進めている。

 「このようなしくみを海辺の町の再生に活用することはできないだろうか。私たちにかわって魚をとってくれる漁師さんに月々5,000円の会員が1年分の6万円を前払いして、これが200世帯集まると1,200万円になる。これを新造船の費用や油代、労働費その他の費用にあて、消費者は毎月5,000円分の魚を受け取る」
 結城登美雄は、宮城県旧鳴子町の山間地で、「鳴子の米プロジェクト」を始めて5年になる。
 「食べる人々が米を作る農家を支えている。魚についても可能性はあると思うがどうだろうか」

 以上、結城登美雄(民俗研究家)「漁業の再生と食の未來」(「世界」2011年5月号)に拠る。
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【震災】原発>原子力安全委員会による隠蔽 ~放射性物質の拡散予測~

2011年04月19日 | 震災・原発事故
 防災基本計画では、原子力安全委員会が事故報告を受けた場合、「直ちに緊急技術助言組織(委員45人)を召集し」、専門家を現地派遣すること、と定められている。調査委員は、現地で情報の収集・分析を行うとともに、国、自治体、電力会社などの「応急対策に対し必要な助言を行う」。
 原子力安全委員会は委員5人(斑目春樹委員長)、緊急技術助言組織は原子力安全委員会委員と緊急事態応急対策調査委員40人で構成される。
 しかるに、緊急技術助言組織の複数の委員は、「召集の連絡を受けていない」。ある委員は、「召集予定はないと言われた」。別の委員は、「早い時期に召集の議論があったが、集まっていない」【注1】。
 そして、震災38日目の4月17日に、ようやく小山田修委員と野口宏緊急事態応急対策調査委員の2人を政府の現地対策本部(福島市)に派遣した。しかし、2人は県の災害対策本部には姿を見せなかった【注2】。知事にも会っていない【注3】。

 1ヵ月以上も何をしていたのか。
 放射性物質の拡散予測を隠蔽していた。
 事故後、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)で2,000枚以上の拡散試算図が作成されたが、そのうち原子力安全委員会が公表したのは、わずか2枚(3月23日及び4月11日)だけだった【注4】。

   *

 原子力安全委員会によれば、試算図を公表しない理由は「放射性物質の放出量データが乏しい。試算図は実際の拡散状況と異なり、誤解を招きかねない」からだ。
 他方、原子力安全委員会は、三宅島噴火(00年)や北朝鮮の核実験(06年)では、SPEEDIによる火山ガスや放射性物質の拡散予測を積極的に公表している。

【注1】記事「安全委が専門家の現地派遣行わず 防災計画、不履行」(2011年4月16日付け大阪日日新聞)
【注2】記事「原子力安全委員が初の福島入り 県知事は『なぜ、いまごろ』と不快感あらわ」(2011年4月17日23:37  msn産経ニュース)
【注3】記事「原子力安全委の委員、初めて福島入り 知事に面会せず 」 (2011年4月19日22:08 日本経済新聞電子版)
【注4】記事「拡散の試算図2千枚、公表は2枚 放射性物質で安全委」((2011年4月18日19:43 共同ニュース)
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【震災】原発>健康に悪影響を与える要因 ~放射性物質以外~

2011年04月19日 | 震災・原発事故
 福島第一原発事故が健康に与える影響は、放射性物質だけではない。
 人々の健康状態は、(a)衛生状態や(b)生活習慣に規定される。被災地の避難所では日常生活と異なって、多数が共同生活し、衛生用品が不足する(感染症流行の可能性)。また、高齢者が体を動かす機会が減る(「閉じこもり」)と、加齢による筋力低下と運動不足があいまって、足腰が弱くなり、転倒などを引き起こす(ロコモティブシンドローム/廃用症候群)。

 (a)や(b)も重要だが、健康状態を規定する要因として、最近着目されているのは(c)社会的要因だ。
 社会的結束が冠動脈性心疾患(心筋梗塞)に影響する。また、社会的に孤立している人ほど、死亡率が高い。他人への信頼感と所得格差、主観的な健康水準とのあいだに相関がある。つまり、長期にわたる避難のあいだに、それまで築いてきた人間関係が破壊されると、健康も大きな影響を受ける(予想)。

