語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】福島第一原発事故に係る自民党の責任

2011年04月10日 | 震災・原発事故
田原総一朗 民主党とのやり取りや復興対策についてはあとでまた話していただくとして、今回は地震・津波の被害そのものもさることながら、福島第一原発で事故が起こってしまったことが事態を複雑にしました。この点も「阪神」との大きな違いです。事故の一報を知ったときには、どう感じました?

石破茂 我々は東海村JCO臨界事故(1999年)や、新潟県中越沖地震(2007年)時の柏崎刈羽原発の事態も与党として経験しています。大きな地震などに見舞われた場合、原発は原子炉の停止→冷却→放射性物質が飛散しないよう封じ込める、という手順で、安全が確保される仕組みになっています。柏崎はこのシステムが完璧に作動したために、放射能汚染などの問題は起こりませんでした。今回も、あれだけ大きな地震だったにもかかわらず、制御棒が作動して発電が停まったということでしたので、少なくともチェルノブイリのように炉心が爆発して高濃度の放射能が広い範囲に拡散するといった最悪の事態にはならないだろうという認識は、当初からありました。
 ただ、まさか冷却装置の非常用電源が働かなくなるとは・・・・。原発は、何らかの障害や誤操作などがあった場合に必ず安全側に制御する「フェールセーフ」機能に完全に守られていると思っていたので、燃料が流されディーゼル発電機が使用不能になるなどの事態は、まさに想定外。

田原 石破さんから見ても想定外?

石破 1985年に御巣鷹山にジャンボジェット機が墜落したときにも、当初は、「安全なはずの飛行機がなぜ落ちたんだ」という議論になりました。調べてみたら、過去に機体の後部を滑走路にこする尻もち事故を起こしていて、ボーイング社の修理が不完全だったことが、事故につながった。システムは完璧でも、人間がミスをすると想定外のことが起こる。

田原 明治29年(1896)の三陸沖地震では、やっぱり14、5メートルの津波が来たという記録が残っています。岩手沿岸での話ではありますが、福島第一原発をつくるときに想定した最大の津波が4~5メートルというのは、甘かったのではないですか?

石破 その点は認めざるをえませんね。(下略)

 以上、石破茂(自民党政務調査会長)/田原総一朗(聞き手)「福島原発は政府による災害だ」(「中央公論」2011年5月号)から引用した。

   *

 内閣府「原子力安全委員会」は、「発電用軽水炉の安全設計審査指針」(90年)の解説に、長時間の全電源喪失について「考慮する必要はない」と明記している。
 理由は、「送電線の復旧または非常用交流電源設備(非常用ディーゼル発電機)の修復が期待できるため」。国は、外部電源を失ってもすぐに非常用発電機が作動すると想定してきた。各原発は、同指針に基づいて設計されている。

 以上、記事「全電源喪失、国は『考慮する必要はない』と解説」((2011年4月9日08時33分 YOMIURI ONLINE)。に拠る。

   *

 米研究機関は、1981~82年、福島第一原発1~5号機と同じ沸騰水型「マークI」炉(米ゼネラル・エレクトリック(GE))について、全電源が失われた場合のシミュレーションを実施し、報告書を米原子力規制委員会(NRC)に提出した。NRCはこれを安全規制に活用したが、日本は送電線などが早期に復旧するなどとして想定しなかった。
 外部からの交流電源と非常用ディーゼル発電機が喪失し、非常用バッテリーが作動するという前提の試算では、
 (a)バッテリーが4時間使用可能・・・・停電開始後5時間で燃料が露出、5時間半後に燃料は485度に達して水素も発生、6時間後に燃料の溶融開始、7時間後に圧力容器下部が損傷、8時間半後に格納容器損傷。
 (b)6時間使用可能・・・・8時間後に燃料が露出、10時間後に溶融開始、13時間半後に格納容器損傷。

 福島第一のバッテリーは8時間使用可能でシミュレーションと違いはあるが、起きた事象の順序はほぼ同じ。
 また、計算を当てはめれば、福島第一原発の格納容器はすでに健全性を失っている可能性がある。

 日本では全電源が失われる想定自体、軽視されてきた。
 原子力安全委員会は、原発の「安全設計審査指針」(90年)を定めた際、「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」とする考え方を示した。
 原子力安全研究協会の松浦祥次郎理事長(元原子力安全委員長)はいう。「何もかもがダメになるといった状況は考えなくてもいいという暗黙の了解があった。隕石の直撃など、何でもかんでも対応できるかと言ったら、それは無理だ」

