1999年9月21日に発生した台湾大震災(マグニチュード7.3)では、2,415人が亡くなり、11,000人以上が負傷した。日本は、その日のうちに、世界に先駆けて国際消防救助隊を台湾に派遣してくれた。「あのとき、日本から受けた恩義や友情は、私ばかりか、台湾の人民は忘れたことはない。台湾人は、友情をもっとも大切にする」
台湾には、NGOのレスキュー部隊、中華民国捜救隊がある。日本財団(曽根綾子会長)から3億円の提供があり、うち1億円を投じてハイテク救助機器をそろえた。授賞式に出席した曽根会長に、日本で緊急事態が生じたら第一に日本の救済に関わります、と李登輝・台湾総統(当時)は約束した。
3月11日、ニュース速報で日本の被災を知った。曽根会長との約束を履行するべく、翌12日早朝、今井正大使への連絡を手配した。その日、今井大使から、受け入れ体制が整っていない、責任者の連絡先を教えてくれ、と連絡が入った。さらに1日たった13日昼に入った連絡によれば、日本の自治体自身が手の施しようもなく、救助隊への要請はもっと先になる、云々。
自然災害では、発生から72時間経つと生存する確立は急速に下がる。一刻の猶予もならない。それに、12日には、米軍と韓国の救助隊が到着し、中国も救助隊の派遣を表明している。なぜ台湾にだけ要請できないのか。“命の絆”を待ち焦がれているのは、国の利害関係や政治、イデオロギーとは関係のない被災者なのだ。
そんないらただしさは、捜救隊も同様だったらしい。日本政府の対応を待たず、13日朝8時に成田に向けて出発した(医師2人を含む総勢35人)。
中国政府の救助隊が、13日に日本に到着し、宮城県で救助活動を行ったのは報じられた。しかし、同じ日に到着した台湾の捜救隊の、岩手県大船渡市を中心とする活動についてはあまり報じられていない。
大災害が発生した後、復興までに三つの段階をたどる。(a)人命救助と遺体処理、(b)生存者のための措置、(c)再建・復興策被災者の心のケア、だ。自身の体験をふまえて、日本政府の危機管理や首相のリーダーシップ、今後予想される問題点などについてアドバイスや感想を述べる【ここでは、数点を抜粋、要約する】。
(1)初動
諸外国では、大災害には必ず軍隊が出動する。台湾大地震でも、国軍がその任務を遂行した。大地震は午後1時47分に発生し、台湾北部一帯は停電した(原発3基は緊急停止した)。まもなく震源地にもっとも近い軍司令部が前進指揮所を確保した、という連絡が入った。地震発生から13分後の午後2時、行政院(内閣)内に対策本部を設置した。人命救助優先、電力供給の確保など9項目の対応策を決定した。
翌朝6時、李総統(当時)は台北をヘリで出発。被災した人民の声を聞き、指揮中心(救援センター)で兵士や民間の消防団などを激励した。そのとき、常に二人が帯同した。国軍の参謀総長(日本の自衛隊統合幕僚長に相当)および総統府の秘書長(同、官房長官)または副秘書長だ。自分の目で被災地の現状や被災者の窮乏を把握し、その場で直ちに、参謀総長や秘書長を通じて国軍や行政に指示した。
「私は、国のリーダーは、国民を第一に考えるべきだと思っている。これが民主主義だ。これが自由の国が持つ姿勢だ。この視点を忘れたら、指導者としての資格はない。その点、菅首相は被災地でヘリから降りて、被災者の声に耳を傾けなければ問題は解決しない」
こんなときだからこそ、政治のトップに立つ首相は、毅然として、将来のビジョンを示しながらリーダーシップを発揮していただきたい。
(2)被災自治体の支援
被災した自治体は、救済対策や住民サービスにおいて限度がある。金融機関は被災直後には機能しないことが多く、自治体にも予算がないからだ。
台湾大地震では、中国国民党(当時の主席は李登輝)から3億元(9億円)を持参し、村ごとに直接分配した。県を通して資金を渡すと、途中で滞ってしまって末端の自治体まで行き渡らないからだ。日本も、政府が救済資金を直接自治体に現金で配分してはどうか。自治体は、必要な物資を購入できるし、その資金を復興に役立てられる。
たとえば、台湾大地震のとき、被災者のうち希望する者には、復興や再建のための公共事業に従事させ、日当千元(3,000円)を支払った。労働の手段を失った被災者は生活費を稼げるし、自分たちの街を自分たちで再生できる。“一石二鳥”の効果がある。さらに、働く被災者は、心のケアにもなる。
日本でも検討する価値はある。
(3)被災児の教育
親兄弟を失った子どもたちが就学の機会を失わないよう、篤志家や実業家の皆さんは、奨学資金や児童養護施設に寄付してほしい。被災した子どもたちは、教育を受ければ、将来きっと日本に役立つ人材に育つだろう。ノブレス・オブリージュとは、高貴な人には社会的な義務が課せられているという意味だ。日本の高貴な人こそ、被災者の教育について考えてほしい。「人材こそ、日本の宝なのだ」
(4)総括
「今回の大震災で日本の復興を危ぶむ声もあるが、日本は再生するに決まっているではないか。ただし、それには条件がある。それは、国や国民を第一に思う、いい指導者に恵まれるかどうかにかかっている」