 チェルノブイリ・フォーラムの報告書によれば、皮肉なことに事故後に自ら村に戻った住民の方が、より放射能の影響を受けていない地域に移住した住民よりも、心理的な状態が良かった(ただし、身体的な状態については、総合的にみて健康を損ねる可能性は否定されていない)。
 この理由は報告書では言及されていないが、おそらくは知らない土地で過ごすストレスが健康に悪影響を与えたのではないか。
 また、ウクライナ在住のARS(急性放射線症)生存者94名と非ARS99名の健康状態は、20年を経過した現在では両者に差がなくなり、むしろ慢性的な心理的ストレス、栄養不良、不安定な社会的・経済的な状況といった要因の影響が大きいことを示す研究がある。事故によるストレスが健康に与えた影響は、放射線そのものが与えた影響よりも大きいのではないか、とする研究も存在する。

 放射線そのものよりも、ストレスや人間関係が健康に大きな影響を与える可能性について肝に銘じておいたほうがよい。もちろん、放射線の影響を否定するものではない。放射線以外の要因を軽視するべきではない、ということだ。
 単に放射線を浴びなければそれでよい、というだけでなく、被災者がどこに避難するにせよ、あるいは居住を継続するにせよ、ストレスや人間関係を考慮しなければ被災者の健康を守ることができない。

 以上、河野敏鑑「原発事故の悪影響は放射線だけか」(WEBRONZA 2011年4月18日)に拠る。

 対人関係の障害は精神疾患を引き起こす一因となる。たとえば、過疎の村から大都会に出稼ぎに出ると、希薄な人間関係の中で統合失調症の発生率が高まった(荻野恒一『過疎地帯の文化と狂気:奥能登の社会精神病理』、新泉社、1977)。
 阪神・淡路大震災でも、高齢者を優先して仮設住宅に入居させたところ、孤独死が発生した。
 こうした経験知に立って、このたびは地区ごとの移転や、グループ単位の仮設住居等への入居が試みられている。しかし、これはこれで別の難題を招いた。仙台市が仮設住宅や市営住宅などへの応募を10世帯以上の団体申し込みに限定したところ、締め切りまで残り3日の時点で応募はわずか3件、用意した住宅は1割も埋まらなかった(2011年4月17日5時12分 asahi.com)。
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【震災】今夏、全国各地で電力が不足する

2011年04月19日 | 震災・原発事故
 夏には電力需要が増える。
 東京電力は、需要に対して1,000万kW足りない。
 東北電力も、需要に対して150~230万kW足りない。
 被災しなかった地域はどうか。
 原発は、約1年ごとに定期検査で止まる。日本の原発は、いま全54基のうち25基しか営業運転していない。残りは震災による停止や定期検査中だ。合計約2,500万kWが「凍結」されている。
 電力制約は、東日本だけですまない。今夏、電力不足は全国津々浦々を覆う。

●関西電力
 美浜原発1号機、高浜原発1号機、大飯原原発1、3号機が停止したままの場合、供給予備率【注】はマイナスになる。

●北陸電力
 志賀原発1、2号機は、運転再開の見通しが立たない。夏の最大電力需要526kWに対して、供給力は535kW、供給予備率は2%だ。

●四国電力
 4月中に伊方原発3号機が点検に入るが、再開の可能性は低い。3号機はMOX燃料を使用している。福島第一原発3号機と同じ燃料だ。住民の理解を得るのは難しい。夏の最大需要550万kWに対して、供給予備率は1%になる。

●九州電力
 玄海原2、3号機と川内原発1号機が動かなくなれば、最大需要1,669万kWに対して、供給予備率は3%となる。

 【注】供給予備率は、需要に対する供給力の余裕を示す。通常は10%以上確保される。

 以上、片田江康男・小島健志(本誌)「日本総停電の引き金となる世界最悪『レベル7』の衝撃」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月23日号)に拠る。
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【震災】手に入りにくい基礎食品 ~食の安心・安全~

2011年04月18日 | 震災・原発事故
 首都圏を中心とする東日本で、品薄の食品は次のとおり。
 品薄の原因は、大別すると三つ。第一、製造工場の被災。第二、原料、包装資材の不足。第三、計画停電による生産量の大幅な低下。
 なお、(a)品薄の背景、(b)回復のめど、(c)予測・・・・の順に記す。

●ミネラルウォーター
 (a)救援物質に使われるため、また、水道水汚染の懸念があって需要が爆発的に拡大した。しかも、キャップメーカー2社が被災で生産停止した。供給は平時の7割に。商品ごとにキャップのデザインやサイズが異なる多品種少量生産のため、増産は容易ではない。
 (b)特例の規制緩和で韓国などから輸入が増加した。フランスへ緊急発注した分は、5月中旬から供給を開始する。消費者の水道水離れで、受給逼迫状況が当分続く。
 (c)6月から回復傾向の見こみ。

●ビール
 (a)大手4者で7工場が被災し、製造中止。缶の上フタの供給も停滞し、缶ビールの製造に支障が生じている。メーカーは計画出荷中。
 (b)4月から被災工場が再稼働(一部、再開が未定)。業界全体、全国的に製造余力がある。夏には供給体制が整う。
 (c)夏には回復の見こみ。

●牛乳
 (a)紙パック製造大手2社の工場が被災した。ラベルを印刷するインクも不足している。首都圏消費の2割を担う福島県と茨城県の牛乳供給停止も影響した。4月に入り、学校給食が始まったことも需給を逼迫させている。
 (b)紙パックは台湾から輸入を開始した。操業再開の工場も出てきた。4月に入り、小売業者は西日本や北海道から調達を開始し、店頭での品薄はかなり改善している。
 (c)5~6月に回復の見こみ。

●ヨーグルト
 (a)東北・北関東の被災工場が多い。生乳が牛乳製造に優先的に回るため、原料が不足する。停電で発酵や冷蔵が行えず、生産効率が極端に悪化している。平時の2割しか供給がない。
 (b)平時に回復するめどが立たない。
 (c)回復の見こみは当面ない。

●納豆
 (a)首都圏の主な供給源だった茨城県や千葉県の大手メーカー2社(タカノフーズ、ミツカン)を含む複数の工場被災が影響している。包装材や容器が不足している。停電で大豆の発酵が行えず、生産効率が悪化している。
 (b)大手メーカーの工場は徐々に再開し、供給は上向く。小売りは西日本から調達開始。極端な品薄感は減少の傾向にある。
 (c)5月に回復の見こみ。

●鶏卵
 (a)鶏卵の大産地、東北・北関東で養鶏農家・工場が多数被災した。沿岸部の飼料工場・倉庫の被害も大きい。被災を免れた農家も、飼料不足が鶏卵生産に影響している。
 (b)西日本からの調達で店頭の品薄感が解消しつつある。ただし、東北・北関東の出荷平常化へのめどが立たず、価格は高めだ。
 (c)5月回復、ただし高値の見こみ。

●アイスクリーム
 (a)計画停電で取扱いを中止する店舗が出現した。ただし、需要減少期なので需給逼迫はない。工場も創業停止で生産を減らしている。原料の牛乳も不足している。
 (b)消費ピークとなる夏場が課題だ。店舗や冷凍設備における停電対策のめどが立たない。例年は夏に向けて生産量を増やすが、現時点での生産量低下が多大な悪影響を及ぼす。
 (c)夏に不安がある。

 以上、記事「食の安心・安全は守られるか」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月23日号)に拠る。
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【震災】不足が懸念される魚介類 ~食の安心・安全~

2011年04月18日 | 震災・原発事故
 被災地のシェアが高かったため、今後不足する可能性の高い魚介類は次のとおり。
 なお、(a)特徴、(b)時期(旬)、(c)全国漁獲量に対するシェア、(d)全国順位・・・・の順に記す。

●ワカメ
 (a)国内だけでは代替は難しい。
 (b)3~5月(すでに不足)。
 (c)青森県・岩手県・宮城県で75%。
 (d)岩手県(1位)、宮城県(2位)。

●カツオ
 (a)気仙沼のカツオが危機。
 (b)5~8月。
 (c)青森県・岩手県・宮城県・福島県で14%。
 (d)宮城県(3位)。

●サンマ
 (a)被災地の漁獲量は、北海道に次ぐ。
 (b)8月後半~10月。
 (c)青森県・岩手県・宮城県・福島県で32%。
 (d)宮城県(2位)、福島県(3位)、岩手県(4位)。

●サバ
 (a)石巻の金華サバなどブランド魚が危機。
 (b)10月。
 (c)青森県・岩手県・宮城県・福島県・茨城県で38%。
 (d)茨城県(1位)、福島県(5位)、岩手県(8位)、宮城県(9位)。

●カキ
 (a)被災地は、養殖カキの一大産地。
 (b)10月。
 (c)青森県・岩手県・宮城県で31%。
 (d)宮城県(2位)、岩手県(3位)。

 以上、記事「食の安心・安全は守られるか」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月23日号)に拠る。
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【震災】為替レートの大変動 ~高まる不確実性~

2011年04月18日 | ●野口悠紀雄
(1)円高の可能性
 大震災後、為替レートがきわめて大きく変動した。直後に海外市場で急激な円高が進んだ(かなりの投機的取引が推定される)が、18日の協調介入を契機に円安に転じた。その後さらに円安が進んだ(欧米の金融緩和が終了するとの見とおしが広がったため)。4月6日には85円台で、震災直前の水準より円安だ(中期的には10年夏以来の円安)。
 阪神・淡路大震災後の動きと似ているが、今回はこれから先は円安にならないだろう。背後の経済条件に、当時と現在では大きな違いがあるからだ。
 (a)現在の海外との金利差は、当時ほど大きくない。欧米の金利が今後上昇しても、円キャリーを引き起こすほどの金利差にはならない。当時と違って、現在ではこれ以上低下しようがないほど低くなっている。
 (b)マクロ的資金需要が違う。90年代には貯蓄率が高かった。国債発行も多くなかった。復興に要する投資を国内の貯蓄で賄うことができた。金利上昇を招かずにすんだ。現在では、復興資金の増加は資金市場でクラウディングアウトを引き起こし、金利が上昇する可能性が高い。日本の対外資産の取り崩し、日本の対外投資の減少も起こるだろう。よって、ここ数年は円高が進む可能性が高い。

(2)資本収支の変化により大きく変動する為替レート
 為替レートは、経常収支の変化によってはあまり影響されず、資本収支の変化によって大きく変動する。
 大震災→経常収支黒字を縮小→国内での生産が不利、電力制約による生産量拡大の頭打ち→輸入増加、輸出減少。
 80年代までのように資本取引が自由化されていなければ、円に対する需要が減るので、円安になるはずだ。しかし、資本取引が自由化され、巨額の資本取引が行われている現在、資本取引が為替レートに大きな影響を与える。経常収支黒字が今後縮小しても、円安になるとは限らない。
 しかも、長期的な見とおしに立った長期投資ではなく、短期的な資本移動だ。これは、短期的な変動と、その予測に大きく影響される。
 ただし、現実の金利差に反応しているのではなく、今後の金利差がどうなるかの予測に反応している。だから、その動きは単純ではない。

(3)不確実性の時代
 実物面の動きは、かなり正確に予測できる。特に、次の二点は確実だ。(a)夏頃から復興投資が増え、資金需要が増える。(b)夏に電力事情が厳しくなり、これは長期的に続く。
 ただし、不確実性もある。特に、(a)原発被害の広がりと事故収束が見極められない。(b)既存原発や新規原発がどうなるか、現時点では不明だ。(c)生産拠点の海外移転は続くだろうが、どの程度加速するかは不明だ。
 不確実性がもっとも大きいのは、価格の反応だ。資金需要増加→金利上昇→円高。
 ただし、価格は将来の変化を先取りするので、事態が複雑になる。将来価格上昇の予測→現在価格の上昇(「市場の効率性」)。
 市場が完全に効率的ならば、現在予測できる要因は、すべて現在の価格に反映されてしまう。将来の動きは、現在予測できない要因によってしか影響されてないことになる。
 しかも、今後の変化は、方向性の異なる動きだ。長期的には日本経済が弱まり、円安になっていくとしても、「日本売りで円安になる」というようなことにはならない。その前に日本国内の資金需要が増えるから、円高になる。しかし、復興が終われば資金需要が減る。その前に、欧米の金利が上がるから円安になる。
 以上のように、円安要因と円高要因が交互に現れる。しかも、そのタイミングがはっきりとはわからない。それがさらに事態を複雑化する。
 短期的な資本移動は、短期的な変動で利益を得ようとするから、投資の方向が大きく揺れる。それが為替レートの変動をさらに大きくする。かくしてボランタリティが高まる。それが実物経済にも影響を与える。
 震災後の日本経済の大きな特徴は、ボラティリティが高まったことだ。それにどう取り組むか(重要な課題)。