 以上、記事「原発の全電源喪失、米は30年前に想定 安全規制に活用」(2011年3月31日16時39分 asahi.com)に拠る。

   *

 日本で、この凶器とも言うべき原発の「安全神話」を主張し、かばい続けたのは自民党政権であり、それにまつわりつくゼネコン利権であることは周知の事実だが、今回の惨事について、自民党から「責任」を認めて詫びる言葉は、全く聞こえてこない。日本を政治責任意識欠如の国にした最大の責任は、誰よりも、50年にわたり政権を握っていた自民党にあることは明らかではないか。 

 以上、坂本義和(東京大学名誉教授、国際政治学・平和研究)「人間のおごり」(「世界」2011年5月号)から引用した。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【震災】放射能と放射線 ~専門家による情報操作~

2011年04月10日 | 震災・原発事故
 地震、津波、原発事故・・・・事態を正視しないままやり過ごそうとする関係当局の人間の容易な態度、専門家たる科学者・技術者の社会的責任意識の欠如が目にあまる。
 原発については、「想定」が甘かった。危機感に欠けた想定しか、してこなかった。こと原発に関しては「想定外」という言い訳は通用しない。
 いかなる建造物も、ある限界強度までしか安全性が保証されない。工期と予算の制限、あるいは実用上の便宜のために、やむをえず限界を設定しているのだ。人工の建造物は「妥協」の上に成り立っている。
 今こそ科学者・技術者の社会的責任を問い直すことが必要だ。一般公衆より科学や技術の限界をよく知る科学者・技術者は、それについて正直に語らねばならない。

 放射線防護について、事態を正直に語る専門家がいない。専門家に、本来あるべき措置を毅然と語る態度が見られない。
 放射線のレベルが上がったjことで、政府は便宜的に危険容量の規制値を上方に修正した。専門家が、それを易々と許容するのはいかがなものか。規制値は、放射線防護国際委員会(ICRF)が討論を重ねて定めた。にもかかわらず、「安全係数がかかっている」と、引き上げを許している。何のための規制値なのか。
 「放射能と放射線の違いの意図的な混同も許せることではない。セシウムやキノセンという原発由来の放射性物質が空中や水道水や海水に検出されたことは、放射能が広く散布・拡散していることを物語っている。にもかかわらず、『レントゲン検査で受ける被曝量の90分の1だから健康に影響はない』『安全である』という言明ばかりである。しかし、それは間違っている。放射能が身辺にあって、それから放射線が出続けているのだから、常に放射線を浴びている状態にあるからだ。さらに、その一部は体内に入ってくるから内部被曝となり、放射能が体外に排出されるまで放射能を体内から浴び続けることになる。それを恣意的に言わず、1時間当たりの放射線量(マイクロ・シートベルト単位)を使ってごまかそうとしている。さすがにホウレンソウや牛乳が出荷停止となったが、それは葉に放射能が付着し牛の体内に取り込まれていることが明白である(実際、放射能の量を表示するベクレルの単位が使われている)ためである」
 かかる意図的な情報操作も、人々を不安がらせないために「配慮」しているつもりだろうが、それでは後年、放射線障害が頻発することになりかねない。放射線防護の専門家はきちんと説明し、人々が科学的に理解するよう働きかけねばならない。
 そして、ICRPの数値を上回る事態になれば、避難勧告を躊躇してはならない。それが専門家の社会的責任だ。私(池内了)なら「乳幼児は避難させるべきだ」と言い、「現在地のままなら大人は避難しなくて良いが、今後上昇し続けるなら避難も考えておくように」と言う。一時的な混乱はあっても、最悪の事態となって大パニックになるのを避けることができる。
 現状をリアルに見つめて対策を検討し、施策を政府に求めることが必要だ。

 以上、池内了(総合研究大学院大学教授)「専門家の社会的責任」(「世界」2011年5月号)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【社会保障】【震災】大規模災害が東京の高齢者に与えた影響

2011年04月10日 | 震災・原発事故
 大地震の影響は、東京に住む高齢者にも及んだ。
 その影響は、震災が介護保険法上の各事業所に与えた影響を通して増幅された。ここでは、主として訪問介護事業所に与えた影響をみる。