以上、李登輝(台湾元総統)「台湾は日本の恩義を忘れない」(「文藝春秋」2011年5月号)に拠る。
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台湾には、NGOのレスキュー部隊、中華民国捜救隊がある。日本財団(曽根綾子会長)から3億円の提供があり、うち1億円を投じてハイテク救助機器をそろえた。授賞式に出席した曽根会長に、日本で緊急事態が生じたら第一に日本の救済に関わります、と李登輝・台湾総統(当時)は約束した。
3月11日、ニュース速報で日本の被災を知った。曽根会長との約束を履行するべく、翌12日早朝、今井正大使への連絡を手配した。その日、今井大使から、受け入れ体制が整っていない、責任者の連絡先を教えてくれ、と連絡が入った。さらに1日たった13日昼に入った連絡によれば、日本の自治体自身が手の施しようもなく、救助隊への要請はもっと先になる、云々。
自然災害では、発生から72時間経つと生存する確立は急速に下がる。一刻の猶予もならない。それに、12日には、米軍と韓国の救助隊が到着し、中国も救助隊の派遣を表明している。なぜ台湾にだけ要請できないのか。“命の絆”を待ち焦がれているのは、国の利害関係や政治、イデオロギーとは関係のない被災者なのだ。
そんないらただしさは、捜救隊も同様だったらしい。日本政府の対応を待たず、13日朝8時に成田に向けて出発した(医師2人を含む総勢35人)。
中国政府の救助隊が、13日に日本に到着し、宮城県で救助活動を行ったのは報じられた。しかし、同じ日に到着した台湾の捜救隊の、岩手県大船渡市を中心とする活動についてはあまり報じられていない。
大災害が発生した後、復興までに三つの段階をたどる。(a)人命救助と遺体処理、(b)生存者のための措置、(c)再建・復興策被災者の心のケア、だ。自身の体験をふまえて、日本政府の危機管理や首相のリーダーシップ、今後予想される問題点などについてアドバイスや感想を述べる【ここでは、数点を抜粋、要約する】。
(1)初動
諸外国では、大災害には必ず軍隊が出動する。台湾大地震でも、国軍がその任務を遂行した。大地震は午後1時47分に発生し、台湾北部一帯は停電した(原発3基は緊急停止した)。まもなく震源地にもっとも近い軍司令部が前進指揮所を確保した、という連絡が入った。地震発生から13分後の午後2時、行政院(内閣)内に対策本部を設置した。人命救助優先、電力供給の確保など9項目の対応策を決定した。
翌朝6時、李総統(当時)は台北をヘリで出発。被災した人民の声を聞き、指揮中心(救援センター)で兵士や民間の消防団などを激励した。そのとき、常に二人が帯同した。国軍の参謀総長(日本の自衛隊統合幕僚長に相当)および総統府の秘書長(同、官房長官)または副秘書長だ。自分の目で被災地の現状や被災者の窮乏を把握し、その場で直ちに、参謀総長や秘書長を通じて国軍や行政に指示した。
「私は、国のリーダーは、国民を第一に考えるべきだと思っている。これが民主主義だ。これが自由の国が持つ姿勢だ。この視点を忘れたら、指導者としての資格はない。その点、菅首相は被災地でヘリから降りて、被災者の声に耳を傾けなければ問題は解決しない」
こんなときだからこそ、政治のトップに立つ首相は、毅然として、将来のビジョンを示しながらリーダーシップを発揮していただきたい。
(2)被災自治体の支援
被災した自治体は、救済対策や住民サービスにおいて限度がある。金融機関は被災直後には機能しないことが多く、自治体にも予算がないからだ。
台湾大地震では、中国国民党(当時の主席は李登輝)から3億元(9億円)を持参し、村ごとに直接分配した。県を通して資金を渡すと、途中で滞ってしまって末端の自治体まで行き渡らないからだ。日本も、政府が救済資金を直接自治体に現金で配分してはどうか。自治体は、必要な物資を購入できるし、その資金を復興に役立てられる。
たとえば、台湾大地震のとき、被災者のうち希望する者には、復興や再建のための公共事業に従事させ、日当千元(3,000円)を支払った。労働の手段を失った被災者は生活費を稼げるし、自分たちの街を自分たちで再生できる。“一石二鳥”の効果がある。さらに、働く被災者は、心のケアにもなる。
日本でも検討する価値はある。
(3)被災児の教育
親兄弟を失った子どもたちが就学の機会を失わないよう、篤志家や実業家の皆さんは、奨学資金や児童養護施設に寄付してほしい。被災した子どもたちは、教育を受ければ、将来きっと日本に役立つ人材に育つだろう。ノブレス・オブリージュとは、高貴な人には社会的な義務が課せられているという意味だ。日本の高貴な人こそ、被災者の教育について考えてほしい。「人材こそ、日本の宝なのだ」
(4)総括
「今回の大震災で日本の復興を危ぶむ声もあるが、日本は再生するに決まっているではないか。ただし、それには条件がある。それは、国や国民を第一に思う、いい指導者に恵まれるかどうかにかかっている」
以上、李登輝(台湾元総統)「台湾は日本の恩義を忘れない」(「文藝春秋」2011年5月号)に拠る。
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