【参考】野口悠紀雄「高まる不確実性と為替レートの大変動 ~「超」整理日記No.558~」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月23日号)
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【震災】勝間和代のお詫び ~原発を宣伝した責任~

2011年04月17日 | 震災・原発事故
 「今回の福島第一原子力発電所の事故に関し、電力会社(中部電力)のCMに出演したものとして、また、電気事業連合会後援のラジオ番組に出演していたものとして、宣伝責任ある人間として、まずはみなさまの原子力に対する重大な不安への理解、および配慮が足らなかったことについて、そして、電力会社及び政府のエネルギー政策上のコンプライアンス課題を正しく認識できていなかったことについて、心からお詫びを申し上げます」
 「真っ先に反省をさせていただきたいことは、みなさんにご不安、ご心配をおかけしている事に対するお詫びです。私が、事故後のコメントにおいて、過去のデータや科学的根拠ばかりを強調したあまり、多くの方々が感じている将来への不安や精神的なダメージやに対する配慮を欠くコメントをしてしまったこと、また、不愉快と思われる発言を行ったことについて、重ねて深くお詫び申し上げます」
 「これまで、単なる事実としてのデータの積み上げだけではなく、その事故を受けたときに健康被害が出る可能性や、風評被害が出る可能性、あるいは精神的なショック全体における心理的なダメージを十分に推し量ることができなかったと感じ、反省をしております。人によって感受性の違いがある、なしではなく、『そう感じている人が多く、不安になっている』という事実こそが、過去データよりも重要であり、その点を十分に理解できておりませんでした」
 「今後の発言においては、心理面、及び将来リスクの点を十分に理解の上、コメントを行っていく所存です」

 以下は、お詫びに付す「電力業界のあり方および政府の電力行政に対する公開提案」である。

----------------(引用開始)----------------
1.今回の事故の対応として(是正処置)
・東京電力役員総辞職
・福島第1原発の国家管理
・東京電力の分割(被害者補償会社と事業会社)
・全原子力発電所の徹底した調査(非常用発電機)
・電力会社にいる天下り官僚の総辞職
・原子力保安院の解体
・原子力安全委員の総辞職

2.リスクを軽減する恒常的な枠組みとして(予防措置)
・電力自由化の推進(発電、送電分離により、組織論理の独走を防ぐ)
・電気事業法改正(発電規制の緩和、売電自由化、分散化)
・全原子力発電所の冷却装置の改良(電力に頼らない冷却システム)
・軽水炉の新規建設の永久凍結。(その代わり、ガス冷却方式のウラン型原子炉やトリウム融溶塩炉のようなそもそも放射性廃棄物があまり出ないタイプの新しい技術については安全性を充分に検証した上で導入する。)

3.改められた仕組みの有効性(監査と監視)
・国際機関による定期的な査察
・保安院に代えて、リスクマネジメントに関する、総合的な意見聴取の場を国が新たに設け、メンバーには分野を問わず幅広い人材を登用する。(原子力発電に否定的立場を取る専門家でも、数字やデータで議論出来る人は積極的に登用する。この会の提言は強制力を単なる勧告ではなく、強制力を持った命令とする。)
・定期的なストレステストの実施。(当面は原子力安全委員会に専門機関を設ける形で対応し、将来的には国際機関など第三者によるテストが望ましい。)
----------------(引用終了)----------------

 以上、勝間和代「原発事故に関する宣伝責任へのお詫びと、東京電力及び国への公開提案の開示」(2011年4月15日 REAL-JAPAN..ORG)に拠る。
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