●人手不足
 ある独居高齢者宅では、地震によりガラス窓が割れ、部屋中に破片が散乱した。自分で片づけるのは困難で、ヘルパーが来る日までそのままにしておいた。
 その高齢者は、緊急にヘルパーを依頼したのだが、事業所は急な対応ができなかった。ヘルパーの多くが交通機関の混乱により通勤に支障をきたしていたからだ。十分な人手が確保できなかった。しかも、急に支援ニーズが増えた。
 23区の訪問介護事業所は、他の勤労者と同様、働いている人の半分以上が埼玉や千葉といった近郊に住んでいる。通勤に1時間以上かかる。このたび、自転車で1時間半以上もかけて通勤した人もいた。
 無理をして帰宅せず、事務所に泊まるヘルパーもいた。翌日に予定されていた高齢者のケアに備えるだめだ。重度の独居高齢者は、ケアできない日が一日でもあれば、食事介助が行われず、水分補給もできず、生命維持に問題が生じる。排泄介助が行われないと、便や尿によって皮膚疾患を招く可能性もある。

●仕事量の増加
 震災直後のケアで困ったのは、スーパーに買物に出かけても、品物がなく、探すのに苦労したことだ。米、パン、牛乳、卵、冷凍食品がなかった。食事を提供する材料がない。ために、うどんなど麺類で代用したこともあった。
 紙オムツも売り切れてしまい、やむなくサイズの違うもので我慢してもらったケースも出た。
 かくて、ケアの時間がタイトなものになった。通常は90分で済むのだが、買物のため何軒も回らなくてはならなくなり、予定時間がどんどん経過し、慌ただしく調理して食事を提供することになった。高齢者とほとんど会話する間もなく、次の高齢者宅の支援に行くことになってしまった。

●労働環境の悪化
 21時間対応のヘルパー事業所では、深夜帯に女性ヘルパーが自転車で街中を移動すると防犯上の問題があるため、軽自動車で高齢者宅を回る。しかし、ガソリン不足で自動車が使えず、深夜帯でも自転車でケアに回ったヘルパーがいた。
 このような状態でいつまで頑張れるか・・・・とあるヘルパーはつぶやく。

●通信網の寸断
 ヘルパーやケアマネージャーにとって、今回の地震の影響でもっとも困ったのは、携帯電話がつながりにくことだった。独り暮らしの高齢者や老夫婦世帯は、不安から電話をかけてくることがあるが、電話がつながりにくいことで精神的にストレスに陥り、その苦情をヘルパーやケアマネージャーに言う高齢者がいた。

●サービスの提供中止
 デイサービスが、ガソリン不足によって休止状態になった。送迎車が運行できないからだ。
 入浴できない高齢者が困った。1週間以上も入浴しないでいると、衛生上問題が生じ、疾患の原因にもなる。特にオムツかぶれなどの心配が生じた。
 自宅の風呂場では、車いすから浴室に移るのが難しい。車いす状態だった高齢者が少し無理をして、自分で入浴し、転倒。寝たきりになった、というケースもある。

●生命維持の危険、家計負担の増大
 停電の際、数時間、自家発電機で代替した医療機関がある。しかし、ガソリン不足によって、燃料補給が難しく、次の停電に使用することができなかった。自家発電機があっても、ライフラインが麻痺すると、限られた時間しか対応できないのだ。2、3時間はともかく、長時間になると深刻になる。
 停電になると、在宅酸素療法の医療機器が使えず、生命の危険が生じる。運よく病院に空きベッドが見つかり、2週間程度入院したケースもあった。しかし、入院に伴う医療費は、厳しい家計においては負担になる。

●総括
 今回の震災は、首都圏でもライフラインに深刻な状態をもたらした。これを教訓に、ライフラインが麻痺した際にどう対応するべきか、対応策を決めておく必要があろう・・・・と結城康博淑徳大学準教授は結論する。

 以上、結城康博「東日本大震災と大都市に住む独り暮らしの老人 ~医療・介護はカネ次第!NO.129~」「サンデー毎日」2011年4月10日増大号)、同「大規模地震と介護現場 ~医療・介護はカネ次第!NO.130~」(「サンデー毎日」2011年4月17日増大号)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする